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きれいな庭のレストラン

かなから教えられたレストランは、川を越えた隣の県にあった。隣の県と言ってもそんなに遠いわけではなくて、実家に帰るときにいつも通る国道を、途中で北に曲がるだけだ。


到着したその店は、大きな通りから少し入った閑静な住宅街にあって、駐車場を降りると、ちょうど目の前に、山と、その頂上付近に建てられた城が見えた。駐車場からレストランの敷地内に入ると広い庭があって、その庭を眺めながら石畳に沿って歩くと、扉の前に着いた。


受付を済まし、席に案内される。レストランのホールは庭がよく見えるようになっていて、レストランというよりは、結婚式の披露宴会場にも使えそうな店だ。春だからまだ明るくて、庭もよく見えた。庭に出たら、ちょうど山と城が庭の向こう側に見えて、すごくいい景色なんだと思う。ただ、俺は花については詳しくないから、きれいな景色でたくさん花が咲いているな、くらいの感想しか言えないんだけど。


俺が案内されたのは、庭がよく見える席とは反対側の、端に近い目立たない席だった。明らかによくない席だってことは俺でも分かるけど、男で一人でディナーなんて絶対浮くだろうから、こういう席にしてもらえて本当にありがたかった。しかも、ピアノに近い席だった。斜め後ろくらいからかなを見れるんじゃないかって席。だから俺にとってはかなりいい席だった。


座ると、店員からドリンクメニューを渡される。食後にコーヒーはつくらしいけど、食事中のドリンクは別料金なのか。1人で車で来てるから酒は飲めないと伝えると、ノンアルコールドリンクか、ドリンクは頼まずに水でもいいと言われる。じゃあ水で、というのも微妙にかっこ悪い気がして、でも何を頼めばいいかも分からなくて、ウーロン茶を頼んでしまった。


ドリンクの注文と一緒に、昨日、かなにも聞かれたアレルギーと選んだメイン料理について店から確認されて、間違いないと答えたところ、店員は下がっていった。


なんか、5,000円のディナーってどれくらいのレベルかよく分からなかったけど、事前にアレルギーの確認をするような店は、普段の俺とは縁がない。一通りホール内を見渡すが、すぐに手持ち無沙汰になり、置かれたメニューとコンサートについてのパンフレットを見る。ノートサイズの紙に両面刷りされた、パンフレットというよりチラシと言ったほうが合ってるそれには、今日のコンサートのバイオリニストの男が大きく写っていた。隣の県の芸大を卒業して、今は演奏活動を行っているらしい。俺と似たような年の男だ。


その下に、小さく、数行で伴奏者について書いてある。


『ピアニスト かな』

隣の県の大学に通う。

様々なアーティストとユニットを組み、学生とピアニストの二足のわらじを履いて音楽活動を続けている。


たったこれだけ。かなの本名も、年齢も、通ってる大学も、何も書いてない。でも、俺は知ってる。ここにいる他の誰よりも、かなのことを知ってるような気分になって、俺は周りを見渡した。


ディナーコンサートの仕組みをよく分かっていなかったが、開始時間になり、店員たちが前菜を配り始めた。どうやら、演奏が始まる前に食事をするらしい。メニューを見るが、名前だけですぐ読み終わってしまうし、話す相手もいないから、ひたすら食べるだけだ。すごくおいしいけど、おいしいなあという感想しかない。


そのとき、「あー、もうなくなりそう。大島さん、食べるの早過ぎですよ」という声がして、まさかと思って振り向くと、ドレスにきれいな肩掛けを羽織ったかなが、皿を持って立っていた。

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