お店が満席だったので
かなは、苺味のなめらかプリンを1口ずつ大事そうに食べていた。やっと食べ終わった後、店員が皿を下げにきた。テーブルの上はドリンクだけになり場所が空いたので、俺は写真のアルバムを取り出そうとして後ろを向く。
そのとき店の様子が目に入ったんだが、どうやら目に入る限り、席は全て埋まっているようで、店員たちが慌ただしく料理を運んでいる。奥の席に座っているから入り口のほうまでは見えなかったが、この様子だと、おそらく、待ちの客もいるんだろう。俺はアルバムを取り出すのを諦め、かなのほうを向く。
「アルバムの続きを見てもらいたかったんだけど、店、すごく混んでるね。ここ出て、どっか別の店行こうか」そう提案すると、かなは賛成してくれた。
かなはまた金を出そうとしてくれたけど、「待ち合わせたときにお茶を買ってもらったから順番的に俺が払う」と言い張って、俺が会計をする。店を出て駐車場に向かうときに、かながにこにこしながらご馳走さまと言ってくれる。そうなんだよ、余計な気遣いなんていらなくて、これだけでいいんだよ!と心の中で思うんだけど、でも、財布を出して払う気満々のかなを見るのもかわいかったし、どっちも捨てがたい。というか、かななら何でもかわいい。
車に戻ってエンジンをかける。今日はいい天気だから車内はけっこう温度が上がってたので、即効で冷房も入れる。
「かなさん、どこか行きたい店ある?カフェとか、喫茶店とか。俺、この辺りに来たことなくて、全然分からんから、もし、知ってるなら教えてくれると助かる」
この前の水族館では見栄を張っていたけど、あの時に、スキューバダイビングも始めたばかりで知らないことが多いことを話せてから、なんか、知らないって言いやすくなった気がする。正直、今いるところは、俺の家とは待ち合わせした場所を挟むと真逆にあるようなところで、全然分からない。
かなはしばらく考えていたようだが、かなもあまり詳しくないのか、なかなか、店の名前は出て来なかった。
「あー、実はさ、写真の続きも見てほしいなって思ってはいるんだけど、腹が膨れ過ぎてて、もう一軒行っても今は何も入りそうにないんだよね。だから、今すぐ次の店入るのは、正直厳しいかも」半ばやけくそのように口をついてしまった。
それを聞いてかなは少し驚いていたようだったが、耐えきれずと言ったように笑ってくれた。
「ねえ、かなさんもお腹いっぱいじゃない?だったら、少しドライブでもいい?なんなら、公園でもあれば、歩いて腹空かすっていうのもありだし」
「あ!それいいかもです。どこかいい公園とかないかな?」
やった、かなも乗ってくれた。必死で頭を働かしても、公園なんて全然分からない。あー、かなの行きたい店に行くって決めただけで満足するんじゃなくて、食べ終わった後に別のところに行くかもとか考えておくべきだった。今さら悔やんでも遅いんだけど。なるべく顔に出さないようにしつつも内心困っていると、かなが思い付いたように言ってくれた。
「あの、この辺りだともうすぐで隣の市だから、確か、牧場だか大きな公園だか、そういうのがあった気がします。地理が分かっていないんで、もしかしたら近くないかもしれないんですけど...」
ナビで探すと、すごく近いわけでもなかったけど、少し走った先に、牧場があることが分かった。その近くには大きな池もあるようだ。この池があるところが公園なんだろうか?腹を減らすためのウォーキングだけなら、この池の周りを歩いてもいいんだろうけど、けっこう大きい池だな...。
とりあえずは行き先を牧場に設定して、俺は、車を走らせることにした。




