急なお誘い
かなと初めて夕飯を食べに行った金曜日。
結局その日は何も連絡がなくて、確認を取るのに時間がかかっているのだろうと勝手に理由をつけて納得していた。
土曜日は、遅めに起きてから、平日に出来ない家事を済ませ、足りないものを買いに行き、趣味で撮った写真がたまっていたので、それを整理する。視界の端にある携帯が、気になる。音が鳴るたびに、かなからじゃないかと画面を見て、そのたびにがっかりする。かな専用の着信音を設定しようかとも思うが、かなは俺の彼女でも何でもないので、そういう設定をするのは何か違う気がして、出来なかった。
昼過ぎ、急に電話が鳴る。かなからだ。急いで取る。
「大島さん、こんにちは。昨日はごちそうさまでした。ありがとうございました。今、お電話大丈夫ですか?」
少し慌てた声。
「うん、いいよ。かなさんこそ、昨日はお疲れ様。夜遅かっただろうから、疲れてない?」
「いえ、私は元気です。それで、昨日話していた件なんですけど、今日、演奏する予定のレストランで、急にキャンセルが出たんです。ですから、大島さんがご都合いいなら、今日のディナーコンサートにいらっしゃいませんか?当日の急なお話ですので、無理なら断っていただいても」「行くよ!」
かなの話を途中で遮って返事をしていた。
「いいんですか?ありがとうございます。本当は、少し先の別の日の予約を確認するつもりだったんですけど、ちょうど今日、空いたみたいで、それでダメ元で聞いてみたんですけど」
「咄嗟に返事しちゃったけど、俺、レストランのディナーコンサートなんて行ったことない。服装とか何か、気にしないといけないことってある?あと、お金っていくら...?」
「そんな畏まったコンサートじゃないので、ドレスコードは特にないですよ。気楽にいらしてください。二人分空いてるので、もし、お友達をお誘いできるようなら連絡ください。ディナーの料金は、5,000円です。昨日もご馳走になったのに、申し訳ないです」
「それくらいなら、なんて事ないから、全然大丈夫」
店の場所や開始時間はメールするとのことで電話を終える。昨日も会えたのに、今日も会える。すごく心が弾む。かなにとっては、たまたま空いてたから声をかけただけに過ぎないだろうけど、それでも、声をかけてくれたことが嬉しい。
本当なら誰かを連れて行くべきなんだろうけど、急にディナーコンサートに一緒に行けるような連れが思い浮かばなかったし、いたとしても、かなを他の誰かに見せるのがもったいない気がして誘う気分にならなかっただろうし。まあとにかく、一人で行くことに決めた。