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ドライブのはじまり

自分の予想とは違うタイミングでかなが現れたので、一瞬、身構えてしまう。

窓の向こうのかなが不思議そうに首を傾げて、もう一度窓を叩こうとするので、俺は、あわてて窓を開ける。


「大島さん、おはようございます」

かなが、俺を見上げて笑ってた。


「ドア、鍵、開いてるから。そのまま、入って」

慌てていたから、単語ばかりの返事になってしまった。


かなが俺の車の助手席のドアを開け、よいしょと言いながら乗り込んでくる。背負っていたリュックを下ろして膝の上に乗せ、俺を見上げて、もう一度俺に挨拶してくる。


「おはようございます」

にこって笑ってくれた。

思わず息を飲む。かわいい。


そのまま俺が何も言わないので、また、言ってくる。

「あの...おはようございます?」


それでやっと俺は、挨拶も何もしてなかったことに気が付いて、慌てておはようと返す。

でも、この後はなんて言おう。会話が進まない。悩んでいると、かなから話を振ってくれた


た。


「今日、楽しみですね。かわいいお魚が見れるんですよね」

かながすごく楽しそうに笑う。

今日のかなは、白いポロシャツにジーパン、スニーカーという格好だった。シャツのボタンはあまり留めていないようで、その下の赤色のキャミソールのレースが見える。見えるっていってもいやらしい感じは全然しなくて、なんていうか、すごく活発そうな印象だ。

思えば、店で演奏するときのドレス姿とか、学校が終わってバイトに行く前のブラウスにスカートという格好とか、いわゆるきれいな服のかなしか知らなくて、こういう服を着るイメージがなかったけど、これもすごく似合う。

これもというより、むしろ、こっちのほうが、おかっぱの髪型にすごく合ってかわいい。


決めた。ちょっと遠いけど、あそこに行こう。

俺は心の中で勝手に行き先を決める。


「かなさん、飲み物はある?もしないなら、コンビニに寄るよ。酔いやすいなら飴とか買っていってもいいし」


本当なら先に準備しておくのができる男なんだろうけど、俺は、かながどんな飲み物が好きなのかすら知らない。


「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。家からお茶持ってきてますし、買い足すものも今のところはないので」

「そうなんだ。じゃあ、出発しようか」


そう言って車のエンジンをかける。


駅から南に向かって走り出す。かなとは、待ち合わせですぐに分かったかどうかとか、無難な話をする。少し走れば国道に出て、そのまま進めば高速道路のインターチェンジが見えてくる。高速に入ることを入ることを告げて、車線を変える。

かなは、市内を走る高架に上がるのかと思っていただろうが、車の進む方向は違う。


「え...今日、水族館に行くって」

東京まで何キロとか書いてある緑の看板を見上げて、かなが急に不安そうな顔をする。そりゃそうだろう。突然、遠くに連れて行かれそうになってるんだから。しかも、高速だから、ドアを開けて逃げるわけにもいかない。


「そうだよ。ダンゴウオ、見たいって言ってくれたじゃん」

「でも、なんで高速...」

かなは今にも泣きそうな顔になってる。ヤバい。驚かせようかと思ったけど、完全に逆効果だ。でも、行き先を告げてネタバレになるのも嫌だし、それで、がっかりされるのもつらい。なんとか、かなに嫌われずに、驚かせたい。俺は、精一杯、面白そうなことを企んでる顔をして、でも、かなのほうは見ずに前を向いて言う。


「大丈夫だよ。絶対、楽しい水族館に連れてくから」


まあ、実際は、見ずにっていうか見れなかったのが本当のところだけど。これで嫌がられたら、大人しく行き先を告げよう。それで退かれるようであれば、次で下りて、怖がらせたことや、勝手に行き先を決めたことを謝ろう。もう次は会ってもらえなくなるかもしれないけど、かなを泣かせるよりはいい。


そう思っていたら、隣でかんがえこんでいたかなが、俺を見てにっこり笑う。

「行き先が私の思っていたところと違うみたいだけど...いいですよ。せっかくなんで、連れてってください。ただし、夕方までには帰してくださいね。明日、学校あるんで」


嬉し過ぎて、思わずやったと叫びたいところだけど、そこはぐっと堪えて、自分の中での余裕のある表情を作る。


「それは期待しといて」


隣のかなを見ると、さっきの泣きそうな顔はすっかり消えて、期待に満ちた顔で俺を見ている。

ハンドルを握る手が自然とぐっとなる。

やっぱり、かなはかわいい。特に、笑ってくれてる顔は本当にかわいい。


今日、かなに不安そうな顔や泣きそうな顔をさせるのはこれっきりにしよう。とにかく笑ってもらおう。そう思って、運転してる間も、余裕な振りをして、必死にいろいろ話題を考えてはかなに話しかけた。幸いかなはずっと笑ってくれていて、俺は、すごくすごく幸せだった。


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