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メールを送る

家に着いてから、帰り道で考えてたメールを打つ。


「こんばんは!今週も半分が過ぎちゃったけど、どうしてますか?俺は、仕事が早く終わった日に、連休に撮った写真の整理をしようと思ってます。ダンゴウオも撮ったから、うまく撮れてたらかなさんにも見てほしいです。」


同期がかなは俺を嫌ってないと言ってくれたときは自惚れてしまったけど、いざメールを送るとなると、やっぱり不安になってしまった。だから、かなのことはあまり聞かないようにして、且つ、かなが返信しやすい話題を選ぶ。

そういう話題になると、安全牌を取って、前に反応してくれた魚のことになってしまう。ダンゴウオのことは小さくてかわいいと言ってたし、実際、水族館でも一生懸命探していて、見つかったときは夢中になって水槽を覗いてた。だから、これなら返事がしやすいんじゃないかと期待する。


もしかしたらかなが写真を見たいと言ってくれるかもしれないと期待して、撮った写真をパソコンに取り込んで、見比べる。一緒にダイビングに行った人が水中で撮影をしていて、楽しそうだったからあれこれ教えてもらったのだ。


その人が持っているカメラと同じスペックは手が出なかったけど、十分楽しめるとおすすめしてくれたカメラは、海の魚や珊瑚がとてもきれいに撮れた。もちろん、プロが撮るようなレベルではないけど、ぶれたりぼけたりすることなく、ちゃんと撮れてる。何より写真があると、そのときの海の様子やそこでの出来事を、写真がなかった時よりも鮮明に思い出すことが出来るのがいい。


編集をするつもりだったのに、ついつい順番に見てしまい、残す写真、消去する写真の選択がなかなか進まない。


そんなことをしていると、メールの着信音が鳴った。まさかこんな早くに来るわけないと思いつつも、画面を開けると、メールの送信元はかなだった。


「大島さん、こんばんは。今日もお仕事お疲れ様でした。いい写真がたくさんあるといいですね。でも、どんな写真でも、大島さんの説明付きなら絶対楽しそうです!編集終わったら、ぜひ見せてください。」


やった!次に会う口実が出来た。


なんて返事しよう...ああもう、考えるのが面倒だ。俺は、メールで返事をせずに、かなに電話をかけることにした。


数度の着信音が鳴った後、かなは電話に出てくれた。


「もしもし」

かなの戸惑った声がする。

「もしもし。かなさん、今、大丈夫?」

俺の質問に、かなは大丈夫だと答えてくれたが、遠慮がちな声だ。もしかして、前にも言ってた電話代のことを気にしているのかな?と思って、

「前言ってたみたいに電話代を気にしてるなら、そこは気にしなくていいから。それに、だらだら無駄話はしないよ」と力説する。ヤバい、ちょっと早口になってたかも。がっつき過ぎだと思われたら嫌だな。


少し失敗したかもと思っていたら、かなが笑ってくれた。

「大島さん、なんか、話し方がいつもより焦ってる感じがします。何か急ぎの用事ですか?」

「急ぎっていうか、かなさんに早く写真見せたいなって思って。いつなら見てくれそう?俺、今週の金曜、会社の会議があるからそっちに行くんだ。だから、もし店で仕事あるなら、良かったら仕事の前に会えないかな?」

「え?今週?はい...お仕事はありますけど」

かながそこで戸惑ったように答えてくれたが、『けど』で止まってしまった。


しまった。引かれ始めてる。

「仕事前に夕飯食べるでしょ?その時間だけ。余分な時間は取らせないようにするから」

かなの負担に思われないように、必死だった。


それでもかなは電話の向こうでしばらく黙っていて、俺は、返事をひたすら待つ。


「あの、別にそれでもいいんですけど」

やっと話してくれたけど、また、『けど』で終わるのが気になる。

「けど?」

「ご飯の時間だけだと、ゆっくり写真見るのは難しいから、それはちょっと嫌だな、って...」


何それ、それってちゃんと時間取ってくれるってこと?


「え!じゃあさ、店に入る時間遅らせてくれるってこと?それとも、集合早くする?俺は17時には会議終わるから、その後なら」

「いえ、お店に遅刻は無理なんで、別のときで、ちゃんと時間があるときはどうかなって」


「え...いいの?」

とっさに聞き返してしまう。どうしよう、すごく嬉しい。かなが俺の写真を見るために時間を取ってくれるなんて、嬉しすぎる。


「じゃあさ、いつにする?この週末は?」

「今週はちょっと難しいです。でも、来週以降なら。ていうか、大島さんだって、写真の編集するのに時間いるんだから、今週は難しいんじゃないんですか?」

「あ、そうだね。考えてみたらそうだ。じゃあ、来週!来週の週末のどっちかにしよう。何かうまいもの食べてお茶でもしながら写真見てよ」

「やっぱり、今週じゃ間に合ってないんじゃないですか」


電話の向こうでかなが笑ってる。


「そんな笑わんでもいいのに。じゃあ、行きたいお店とか食べたいものとかあるなら、連絡して。電車でもいいし、車も出せるから」

「はい、わかりました」

「じゃあ、また」

「はい、電話、わざわざありがとうございました」


電話が切れる。

同期ありがとう!おまえの言うとおり、嫌われたわけじゃなかった!メールが返しにくかっただけだったらしい。


この日はずっとハイテンションで、かなに見せる写真を選んでた。



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