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ダンゴウオを探す

「大島さん、お魚見てきたって、あれ、水族館じゃなかったんですか?」

「そう。伊豆で潜って見てきた」

「スキューバダイビングってこと?」

「うん。ダンゴウオっていうのは、この季節にこの辺りで見れる魚なんだよ。この前の連休、行って見てきた」

「そうなんですね。すごい!」

「すごかったよ。こういうガラス越しじゃなくて、近くで見れて。うまく説明できないけど、なんていうか、感動した」


ずっと水槽を見ていたかなが、振り返って俺を見上げてくれるから、つい、自慢気に語ってしまった。


「そう言われてみれば、大島さん、先月お会いしたときと違って日焼けしてましたもんね。暑くなってきましたし、工場のお仕事って現場仕事だから日焼けするのかなって思って見てたんですけど、これは、お仕事じゃなくて海に潜ってたからなんですね」

「現場仕事だけど工場の中の仕事だから、さすがに仕事で日焼けはしないよ。かなさん、工場仕事のイメージ、なんか間違ってない?」


そう言って、つい、笑ってしまう。

かなの勘違いがおかしいのもあったけど、思ってたよりも俺のことを見てくれたり、いろいろ考えてくれてたんだってことが分かって単純に嬉しかったからだ。


「かなさんもダイビングするってことなら一緒に潜りに行きたかったんだけど、多分、それはないだろうから、ここになりました」

「その予想は正解ですね。私、ダイビングをやろうと思ったこともないような人なので。でも、大島さん、ここの水槽にもダンゴウオいないみたいですよ?」

ちょっと悲しそうな顔をしてかなが言う。


「そうだね、もう少し探してみる?それとも、次に行く?確か、この辺りの海で見られる魚の展示が、奥にあったはずだから、そっちに行ってみようか」

そう提案するとかなが頷いたので、水族館の一番の見所であろう大きな水槽をあとにする。


角を曲がって見えてきたのは、様々な小さな水槽。駿河湾の海の生き物が分かれて展示されているようだ。小さな水族館とは言ってもさすがに日曜日だから、俺たちだけじゃなくて、他にも人がいる。かなは待ちきれないように列に並んで、水槽の前に立つのをそわそわしながら待っている。落ち着きなく身体を右に左へと傾けながら待つ様子は年齢よりもかなり幼く見えて、そんな様子もかわいい。


ていうか、かなの様子を表す言葉がかわいいしかなくて、自分の語彙力のなさが情けなくなる。かなのかわいい様子をなんとか伝えようとしていても、うまく文章にできない。


まあとにかく、かわいいなあと思いながら、横に並ぶかなを見ながら、大人しく順番を待ってたら、そんなに待つことなく順番がきた。


水槽は浅瀬の生き物から始まっていたようで、俺たちの目当ての水槽は、予想よりもはやく現れたらしい。


「あっ!」

かなが小さく叫んで、思わずと言った様子で、隣の俺のシャツの袖を掴む。


「大島さん、見てください、このお魚ですよね?ダンゴウオ。思ってたよりも鮮やかな赤色で、すごくかわいい!」


かわいいのはちょこんと袖を掴んできたあなたのほうなんですけど!実はけっこう動揺してたんだけど、気付かれないように平静を装って、俺も水槽を覗き込む。


水槽の中には、この前海で見てきたダンゴウオがいた。かなはあれこれ感想を言ってくれるけど、俺はそれどころじゃなくて、しばらくこのまま袖を掴んだままでいてくれないかなとか、そんなことばかり頭に浮かんでいたから、かなの言葉は全然頭に入ってなかったと思う。

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