同期への相談
会社を出て、街中に向けて車を走らせる。
「大島~、私、おいしいお肉が食べたいな」
「焼き肉ってことか?」
「イエス!」
肉をがっつり食べる気分でもなかったけど、俺は車だから飲めないのに、居酒屋で改まって話すのも気まずい。肉を焼きながらのほうがかえって話しやすいかもしれないと、同期の提案に乗る。
国道沿いにあるチェーン店の焼き肉屋に入る。まあまあ混んでるが、待たずに入れたので、適当にいくつか注文して、同期はチューハイを待ち、俺はドリンクバーまで飲み物を取りに行く。
「かんぱーい!」
楽しそうにそう言ってグラスをぶつけてくる同期が、早速聞いてくる。
「いや実はさ、先月はちょっと驚いたんだよ。大島があんなこと聞いてくるから」
「別にそんな驚くようなこと聞いてねーし。あ、お礼言ってなくてごめんな。いい店教えてくれて助かった。雰囲気もよかったし、料理もどれもうまかった」
「そうでしょ。ホットペッパーで宴会コースが出てるようなお店じゃ騒がしくてダメだよ。で、せっかくおすすめのお店教えたのに、なんでうまくいかなかったの?」
俺の馬鹿な下ネタのせいでかなに引かれたことを話したくなかったから最初のうちは黙っていたけど、同期に促されて、渋々と話し出す。
話したのは、飯を食べに行ったあと、メールのやり取りの流れで2人で出かけることは出来たことと、その帰り道の出来事。その後にかなから来たメールに俺が返信してから、何も連絡が来ないこととかだ。その間、同期は肉をひたすら食べまくる。
「まあそういうことで、下ネタなんて言うやつには返信したくないってことじゃねーの?ごめんな。せっかくいい店教えてくれたのに」
投げやりに話を終えた俺を見ずに、網の上を見ていた同期が、ちょうど焼きあがった肉を俺の皿に入れてくれる。
「うーん。下手打ったなあとは思うけど、言っちゃったことはしょうがないよね。でもさ、その子...えっと、何ちゃんだっけ?」
「かな」
「そうそう、かなちゃん。かなちゃんはさ、出かけた後に一度はメールくれたんでしょ?」
「あんなのただの社交辞令だろ」
「社交辞令送らないといけないような間柄なの?学校の後輩とか?友だちの友だちとか?」
「いや、そういうつながりは全然ないけど」
「じゃあさ、嫌だと思ったら、その社交辞令なんて送る必要もないわけじゃん。それなのに送ってくれてたってことは、下ネタは嫌でも、あんた自体が嫌われたってことはないんじゃないかな?」
「え?そうなの?」
驚いて、つい、身を乗り出してしまう。煙がもろに顔に被ってしまってちょっと煙たい。
「そんな乗り出さんでも。とりあえずそのカルビ食べなよ。で、実際なんて来て、なんて返したの?」
かなとのやり取りを他の人に見られるのは正直嫌だったけど、そうも言っていられないので、同期に携帯を差し出す。
「ふんふん。これがかなちゃんからのメールね。別に普通じゃない?怒ってる感じも、嫌がってる感じもないし。普通に、楽しかったって内容じゃん。で、大島、あんたの返信は?」
いったん携帯を返してもらってから、今度は俺の送ったメールを見せる。
それを見た同期は顔をしかめて、携帯を返してくる。
「これは...ダメだよ?」
「何が?」
「あのさ、かなちゃんは、あんたの下ネタに嫌な思いはしても、流してなかったことにしようとしてくれたんだよ。それをわざわざ掘り返してどうすんの。そしたら、かなちゃん、絶対そのことに触れなきゃいけなくなるし。だから何も送れなくなってんじゃないの?」
「え?そういうもんなの?」
「そういうもんでしょ。流してくれてんならそれに乗りなよ。どうしても謝りたかったなら、メールみたいに残るものじゃなくて、会ったときで言えそうな雰囲気なときにしなよ」
「そうなんだ...俺、かなが嫌がってたのは分かったから、とにかく謝らなきゃって」
「謝りたいのは大島の勝手。話題に出してほしくないっていう相手の気持ちを無視するのは、よくないよ」
「そっか、そうだよな...」
同期の言うことはもっともで、俺は何も言えなくなってしまった。
「さ、原因も分かったところで、改めて何か送ったら?かなちゃんが返信しやすいような話題でさ」
「え。あ、そうだよな。でも何を送ればいいか...」
「そんなの、私が知るわけないじゃん。私もうちょっと食べたいから、その間に考えなよ」
そう言って同期は、追加注文をするために店員に声をかける。
「おまえ本当容赦ねえな...」
「大島も食べなよ。お腹すいたままじゃいい考えも浮かばないよ?」
その後、同期が頼んだ追加分を食べて、話はかなのことから会社の愚痴に移っていった。同期はけっこう食べてたが、特上は頼まずに上までで抑えてくれるところが、こいつのいいところだなと思う。仕事もそうだし、店や今日の相談も、なんだかんだで助けてくれる。本当、ありがたいなとしみじみする。
同期を駅に送り届けて、帰りの車で考える。俺が謝りたいことじゃなくて、かなが返信しやすいことを送る。方向が決まったので、悩んでたここ何日かより、随分と気持ちが軽かった。