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初めての電話

演奏会があった日曜日。メールは来なかった。

打ち上げがあって帰りが遅くなったかもしれないし、なくてもきっと疲れてるだろうし。

いろいろ自分なりの言い訳を考えて、無理矢理寝た。なかなか寝れなかったけど。もしかしたら夜中に来るかもと思って、聞き逃さないように、着信音は最大に設定してたけど。それでめちゃくちゃ早く目が覚めて、もしかしたら朝届くかもしれないと、二度寝せずに待った。仕事終わってからは速攻ロッカーを確認した。うち帰る。はい、始めに戻る。

この繰り返しで早数日。登録外アドレスは全部迷惑メール。あーやっぱ無しなんだな、開くたびの緊張が無駄になっただけかと諦めの境地にたどり着いてた時、メールが届いた。登録されてないアドレス。どうせまた迷惑メールだろう、でも一応確認しとくか。


「こんにちは。鈴村かなです。(恵理です)分かりますか?

連絡遅くなってごめんなさい。よく考えたら、感想催促するの図々しいですし、メール打つのも手間になりますよね。だから、感想は不要です。演奏聴きに来てくださっただけで十分です。これからもお仕事頑張ってくださいね」


かなからだ!


でも、なんだ、これ。なんかものすごく拒絶されてる。やっぱり、俺は無しってことで、でも感想聞くって言っちゃったから、義理で連絡くれただけなんだろうか。


「連絡ありがとう。全然図々しくなんかないよ。むしろ言いたい。かなさんが聞きたくないなら別だけど、そうじゃないなら、聞いてください。

ただ、確かにメールで長文は得意じゃないから待たせてしまうと思うので、もしよかったら番号教えてほしい。かけるので。」


実は、来たらすぐに返そうと思って、感想を書いたメールの本文は下書きフォルダに入れてあってすぐに送れる。だから今送ったこのメールは、電話番号が分かればいいなという、ただの駆け引きだ。ずるいなとは自分でも思う。まあ、教えてくれるなんて期待してないから、ダメもとで送っただけのことだ。


そわそわしながら返信を待つと、着信音が鳴った。発信元は知らない番号。速攻で取る。「もしも...」だけ聞いて、「ごめん、一旦切って掛けなおすから!」とだけ言って、電話を切る。履歴画面に残る番号を見つめて、少しだけ躊躇するけど、こういうのは、勢いがないと出来ないんだって!番号を押し、しばらく待つ。かなはすぐに出てくれた。


「あの、電話...すみません」いきなり謝られた。

「なんで謝るの?こっちからかけるって書いたのに」

「でも、電話代かかるし...その、大島さん、お給料が高くないって聞いたから...だから」

「給料って...あのね、君が働いてるお店にしょっちゅう通うような給料はさすがにもらってないけど、携帯で少し話すくらいなら余裕だから。これでも社会人5年やってるから」そこまで気をつかわれているとは思っていなかったので、つい、呆れた声を出してしまう。


「そうなんですね、わかりました。大島さんって、5年社会人されてるんですね。じゃあ、今は27歳ですか?」

「違うよ。5年というか、正確には、5年目に入ったところ」

「じゃあ、正確には、今年度中に27になる26?」

「それも違う。俺、大学行ってないから」

「じゃあ、22?」

「その間かな。24。高専って分かる?俺、高校じゃなくて高専行って、そのまま就職したから」

「分かりますよ~高専」

「そういえば、かなさんたち、工学部だったね。そりゃ分かるか。普段は説明面倒だから、分からんって言われたときは、高校と専門行ったって適当な説明してるんだけど」

「それなんか違う説明になってるじゃないですか。そしてピタ◯ラの皆さんは工学部ですけど、私は違うんですよ。文系です」

「そっか、助っ人だったね。何やってるの?」

「経済です!...と言っても、まだ1年しかやってなくて、しかも専門科目より教養科目のほうが多かったから、あんまり胸はって専攻言えないんですけど...」

「ははっ、自信なさげだな~じゃあ、2年生になったところなんだ?」

「そうです。ていうか、大島さん、さっきから全然、週末コンサートの感想の話してないですよ。けっこう話しちゃってるから、やっぱり、電話代が気になります...」

「だからそれは気にしなくていいのに。でも、せっかく気にかけてくれるんなら、今度、電話じゃなくて、ご飯食べながら感想聞いてくれない?ご飯は絶対食べるから、無駄遣いにならんでしょ?」

「確かにそっちのほうがいいかも...」

「ちょうど金曜日に仕事でお店の近くに行く用事があるから。バイト入ってたりする?」

「あるにはありますよ。授業終わって、美麗と少し合わせて、その後、バイトが始まる前なら...」

「じゃあそれで決まり!電話代気になるんでしょ?もう切るから、詳しい場所や時間はメールで詰めよう」

「はい」

「じゃあ、後でメールするから」


俺から電話を切る。


...あれ、なんか、思ったより自然に話せてた気がする。しかも、どさくさに紛れて、ご飯の約束事取り付けたかも。情報も増えた。大学生。経済学部の2年。ということは、浪人とかしてなければ、今年20になる19。


「ははははは...」

笑いが止まらない。部屋で一人でなかったら、危なかった。誰にも見せられない怪しい人だったかも。


その後急いで外に出て、ホッ◯ペッパーの冊子がありそうな場所を探して、家に帰ってめちゃくちゃ真剣に店を探したのは、かなには絶対に言えない。

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