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酔っ払いとコンビニに寄る

「お客さん、もうすぐ設定したコンビニに着くみたいですよ」


タクシーの運転手にそう声をかけられて、隣ですやすやと眠るかなに声をかける。何度か呼び掛けても全く起きないので、しょうがなく肩をそっとゆする。


「かなさん、もうすぐこの前待ち合わせたコンビニに着く。かなさんの家、ここの近くなんだよね?案内出来そう?」


そう声をかけると、不機嫌そうに目をこすっていたかなが、俺を見てくれた。


「コンビニでいいです。まだ飲み足りないので、買い足してから帰ります」


「え?まだ飲むの?酔ってるし、もう止めようよ」


「大丈夫です!弱めの缶チューハイとかにしとくんで。運転手さん、コンビニまでお願いしますね」


そう言って、勝手に行き先をコンビニのままに決めてしまう。到着したコンビニの駐車場でとりあえずお金を払って、かなをタクシーから引っ張り出す。その次に、奥にあったカバンを取り出そうとしているうちに、かなはふらふらと歩きながらコンビニの中に入っていってしまった。慌てて追いかけるが、すでにかなは、コンビニの棚の前にいて、チューハイの缶を両手に持ってにこにこ笑っていた。


ふらふら歩いてたくせに、なんでこういう時だけ行動が素早いんだよ!


内心でだけ文句を言いつつ、かなを宥める。


「かなさん、それ、棚に戻して、今日は家に帰ろう。どうしても飲みたいなら、ノンアルのジュースを買ってあげるから」


「えー、もうこれ持っちゃったから、返しませんよ」


「えーじゃなくて。心配だから、お酒止めようよ。俺の言うこと聞いてくれん?」


「えー、嫌ですよ。そんなに心配なら、大島さんが見守ってくれたらいいじゃないですか」


「いや、俺はアルバム返してもらったらすぐ帰るから」


「えっと、大島さんはビール派ですよね。どれがいいのかな?」


かなは俺の話なんて聞かずに、チューハイの棚の隣にあるビールの棚の前へとずれる。


「大島さん、コンビニなのに、なかなかの品揃えですよ。何がいいですか?」


ダメだ。全然話を聞いてくれない。これは、少しだけ付き合って、かなが家で落ち着いたところを見届けてから帰ろう。そう決めて、缶ビールを1つだけ選んで手に持つ。


「なんで1つなんですか?少ないですよ」

「少なくないよ。君の荷物も持ってるから、片手しか使えないの」

「あ、本当だ。ありがとうございます。じゃあ、いっぱい持てるように、カゴ、持ってきますね!」

「いや、いいから!手に持てるだけしか買わないよ!」


必死で説得して、チューハイ2缶とビール1缶だけを持ってレジに行き、会計を済ませ、店を出る。ここから家までちゃんと案内してくれるかどうか不安だったが、コンビニから数分で、かなの住んでいるアパートに到着した。


「はい、到着~」


そう言って開けてくれたドアの先には狭い廊下とキッチンがあって、その奥に部屋があった。よくあるワンルームの部屋だ。


部屋の端には小さな電子ピアノがあって、真ん中に机とパソコンが置いたままにされていた。ベッドはなくて、ロフトがあったから、多分、ロフトの上で寝てるんだと思う。


「大島さん、ここに座って」


かなはクッションと座布団の中間のような敷物を引っ張ってきて、パソコンと対角になるように置く。玄関で突っ立ったままでいるのも微妙だし、俺は、勧められるままに座ろうとしたら、先に、キッチンで手を洗うように注意された。酔ってるようで、意外に細かいらしい。


「大島さん、おつまみ、甘い系がいいですか?それともポテチとかしょっぱい系?」


そう言いながら、かながごそごそと棚からお菓子を出してくる。


「レポート書くときにお腹すいちゃうから、いろいろあるんです」


そう言って袋を開けてくれようとするところを何とか止めて、かなにも座るように勧める。


「かなさん、俺は、アルバム返してもらいにきただけだから。腹もいっぱいだし、かなさんが落ち着いたら帰るから、つまみは出してくれなくてもいいよ」


そう言うと、かなは急に大人しくなり、楽譜や教科書などが並べられた棚から、俺のアルバムを取り出して、目の前に差し出してくれた。

「...長い間お借りしたままで、すみませんでした。ありがとうございますした」


「いや、そんなふうにうなだれて返してもらうつもりなんてなかったから!別に俺怒ってないよ。心配してるだけだからね?」


なんとか機嫌を取ろうと、必死で話しかけるが、かなはうつむいて黙ったまま。あーもう、何この面倒な酔っ払い!


「かなさん、アルバム、ちゃんと見てくれてありがとうね。俺、かなさんが俺の撮った写真についていろいろメールしてくれるのすごく嬉しくて、読むの楽しみにしてた」


そう言うと、やっと、顔をあげてくれる。


「じゃあ、メールじゃなくても、直接、お話してくれますか...?」


はあ!?何言ってんだってくらい破壊的抜群な上目遣いに、思わず目を逸らせてしまった。


「...大島さん?」


今度は俺がかなの目を見れない。

ヤバい。何か言わなきゃ。


たまたま、机の上のレポートとパソコンが目に入るから、咄嗟にそれを言い訳にする。


「写真の話するって言っても、今、机の上いっぱいだからさ、無理だよね」


「あ、そうですね。すぐどけます。そしたら大丈夫ですね。じゃあ、大島さん、そこ、座っててください」


しまった。自分で言ったことで自分の首を絞めてしまった。かなとアルバムの話をする流れになってしまった。






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