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理由は歩幅の違いじゃなかったんだけど

かなが少し駆け足になって後ろを追いかけてくるのが分かってるのに、俺は歩みを止めなかった。速足で歩いてるわけじゃない。俺にとって普通の歩き方だ。いつもどおり。別に機嫌が悪いわけじゃない。

頭の中で必死に言い訳をしながら、歩いた。


そのとき、がくんと後ろに引っ張られた。


「大島さん歩くの速すぎ!ちょっと待ってくださいって!」


かなが俺のジャケットの左腕を、両手で思い切り掴んでた。


「足の長さ違うんだから、ちょっとはっ!考えてくださいよ!」


息があがってる。こんなときもかわいい。

こんな一生懸命ついてきてくれる子に、なんで、イラついてたんだろう。ていうか、絶対、機嫌悪かったの伝わってるのに、そこには一切触れないで、歩幅の違いのことだけを怒ってくれる。


「ごめん。普通に歩いてた。合わせるから」

そうじゃなくて、本当は不機嫌になったことを謝らないといけないのに。かなの優しさに甘えた。


「よろしくお願いしますね。というか、大島さん、週末コンサートでも思ってましたけど、本当に背が高いんですね。身長、いくつですか?」

「185ちょっとだよ」

「は~やっぱり!まあ、私にとって、私より大きな人は、ちょっと大きいと、まあまあ大きいと、けっこう大きいくらいの違いでしかありませんけどね。だから別にうらやましいわけじゃないですよ」そう言って少し膨れてる。


「本当にごめん。足の長さを考えて、ゆっくり歩くから。まあ、もうすぐ着くけど」


慣れた様子で店に入る。本当は初めて来た店だけど。ホット◯ッパーでこのエリアの店を隅から隅からまで読んでも全然決められなくて。結局、工場で総務をしてる女の同期に頼った。ホット◯ッパーに載ってるような店は、金曜はどこも宴会コースを頼むような客ばかりだから駄目なのに、何やってんのと馬鹿にされた。


教えてくれた店は、カウンターがあって、その後ろにテーブル席が少しあるだけの、小さなお店だった。居酒屋というよりは静かな定食屋といった感じで、普段、飲みに行く店とは全然雰囲気が違ったけど、緊張するような敷居の高さはなく、優しい空気のお店だと思った。

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