約束に備えて
その後、何度かメールのやり取りをして、写真を見せるのは翌週の土曜日の昼に決まった。
店については、かなが気になってた店に行くことになった。市内の端にある店で、地下鉄やバスを乗り継いで行くのもしんどいから、行くのは諦めていたそうだ。俺が車を出してもいいと言ったことで、その店のことが思い浮かんだらしい。
かなに会うまでに、この前伊豆で撮った写真を整理しないといけない。金曜の会議で営業支店に行った帰りに、俺は、いい感じの写真用のアルバムを買いに行く。こう、いかにも気合いを入れました!ってアルバムもカッコ悪いし、かと言って、写真屋で現像したときにおまけでもらえるようなぺらぺらのアルバムもダサい。おしゃれで、シンプルで、さりげなく海を連想させるようなデザインで...と考えると、なかなか決まらない。
結局、東急ハンズとロフトを梯子して、かなり悩んで選んだのは、青色とオレンジの、海と太陽を連想させるようなアルバム。うん、かなりまではいかなくても、けっこう、いい感じなんじゃないかと自画自賛する。
その週末は、土曜日に丸1日かけて写真を選んで、日曜日にカメラ屋でセルフプリントをした。自分の部屋のプリンターより金はかかるけど、ちゃんと店でプリントしたほうがきれいだから、そうした。家に戻ってからは、順番を考えて、アルバムにちまちまと入れていく。
週明けからは、入れる前に順番は吟味したはずなのに、やっぱり、こっちのほうがいいんじゃないかと考えなおして入れ換えるという作業を、何度も繰り返した。そういや、週明けに交通費の経費精算をするために総務に行ったんだが、同期は休みなのか、それともたまたま席を外してたのかは分からないけど、なぜかいなかったのでほっとした。浮かれてるのがバレて突っ込まれるのが嫌なのに、同期に会ったら、浮かれてるのが隠せそうになかったからだ。
そんな感じで、仕事して、終わって家帰ったらアルバム見直して、写真の順番を入れ換えて...あっという間に過ぎて、土曜日になった。俺は、指定されたコンビニの駐車場でかなを待つ。今度こそ何か飲み物でも買って待ってたほうがいいのかな、いや、でもこれから食事に行くのに、飲み物ってどうなんかなとか考えてるうちに、助手席側のドアが叩かれる。
かなだ!この日のかなも、前に水族館に行ったときみたいにラフな格好だった。Tシャツの上に緩めのジャケットを着て、ジーパン。靴はスニーカーで、この前と同じリュックを背負ってる。すごく似合ってる。
「こんにちは、大島さん。はい、お迎えありがとうございます!」
車に乗ると同時に、かながお茶の小さいサイズのペットボトルを差し出してくる。
「コンビニで待ち合わせだから、いちおう、何か買わなきゃかなって。でも、大島さん、コーヒー飲むかどうかも分からなかったので、お茶にしました。あ、これからご飯だから、今飲まないようなら持って帰ってくださいね。それか、いらないなら、私が持って帰りますけど」
いつの間にかコンビニで買い物してたらしい。
「いや、もらうよ。ありがとう。気をつかわせちゃってごめん。でも、かなさんが通ったの、全然気がつかなかった」
「運転席の大島さんを見つけたから一瞬覗いたんですよ。でも、なんか怖い顔して一生懸命考えてたから。だからとりあえず先に飲み物買いに行こうかなって」
俺が真剣に考えてた顔は、かなにとっては怖い顔になるらしい。
「飲み物何買おうか考えてただけなんだけど」
「え?そうだったんですか?じゃあ声かけて何がいいか聞いてから買えばよかった」
そう言ってかなが笑う。
「じゃあ、今度は一緒にコンビニ行こう。かなさんの好きなドリンクも知りたいし」
「分かりました、今度ですね!」
「うん。今日はこのままご飯に行くから、今度」
このとき、自然に『次』の話ができて内心かなり浮かれてたのは、かなに気がつかれてたんだろうか。そんなことは今になっては分からないけど。