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アルバムの返却

「はい、どうぞ」

そう言って俺の前に置かれた缶ビールを、無言で見つめたまま固まる。


「あれ?大島さん?」


名字呼びに戻ったことで、固まっていた身体からふっと力が抜けた。


「あ、ごめん。聞いてるよ。ていうか、かなさん、勝手に開けてるし。店でもビールは苦くて飲めなかったんだから、俺が飲むしかないじゃん。はい、乾杯」


そう言い訳して、ビールを持って、かなの目の前のチューハイに軽くぶつけ、ビールを一気にあおる。かなは、勝手に乾杯した俺に不満な顔をしていたが、大人しく両手で缶を持って、こくりと飲んでいた。


「おいしいけど、ちょっと甘いかも。さっきの桃のお酒のほうがおいしかった」


「気に入ったんなら、また飲みに行けばいいよ」


「本当?またっていつ?」


「俺とかなさんで予定が合うとき」


俺がそう言うと、かなはやっと笑顔になってくらた。機嫌がよくなってるうちに、早く帰ることを告げないと。


「だから、今日は俺、このビール飲んだらもう帰るから。写真の感想も聞きたいけどさ、もう遅いし、帰るから」


そう言ってかなが出してきたアルバムを、カバンに仕舞おうとしたら、かなが慌てて缶を置いて、アルバムに手を伸ばしてきた。


「まだ帰っちゃダメだよ!もっとお話しよう?」


あー。やっぱりかわいい。俺だって飲んで酔ってるし、このままだと絶対なんかやらかす。


「ダメ。もっと話はしたいし、現に家にいる状況で言うのも何だけど。俺だって飲んで酔ってるし、このままいるのはまずいんで、帰ります」


ここまで言っても、まだかなはアルバムを手放さない。


しょうがないから、ちょっとからかうように聞いてみる。


「それとも何、かなさん、このまま俺がずるずる居座って、海の写真の話も終わって、まだ帰りたくないって言ったら、このまま泊めてくれるわけ?」


かなの手にぎゅっと力が入るのがわかる。緊張させてしまったらしい。でも、ここまで言えば、さすがにドン引きしてくれるだろう。


...あれ?


しばらく待っても、かなはアルバムを持った手を放さないままだ。しかも無言でうつむいてる。まさか、座ったまま寝てる?一瞬、そんなことまで考えてしまった。


「...よ」


よかった、寝てはいなかったらしい。でも、声が小さすぎて、何を言ってるかは聞き取れなかった。


「ごめん、何?小さくて聞こえんかった」


聞き漏らさないように、少し背をかがめる。


「...だから、帰りたくなくてもいいですよ」


は?


俺は最初、かなが口にした言葉を理解できなかった。しばらく考えて、やっと意味が分かって、また固まってしまう。


「あのさ、今のって、そういう意味に取ってもいいの?」


「そういう意味がどういう意味か分かりませんけど、多分、大島さんの思ってることと同じ意味だと思いますよ」


ヤバい。もともと酔ってた身体が、さらに熱くなる。かなの言葉だけで、身体が反応してしまうのがわかる。


「あのさ、かな...って、呼んでもいい?そういうことするなら、さん付けじゃなくて呼び捨てしたい」


努めて冷静に言おうとするが、声はかなり上擦っていたと思う。


「別にいいですよ」


何でもないような振りをしてるかなの声も少し震えている。アルバムを持ったまま2人で向かいあってるから、とりあえず、かなの手を掴んで、アルバムから外させる。ずっと下を向いたままのかなが、やっと顔をあげて俺を見てくれた。


アルバムを机の上に置いて、アルバム1冊分の距離を詰める。かなは一瞬びくっと構えたけど、そのまま目を逸らさないでいてくれたので、そのまま、ぎゅっと抱き締めてみた。


「...苦しいです」


俺の腕の中で文句を言うかながかわいい。抱き締めてるせいで見えないけど、今かなはどんな顔をしてるんだろう。


「じゃあ、少し離れていい?」


そう言って少しだけ力を緩めると、かなは、俺の腕の中で少し身動ぎして、顔を上げる。目が合うと、照れて視線を外す。ヤバい。いけないところがさらに反応してきた気がするので、俺からもちょっとだけ距離を取ることにする。結局、さっきと同じくらいの、アルバム1冊分の距離に戻ってしまった。


俺をじっと見上げてる顔に触りたくなって、頰に手を伸ばす。ふにふにしてすごく気持ちいい。


「ヤバい、かなのほっぺたってめちゃくちゃ気持ちいいね。これならずっと触っていられる」


そう言って何度かやわやわと摘まんでいると、手の端が唇に触れてしまった。そこは頰よりもさらに柔らかくて、酔いも手伝って、勢いでそのままキスしてしまった。そうしてしまったら、もう止まらなくて、あとは、まあ、書いてると規制されそうなので書かないけど。


そのまま俺はかなの部屋に泊まっていくことになった。

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