質問は順番に
俺が質問することはどうやら許されたようで、ほっとする。何を聞こうか迷うが、池を一周するまでまだまだかかるし、かなが答えやすそうなことを聞こうと決める。
「この前はかなさんの好きな曲のこととか教えてもらったから、今日は別のこと、音楽の話以外のことも聞いてもいい?」
「いいですよ!」
かなが笑顔で答えてくれる。
「そっか、じゃあ」
「あ、ダメです!順番でしょ?大島さん、もう一つ聞いたから、次は私ですよ」
「え?質問って、あれでもう一つなの?」
「そうですよ。一つは一つですから。さっきのお返しです」
なぜかかなが自慢気に言う。
「えー、まあ、しょうがないか...じゃあかなさん、どうぞ」
「さっきの続きです。沖縄と、あと、他にもいろんな海に行ってるんですか?」
どうやら、かなは海のことについて続けるみたいだ。
「いろいろ行きたいところはあるんだけど、実際に行けたところはまだ少なくて。国内だと、沖縄、あと、この前行った伊豆とか静岡方面、日本海のほうも行ったよ。海外は、まだ、サイパンだけ」
「すごーい!じゃあ...って、ダメだ。次は大島さんの番だ」
かながもどかしそうにしてるけど、しょうがない。俺もスムーズに話したいけど、今は、片方の話だけになるより、こっちのほうがいい。
「ごめんね。順番だから。じゃあ、かなさんって、ピアノを弾くイメージから大人しい文化系の子なのかなって勝手に思ってたけど、実は意外にアクティブだったりする?この前も今日も、ジーパンにスニーカーだし、鞄もリュックだし」
まずは答えやすそうなことから攻めてみる。
「うーん、どうなんでしょうね。体力とか運動神経の意味で聞かれるなら、鈍くさいですし、体育は苦手なのでアクティブではないですけど。でも、服装の意味なら、もちろん、かわいい服も好きなんですけど、動きやすくて楽チンな服だって好きです。あと、おしゃれ着洗剤で手洗いするのも面倒なので、そっちの意味でも、楽な格好が多くなっちゃいますね。大島さんは、こういう格好より、かわいい服のほうが好きですか?」
「そんなことないよ。あ、もちろん、かわいい服着てる女の子もいいなって思う。かなさんも、演奏してるときのドレス姿はきれいだなって思った。でも、今みたいな服のほうが、あちこち出かけられるから俺は嬉しいな。この前だって、スニーカーじゃなくてヒールの靴だったら海岸までは行っても砂浜までは入っていけなかっただろうし、今日だって、こうして歩けなかっただろうし」
「本当、そうですよね。大人っぽい服も靴も好きですけど、こういう格好のほうが私も楽チンで好きです」
そう言ってかなが笑う。
「ところでかなさん、さっき、かなさんから質問あったから、次、俺が聞くよ?」
「え?質問?」
「ほら、どういう服が好き?って聞いてたじゃん」
「...あ、しまった!でも、それ言うなら、大島さんだって今、質問しましたよね?聞くよ?って疑問系だった」
「俺のは質問じゃないよ。同意を得るために語尾が上がっただけで、質問じゃない」
「何それずるいですよ」
またかなが口を尖らせる。これ、癖なのかな。ちょっと拗ねるかなもかわいい。この調子で続ければ、もっといろいろ聞けないかな。まだ歩きだしたばかりだ。この一周でかなのことをいろいろ知れる気がして、俺は自然と笑っていたと思う。