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ここで賄い食べていいの?

「え...なんで?」

ご招待ありがとう、ドレス似合ってるね、今日の演奏も楽しみだよ。かける言葉なんていくらでもあるはずなのに、こんな言葉しか出てこない。


かなは嬉しそうに笑って、俺の向かいの席に皿を置いた。俺も含め、客が食べてるものと同じ前菜だ。

「驚かせてしまってごめんなさい。大島さん、1人でいらっしゃるって聞いてたから、ご飯の間は退屈なんじゃないかと思ったので。賄いの時間なので、向かいでいただいてもいいですか?」

「もちろん構わないけど...でも、いいの?」

周りは、演奏の前にディナーを楽しむ客がたくさんいる。客側の立場で座っていて何か言われないだろうかと、俺のほうがそわそわしてしまう。

「そうですね、メインが始まるまではご一緒出来ないですけど、途中までなら。それに、わざと一番端っこの席にしてもらってるので、そんなに目立たないから大丈夫だと思います。でも、端っこだから大島はお嫌かもしれないですけど...」

「全然嫌じゃないよ、むしろ、かなさんの演奏する姿も、後ろになっちゃうけど近くで見れるし、俺にとってはすげーいい席だよ。ありがとう!」


慌てて否定すると、かなは笑っていた。

「それなら良かった。わざわざ遠くまで来てくださってありがとうございます。なかなかこっちまで来ることないですよね」

「そんな遠いとは思わないよ。俺、実家がこっちだから。だから、実家で用事があるときは帰ってるし。それに、もっと距離あるところに出かけることも多いから、本当、なんてことない」

「そうなんですね。大島さん、ご実家はこちらのほうなんですね。私と一緒だ。ちなみに、どの辺りなんですか?」


話の流れかもしれないけど、かなが、おれのことで質問してくれた。かなに何か尋ねられるって思うと、それだけで嬉しくなる。それに、何気に、かなの実家と同じ県らしい。まあ、この県は面積が広いので、地域によっては全然近くじゃないこともありえるけど。


俺は、実家のある市の名前を答える。一応県内では2番目に人口が多い市なんだが、県の端にあるので、何か用事でもなければ行くことはないようなところだ。かなも演奏で呼ばれる以外は行くことはないようだ。でも、演奏するためには行くんだ。


初めて出会ったキャバクラ、工場跡地にできた施設のギャラリー、そして今日のレストラン。そして、話に出てきた俺の実家方面。どうやら、かなは、いろんな場所でピアノを弾いてるらしい。


「かなさんは、ピアノを弾くのが本当に好きなんだね」

前菜を食べ終わって、スープに目を輝かせてるかなが俺を見る。

「そうですね。ピアノは、小さい頃はただの習い事って感じでしたけど、中学生のとき、地元でお世話になってた先輩の紹介で、芸大に通ってるお兄さんの伴奏をすることになって、そこから、だんだん楽しくなってきた感じです。1人で練習してるのとは違って、誰かと演奏するのは本当に面白いんです!それに、その先輩やお兄さん経由で、今もこうして、あちこちで演奏する機会もいただけて、ますます楽しくなってきたところです」

「そうなんだ」

かなが本当に楽しそうに笑う。

「じゃあ、俺は今日はかなさんの楽しそうな姿を見て、楽しむことにするよ。後ろ姿しか見えんけど、楽しい雰囲気は伝わるだろうから」

「あっ、すいません、こんな端っこの席で...」

こんなこと言うつもりなかったのに、つい、意地の悪いことが口をつく。かなに謝らせてしまった。


「違うって。本当に楽しみだし、今、かなさんの楽しそうな顔を見れてるし、飯もうまいし、最高の席だよ。ありがとう」

「そう言っていただけてありがたいです。後ろ姿からでも楽しんでもらえるコンサートにするので、期待してくださいね!」


ちょうどパンを配りにきた店員から小声で何か言われたかなが頷く。

「大島さん、そろそろ準備しないといけないんで、私、この辺りで失礼させていただきますね。この後のお料理も全部!おいしいんで、お料理も楽しんでください」


全部!の部分をかなり強調してから、かなは席を立って行ってしまった。かながいなくなってからの料理はどれも美味しかったけど、俺は、演奏が始まるのが待ち遠しくて仕方がなくてずっとそわそわしていて、料理で何が出てきたかとか、正直、全然覚えてない。

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