週末の予定
メールはすぐに返してくれたのに電話は出てくれないことに関しては、それなりに、いや本当はかなり落ち込んだのだが、いつまでも会社の駐車場にいてもしょうがない。実家に帰るかどうかで今日の買い出しの内容も変わってくるので、とりあえず、実家にいる母親に連絡する。
レストランのディナーコンサートに行ったことを書いたときに少し書いたが、俺の実家は、今住んでるところの隣の県にある。高速を使えば30分、下道を使っても1時間半前後で行けるから、しょっちゅう帰るようなことはないけど、何か用事があればすぐに帰ることができるところだ。
母親に連絡したら、ご馳走してくれるというなら遠慮なく奢ってもらうとのことなので、店が決まれば連絡すると言って電話を切る。
週末に実家に帰るなら日曜の夜か月曜の会社帰りにスーパーに寄ればいいかと、会社からそのまま家に帰る。母の日だから少しくらい背伸びした店のほうがいいかと考え、思いついたのは、先月ディナーコンサートに行ったレストランだ。別に、かなに会えるかもしれないと考えたわけじゃない、雰囲気もよくて美味しかったからだと、自分で自分に言い訳をしながら、店に電話をする。
しかし、明日、明後日は予約で埋まっていると断られてしまっただけだった。そういえば、かなから誘ってもらえたのも、たまたま当日キャンセルが出たからというだけだったから、普段は人気で埋まっているんだろう。
ついでを装って、この週末はディナーコンサートが行われているかを尋ねてみたところ、コンサートは開かれるが、かなと演奏していた原田は出ないとのことだった。かなは原田の伴奏として演奏していたようだから、原田が出ないのであれば、おそらく、かなも出ないだろう。それであれば、もしかしたら、かなの予定は空いてるんじゃないか?そんなことを考えてしまう。
かなは、メールで忙しいと書いていた。だから、原田と別の場所で演奏するのかもしれないし、原田以外の誰かとコンサートに出るのかもしれない。学校の課題があるとも書いてあったから、そっちで忙しいのかもしれない。他の予定なんていくらでも考えられるのに、もしかしたら空いてるんじゃないかと、勝手に期待する。
そんなことを考えてるうちに、肝心の店の予約のことはすっかり頭から飛んでしまっていて、夜遅くに母からメールが届いて、しまったと思い出す。俺じゃ当てにならないから、実家近くに住む姉が、実家近くの店で予約をしてくれたとのことだった。姉からも、『予約はしたから財布くらいにはなれ』と来ていた。
姉の了承する返信をしていたところ、電話が鳴り、そのまま出てしまった。着信画面をちゃんと見れなかったから、誰からなのか分からないけど、とりあえず、耳にあてる。
「はい」
俺の言葉の後、ためらうかのような沈黙がしばらくあって、その後に聞こえた声は、諦めていたけど、本当はずっと聞きたかった声だった。
「もしもし。夜遅くに申し訳ありません。今、大丈夫ですか?」
かなからの電話だった。