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口には出せないこと

「あーなんか、順番に話すのもいいけど、なかなか話が進まないね。俺さ、かなさんのことをいろいろ知りたかったから順番に話そうとしたんだけど、なんつーか、もどかしいね」


俺は早々に自分で考えた作戦を投げ出した。


「えー、聞きたいことあるなら、最初からそう言えば良かったのに。答えられることなら、何でもいいですよ」

かなは、おまえ何言ってるんだという顔で、こっちを見てくる。


「そういうとこだよ~その、答えられるところはとか、そういうとこ。ガード堅いっていうか、なかなか教えてくれないというか」


「えー、じゃあ、大島さんなら、何でも答えてくれるんですか?」


「おう!何でも答えれるよ、俺は」

勢いに乗って、そう言ってしまう。というか、このときは、本当にそう思ってた。かなが俺に興味持ってくれるなら、それだけで嬉しいから、何だって答えたいって。


「じゃあ、なんで大島さんは私のこと知りたいんですか?」


「そりゃーさあ、」


かながかわいいから、と続けようとして、一瞬、冷静になってしまった。そうなると、心の中で何度もつぶやいていた『かわいい』の一言が、どうしても口に出せなくなる。


「そりゃあ...」


つい、口と一緒に足まで止まってしまう。かなも俺に合わせて足を止め、俺を見上げてくる。う。上目遣いでこっちを見るかなもかわいい。身長差があるから上目遣いなだけで、あざといわけじゃないのは分かってるけど、とにかくかわいい。うう。心の中ならいくらでもかわいいって言えるのに、現実では、ちっとも口に出来ない。


「えっと、まあいいじゃん」


一瞬目を大きく開いたかなが、吹き出す。


「何それ大島さんだって全然答えられてないし」


「いや、だって」

だから、かわいかったからなんだって!口には出せないのに、心の中で精一杯言い訳する。


最初に店に入ったとき、かなの演奏するピアノの音に耳を奪われて、で、演奏する楽しそうな顔とか、さらさら肩の上で揺れる髪から目が離せなくて。どうしてもまた会いたくて、もう一度店に行ってバイオリンの美麗さんに名刺を預けて。客にされるのかなと思ったら、次の待ち合わせはデートにぴったりのところだったから勝手に喜んで、でも、デートだと思ったのは俺だけで、ただのコンサートの案内で。でも、確かに客扱いだったけど、あの高いキャバクラじゃなくて、無料のコンサートや、レストランのディナーコンサートとか、俺でも手が出る場所の案内をしてくれて。そういう気遣いが嬉しくて。


なんとか客から踏み込めたらなと思ってたら、一緒に水族館に行けて、飯も食べれて、今はこうして2人で池の周りをのんびり歩いていて。本人曰く気合い入れてないって格好も、出歩くにはぴったりだし似合ってるし、そういうギャップがあるところを見るのもいいなと思うし。ギャップといえば、海でスニーカー濡らしてしょんぼりしてる姿もかわいかった。演奏してる姿は堂々としていたし、通ってる大学から考えても絶対に賢いはずなのに、波がくるだろう場所を考えずに突っ込んで行くなんて。でも、おかげで、見た目より天然なことがわかったから、今日みたいにちまちまプリン食べてるところは想定内だったけど。でも、想定内だろうと、あれもかわいかった。


まあ、とにかく、そういういろいろが全部かわいくて、かわいいなあと思うたびに、もっと知りたくなってしまう。


でも、こんなこと言えるわけない。


俺はなんとか誤魔化して、結局、順番に質問形式に戻してもらうようにお願いした。かなは笑って頷いてくれて、取り留めもないような話を交互に話し続けて、いつのまにか、池を一周してしまっていた。

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