上司からの呼び出し
それは、突然の話だった。
10月に入って、上半期決算の棚卸しが終わって少し落ち着いた頃。いきなり上司に呼ばれた。俺の中で上司って言うのは、一緒に働いてる係のリーダーなんだけど、呼ばれた部屋に入ったら、そこには、その上司のさらに上がいた。俺が作ってる製品の製造部の部長。この話を読んでくれてる人に上手く伝わる書き方が出来てないかもしれないけど、この上は工場長になるから、この製造部長っていうのは、普段は関わることもないような人。あと、他には工場内の総務課長。
あれ?なんで?俺、何かやらかしたかな。一瞬身構えてしまった俺を見て、工場長が緊張するなと声をかけてくる。
「突然呼び出して驚かせたね。最近はどうだ?普段の仕事も、昇格試験も、頑張ってると聞いているよ」
当たり障りのないことを言われるが、呼び出された理由に心当たりがない身としては、気が気でない。
「実はね、少しの間、中国に出張に行ってもらえないかと思ってね」
「...は?」
予想もつかない言葉に固まった。
なんと、3月まで俺を指導してくれていて、4月から中国の工場に赴任していた先輩が、慣れない生活に体調...というか、主に心を壊してしまって、勝手に帰国してしまったらしい。帰ってきてから医者の診断書を出して会社にも出勤してないとのことだ。
工場内や、製品に関わる営業では噂になってることもあって、大島君も耳にしてるかもしれないが...などと言われたが、寝耳に水だ。思えば、ここ最近は、かなが大学の夏休みってこともあって、昼休みはずっとかなとメールしてたし、営業部との会議の後の飲み会も、かなと約束があったから参加しなかったから、会社の噂話なんか全く入って来なかった。世話になってた先輩のことなのに、全然、知らなかった。
製造部長によると、中国の工場で作ってるのは、俺や先輩が担当してる製品と同じもので、同じレベルのものを作るように指導できる人材が必要らしい。俺は当然のことながら先輩よりも経験は足りないが、先輩からみっちり仕込まれてることを見込んで、とりあえずの穴埋めに数ヶ月だけ行ってほしいということだった。
その間に、人事で、同じ製品を作ってる他工場か研究部門か、とにかくどこかから、先輩レベルの社員を見つけて正式に駐在員として赴任させるののことだった。
正直驚いたけど、これだけ上の人がいる中で頼まれて、断わることなんて出来る雰囲気じゃなかったし、夏休みに行きたかった海にも行けて、かなとも遊びに出掛けたわけではないけどたくさん会えて、昇格試験もやるだけやって結果待ち状態で、棚卸しも終わったばかりで。とにかく、何かやりかけで、とか、心残りでってことがちょうど何もなかったから、俺は、わかりましたと答えて。
それで、すぐに中国に行くことになった。
かなには、しばらく海外出張することになったから、連絡が取れないとだけしか伝えなかった。
だって、本当に、ただのピンチヒッターとしか思ってなかったし、バタバタしてて忙しかったから、連絡しただけでも十分だろと思っていたから。




