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初めて聴く演奏

まず飛び込んできたのは、店のシャンデリアを反射した眩しい光と、その中から聞こえる優しい音色。


新規であることを店員に告げて、席に案内される途中で目に入ったのは、店の中央から少し離れた場所に置かれたグランド・ピアノ。その横で、きれいでまっすぐな黒髪の美人が、流れるように身体を揺らしてバイオリンを弾いていた。ピアノを弾いているのは、茶髪の女の子。なんとなく、店の雰囲気より幼いというか、髪の長さも耳の下までしかない、おかっぱ頭を無理矢理セットして整えましたというようなもので。でも、その子が奏でる、華やかなバイオリンに寄り添うような優しい音色と、心底楽しいと演奏する表情に目を奪われた。


案内されたのはバイオリニストを斜め後ろから見るような席で、ピアノの子は、後ろ姿しか見えなかった。すぐに、店の雰囲気にあったきれいなお姉さんがついてくれたので、隣の男の退職祝で来たことと、背伸びして入ったから次はないだろうけど、今日はよろしくお願いしますと告げたところ、当たり障りなく、話を拾って広げてくれた。きちんと見える席でもないし、ただのBGMになっていくだろうと思ったが、華やかなバイオリンと、それを支える優しいピアノの音色が、なぜか耳から離れなかった。


30分ほど話したあたりで、ふいに、店中から拍手の音が沸き上がった。隣のお姉さんも拍手をしている。気がつくと、ステージの二人が立ち上がり、丁寧に礼をしていた。


「はあ~、こういうレベルの店だと、BGMは生演奏なんですね。普段俺らが行くような店では絶対ありえないんで、いい体験になりますよ」

連れの男が感心したように言う。


そのまま二人は下がっていったが、しばらくして、バイオリニストだけ戻ってきて他の席に座っていた。


「あ、バイオリンちゃん、戻ってきてる。すっげーきれいで、楽器も弾けて、あんな子いるんだなって感じですね~、あ、もちろん、お姉さんもすっげー美しいですよ!通えないんですが、外でデートしたいくらい!」


向かいのバカが何か言ってるが、通えない一見客とデートしてもらえるわけがないだろう。ピアノの子も、どこかについてるんだろうか、さりげなく店の中を見渡すが、見つからない。


「あの、もう一人の、ピアノの子は席につかないんですか?」できるだけさりげなく、ただの話の流れのように聞いてみたら、隣のお姉さんが教えてくれた。


「あの子はね、ピアノだけのバイトなの。美麗ちゃん、あ、バイオリンを弾いてた子なんだけどね、その子の友達みたい。だから、お店の子じゃないから、基本的には、接客はしないの」

「そうなんですか...」


小さく呟いた言葉を拾われたようで、

「ふふっ、かわいいし、素敵な演奏するもんね。気になる?」と笑われた。とっさに誤魔化したが、見透かされたようで、

「美麗ちゃんたちの演奏、今日はあと一回あるよ。ただ、演奏まで残るとするなら、延長してもらわないといけないけど...まあ、考えておいてね」と笑われた。


気がついたら、向かいの男と二人分、延長することになっていた。

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