テスト明けの約束
かなと映画を観に行く約束をしてからしばらく経って。ついに、この日がやってきた。
しばらくって書いたけど、実はけっこうな日にちが過ぎていて。テスト前とテスト期間を合わせた日にちだから妥当な日数なんだけど、俺の中ではかなりの日数って感じだった。
テストの最終日、昼前のコマで終わるとのことで、俺は、かなの大学とアパートの中間くらいにあるコンビニで車を停めて待っていた。今日のために休みを取った。かなは、わざわざ休みを取らなくても、映画に行くのは週末でもいいんじゃないかと言ってくれたけど、俺が我慢出来なかった。
本当は大学の前で待って、かなには俺がいるんだって見せ付けてやりたかったけど、車を停めるようなところはなかったし、余裕がなくてカッコ悪いようにも思えて、結局、こうしてコンビニの駐車場にいる。
テストが終わる時間になって、かなが来るであろう方向をそわそわしながら見つめる。大学は広いだろうから、あと10分、いや、15分かと考えていたとき、視界に、やわらかな茶色のおかっぱ頭が飛び込んできた。駆け足で近寄ってきて、助手席のドアの外に立つ。
慌ててドアを開けると、かながよじ登ってきた。走ってきたからか、少し息が弾んでいる。
どうやら、テストが終わる少し前に、途中退席してきたようだ。
「終わるまでいると、回収して、枚数確認してって時間かかっちゃうから。だったら、少し早めに出ようかなと思って。あ、ちゃんと埋めてから来たので、単位は多分大丈夫なはずですよ!」
そう言って、鞄の中からお茶を取り出してごくごくと飲む。
「...そんな焦らなくても、映画の時間までまだだ余裕あるのに」
俺がそう言うと、かなはお茶をしまうためにか鞄を開けけるために少しうつむいて、少しでも早く会いたかったから、と呟いた。
うつむいたままだから表情は分からないけど、かなの耳が少し赤くなってるのが、ものすごくかわいい。つい、手を握ってしまった。
その後出かけたシネコンでは、俺たちが見たかった映画はまあまあ混んでいて、そして、この前話したペアシートはないシアターだった。ちょっと拍子抜けしたけど、普通の席で隣に座る。
女の子と二人で映画を観るなんて、すごく久しぶりだ。前は、飲み会で知り合った子で、行きたいって言われたから付き合っただけで、ぼーっと観ただけで終わってしまった。今日はあんなふうに終わらせるわけに行かない。でも、どうすればいいんだ?こういう時って、手とかつなぐのか?悲しいかな、経験値の少なさから、分からん。
こんなふうに、始まる前はいろいろ悩んでたけど、始まってからは、世界中の海と魚たちに夢中になってしまった。かなと一緒にいるのは分かってたけど、いつの間にか気にならなくなってた。
エンディングが終わって明るくなって、余韻に浸ってると、隣から手をつつかれた。
「大島さん、夢中になりすぎです。でも、楽しかったですね」
かなが指さしてるのは大量に残ったポップコーンだ。しまった。夢中になりすぎて食べるの忘れてた。
「これ、ビニール袋とかもらって持って帰れないですかね~」
とか首を傾げてるかながかわいい。
映画の後はレストランでも寄るかと考えてたのに、結局、その残ったポップコーンのせいで寄れなくて、少し車を走らせて港に行った。海を観ながらポップコーンを食べて、映画のことをいろいろしゃべった。
もっと一緒にいたかったけど、連日続いたテスト明けということもあって、かなは少し疲れてるように見えたから、食べ終わったらアパートに帰すことにした。
まだ元気だと口を尖らせるかなに、じゃあもっと元気になったらと次の約束をして、車から降ろす。当たり前に出来る次の約束が、妙にくすぐったかった。