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あの頃の夏のこと

映画を観に行った日が最後のテストの日だったようで、それからかなは夏休みに入った。とは言っても、俺は普通に仕事があるから、しょっちゅう会うわけにはいかなかった。


それに、かなは、来年は就職活動の準備でインターンもやってみたいから、その分、演奏活動を頑張ると意気込んでいて、すでに、週末はあちこちで演奏活動の予定を入れてるようだった。


すでに予定けっこうな予定が入ってるとは言えども、それでもかなは、俺に会いたいと連絡をくれた。そこで素直に時間を作れば良かったんだけど、かなの優先順位は演奏活動が何よりで、俺に予定を聞いてくるのは、当然、演奏の本番や練習がない日ばかりで。それが何となく気に入らなくて、俺にだって、昇格試験に向けた課題があるだとか、スキューバダイビングで今よりも上のライセンスを取りたいとか、やらなきゃいけないことがそれなりにあるとか言い訳をして、きちんと時間を取ることはしなかった。


だから、かなに会うのは、金曜にある営業部との会議の後が多かった。先輩から引き継いだ時は月に一度の開催だったけど、ちょうど、新製品の稼働に向けた話し合いが大詰めに入っていて、開催頻度が上がってた。前に少し書いたかもしれないけど、普段俺は郊外の工場で働いていて、その会議がある日は、営業部がある事務所まで出張に出てくる。で、その支店が、かながバイトしてるキャバクラから割と近い。かなは、夕方店が開く前の時間に店のグランドピアノを自由に使わせてもらえることになっているらしくて、その開店前の練習時間と、演奏が始まる時間までが空き時間になる。そこを利用して、俺たちは一緒に飯を食べたりしていた。飯の後、店までついていこうかと話したことも何度かあったけど、かなは、俺が仕事後で疲れてることや、店だと金がかかることを気にしてくれて、それで、俺は店まで同伴せずにかなの部屋で帰りを待った。待つ間は、昇格試験の課題を片付けたりしてた。いや、かっこつけてみたけど、実際は、ただかなのベッドでごろごろしてただけの日も多いかもしれん。夜中にかなが帰ってきてからは、タバコ臭くなったかなが急いで風呂に行って、シャンプーのいい匂いになったかなの髪を乾かして、そのまま抱きしめて、で、一緒に寝る。そのまま俺は土日休みに入るわけだけど、かなは土曜の昼は演奏活動をすることが多かったから、かなの出る時間に合わせてアパートを出て、一緒に地下鉄の駅まで行って、途中まで一緒に乗ってバイバイってするのがたいていのパターン。で、逆に平日は俺は仕事があるから、かなとはなかなか会えなくて、でも、昼休みはずっとメールしてた。セキュリティ上の問題で、職場に携帯は持ち込めないから、昼休みになった途端にダッシュで更衣室行って、携帯取ってきて、食堂では時間が許す限りの長文メール打ってた。仕事終わってからも、ダッシュで更衣室行って着替えて、駐車場の車の中でかなに仕事終わったって報告のメールしてた。


うわ、思い出しながらだらだら書いてたら、改行も何もない文章になってた。ここまで読んでくれて人には、本当、感謝しかない。いつか読み返したときに直すかもしれないけど、今は、とりあえず思い出したことだけをそのまま書くわ。


まあ、こんな感じの夏だったから、前みたいにドライブして他県の水族館に出掛けたりとか、映画を観に行ったりとか、そういうことはなかったけど、俺は、すごく楽しかった。かなのこと以外でも、お盆休みは、スキューバダイビングの少し上のライセンス取って、秋のいいシーズンに行きたい海に行けるってめっちゃテンション上がってた。


あの頃、例えば、営業部との合同会議の後にある飲み会に参加するとか、昼休みや仕事終わりに工場の誰かときちんと話せていたら。


今さらそんなこと言ってもしょうがないんだけど、もしも、俺が周りの変化に気付いていたら。


かなと離れることは避けられなかったにしろ、今とは違う未来があったんじゃないかと思えて仕方がない。

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