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見栄を張りたかったから

いきなり飛んで夏になっちゃったけど、その前に、かなとのメールのやり取りについて、もう少し書かせてください。


かなにアルバムを渡してからしばらくは、必ず毎日というわけではなかったけど、メールのやり取りは続いていた。


お互いに書くのは本当になんてことない内容。おはようやお休みなさいの挨拶や、テレビでみた面白いニュースとか、そういうの。なぜか電話はしなかった。かなの声を聞きたいとは思うんだけど、声を聞くと、今度は会いたくなってしまうだろうから、我慢した。かなは、しばらくは忙しいようだったから。


前はけっこう強引に約束を取り付けていたんだけど、忙しいとはっきり言われてしまうと、そこからは誘えなくなった。でも、『暇になったら教えて』とも言えなかった。なんていうか、かなの暇潰しにされるのは嫌で、俺に会いたいと思うかなに会いたかったからだ。


時々、アルバムを返せないことを謝られることはあっても、空いてる日を教えてくれることはなかった。あー、会いてえなあと思うんだけど、やせ我慢して、かなのメールに返信してた。


さっき書いたように、最初は本当に何気ないことばかり書いてたんだけど、そのうち、格好つけたくなって、俺は、スキューバダイビングのひとつ上のライセンスを取るための勉強をしてることとか、昇格試験の勉強をしてることを書いてみることにした。あとは、勉強のことばかりだとつまんないかと思って、夕飯のメニューとか。夕飯って言っても、ビールのつまみばかりだけど。今だったらスマホで写真も撮るのかもしれないけど、当時は、写メとかいう画質の悪い写真が撮れるような機種の携帯が最先端で、俺の携帯はそういう当時の最先端機種じゃなかったから、その写メすらついてなかった。だから、ただ、メニューを書いただけのメールを送るだけ。今だったらSNSでいいねを押すだけで済むような内容に、かなは律儀に返してくれた。


そのうち、かなも、学食のメニューだとか、週明けまでにやらないといけなかった課題だとか、そういうことを書いてくるようになった。


たとえば、かなの大学はそれなりの規模があるのだが、国立大学ということもあって、学食はそんなに豪華ではない。だから、授業に空きがあるときは、自転車で近くの私立大学に行って、こっそり、そこの学食でお昼を食べてくるらしい。かな曰く、学食以外のところに行こうとしたとき、近所のいかにも学生向けという食堂は男子が多くて入りにくいし、おしゃれなカフェはおいしくても量が少なくて高いから無理だけど、他大の学食は、自分の大学の学食よりはちょっと高いけど、十分安いしメニューもいろいろあるからおすすめ、ということだった。それに、行くまでに坂道があって、いい運動になるそうだ。


あとは、文系学部だと思って入った経済学部では数学の授業があって、数学が苦手なかなには大変だったことも書いてきてくれた。そういう授業で課題が出たときは、同じクラスで高校時代に途中で理系から文系に変わった子、いわゆる理転の子に授業以外で教えてもらいながらなんとか提出したらしい。無事合格点を取れていたら、お礼として酒をおごることになっているから、出費だ~と泣いてる絵文字付きのメールが来てた。


試しにどんな課題だったのか聞いてみたら、俺も高専でやったことがある内容で、しかも、けっこう得意な分野だった。そのことを伝えて、俺だったらランチ付きで教えたのにと続けたら、俺に教えてもらえばよかったと悔しがっていた。


俺も、数学は嫌いじゃなかったから、久しぶりにやってもよかったんじゃないかと思った。しかも、かなと一緒なんて間違いなく楽しい。もっと早くこんなふうに話せればよかったのにと後悔した。


それからは、本当にいろいろメールに書いた。お互いに何をしてたかを言える相手がいるのはすごく楽しかった。見栄もあって、自分の勉強も頑張れた。頑張ったからか、スキューバダイビングのライセンスはわりとすんなり取れた。会社の昇格試験も、落ちるかと思った一次試験に通った。うちの工場で、3年目の高専卒で通ったのは俺だけだった。素直に嬉しかった。


そんな感じでかなとのやり取りは続き、その日も俺は、メールを送った。月に1度の会議で、営業支店に行くことと、ちょうど金曜日だったから、かなはキャバクラで演奏してるだろうから、頑張ってと付け加えた。


夕方、会議が終わって鞄の中の携帯を見ると、メールが届いていた。かなからだった。きっと、仕事お疲れ様と演奏してきますという内容だろうなと思って開くと、予想とは違うことが書いてあった。

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