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しばらくはメールだけで

アルバムを渡してからしばらくして、かなからメールが届いた。写真を見せてくれたことへのお礼と、気に入ってくれたらしい何枚かの写真について書いてあった。それから写真のことについて何度かメールのやり取りをしてるうちに、時間が遅くなってきて、『おやすみ』とメールを送る。それで、次の日になったら、かなから、『おはようございます』と『昨日はいろいろメール出来て楽しかったです。お仕事頑張ってください』のメールが届く。朝は返信する余裕がないから返さず、夕方に仕事が終わってから、俺から、『仕事終わった、かなさんも学校お疲れ様』と返す。それからしばらくすると、かなからメールが来る。学校であったことや夕飯のメニューなど取り留めもないことをやり取りして、また、『お休みなさい』で終わる。


そんなふうに、しばらくは毎日メールのやり取りが続いた。ただ、金曜日の夜はほぼ固定で、他にも予定が合う日はキャバクラで演奏しているらしく、そういう日はかなからメールが来ない。鳴らない携帯を寂しく感じつつも、メールが来なかった次の日の朝に、かなから『おはようございます』のメールが来るたびにほっとしていた。


アルバムの返却については、しばらくは週末が忙しいから少し待ってほしいと頼まれた。待つも何も、このアルバムはかなに見てもらいたくてまとめたものだから、いつになったっていい。何なら返さずにもらってくれてもいいんだが、それは言わずにおく。


どこかでコンサートをするのであれば俺も聴きに行きたいと尋ねてみたのだが、コンサートではなくて、結婚式で演奏するから俺は呼べないよと言われてしまった。ウェディングプレイヤーという仕事だそうで、にこにこと幸せそうに演奏をするかなにはぴったりだと思う。


土日のどちらかであれば空いている日もあるそうだが、練習や、学校の課題をする時間に充てたいそうで、本当なら早く返さないといけないのに申し訳ないと謝られた。ああ、この子は真面目な子なんだなと感心する。


毎日続くメールのやり取りで、かなのことをいろいろ知ることが出来ることが嬉しかった。本当はまたすぐにでも会いたいと思うんだけど、それと同時に、こういうやり取りもいいなと思う。とにかく俺は、かなと関わることが出来ればとにかく嬉しかったんだと思う。


俺のほうも、ただ会社に行って、スーパー寄って食材買って飯作って寝てただけじゃない。いや、先輩から仕事を引き継いだばかりの頃はそうだったんだけど。でもそれだけだとかなに話すネタがないし、仕事もだんだん慣れてきたってことで、俺も、新しいことを始めることにした。


新しいことっていうのは2つあって、1つはスキューバダイビングのこと。スキューバダイビングはいくつかの協会?みたいなのがあって、それぞれライセンスを発行してる。俺が通ってるショップが加盟してる協会では、ライセンスにいくつかランクがあって、俺が持ってるのはその中でも一番簡単な初心者向けライセンスだ。普通の海なら行けるんだけど、ちょっと難しい海や洞窟だったりは行けない。そういうところに行くツアーは、ライセンスがないから申し込むことすら出来ない。前から、もっといろんなポイントに潜りたいなとは思ってたんだけど、かなが俺の写真を褒めてくれたのもあって、1つ上のライセンスを取ることにした。


もう1つは、仕事のこと。俺は入社5年目で、ちょうど昇格試験を受けることが出来る年だった。大卒も院卒も、俺みたいな高専卒も、5年目から受けれる試験だ。あ、院卒は3年目からだったかもしれん、自分に関係ないからよくわからんけど。


俺の会社は変な会社で、普通なら、大卒と高専卒なら受けれる年度に差があって当然だと思うんだけど、専門分野に関しては高専卒は大卒と同等の知識を持つはずだからと、給料の上がり方や昇格試験のタイミングが一緒だ。高専にいたとき、大学に編入するか就職するか進路を迷っていたとき、うちの会社のこの制度を知って、就職試験を受けることにした。それでなんか知らんけど受かってしまったから、そのまま就職して今に至るというわけだ。


でも実際入ってみると、そんなのは建前で、高専卒と大卒には明らかに差があることに気が付いた。技術系総合職なんて名前がついていても、いい大学を卒業したやつが数年であちこちの工場を異動して出世していき、高専卒は、極一部の優秀な人だけはそれなりに出世するけど、ほとんどは、採用された工場内で、似たような仕事を続けるだけだ。


この昇格試験だって、3年目になった年で受かるのは大卒、それも東大とか京大とか、あとこの辺りで言えばかなの通ってる大学とか、いわゆるいい大学を卒業した奴ばかりで、高専卒は、優秀な人でも何年も受けてやっと受かるかどうかってところだ。


だから、俺は今年昇格試験を受ける気なんて全くなかったんだけど、かなが勉強を頑張ってる話をするから、俺も話のネタ程度にやってみるかなんて思い始めて、それで、会社で、試験に受かった高専卒の先輩に相談なんかしたりして、で、昇格試験を受けることにした。過去に出た課題を譲ってもらったりして取り組んでみたんだけど、これがなかなか難しい。でも、意外とやりがいあって楽しかったりするし、家に帰ってつまみ作ってビール飲んでぼーっとしてって毎日よりよっぽど楽しい。それに、合間にかなからのメール返すときも、勉強してるって送ると、絶対応援してくれるし。


まあ、こんな感じで、かなには会えないけど、それなりに充実した日を送って、気が付いたら夏になってた。



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