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09 フォレストベアの秘蜜

 フォレストベアと遊び終わる頃には、僕たちの身体は緑色の抜け毛でいっぱいになる。

 でもシラユキは本当に幸せそうだった。


「あーっ、楽しかったぁ! クエストに来てこんなに楽しい思いをしたの初めてだよ!

 本当にありがとうね! ソラくん、そしてフォレストベアさん!」


 シラユキとフォレストベアとすっかり打ち解けていて、彼女の顔くらいある熊手の肉球とぷにぷに握手していた。

 そして僕はふと思いつく。


「ねえ、フォレストベア、僕たちは『フォレストベアの秘蜜』を取りにこの森に来たんだ。

 もしよかったら、秘蜜を少し分けてもらえないかな?」


 フォレストベアにとって秘蜜はとても大切なものなので、もしかしたらこの時点で敵対してしまう可能性もあった。

 しかしフォレストベアの表情は柔和なままで、「くぉん」と頷き返してくれる。


 シラユキはまたしても大興奮。


「ええっ!? 本当に、秘蜜を分けてくれるの!?

 う……うそうそうそ、うっそぉぉぉぉぉーーーーーっ!?」


 僕たちはフォレストベアの肩に乗って、森の中を進む。

 この森の奥には他にもオークがいるんだけど、オークたちはフォレストベアを見た途端に一目散に逃げ出していた。


 しばらく進むと岩山の近くにさしかかった。

 その岩山は崩れていて、大きな岩があちこちに転がっている。


 フォレストベアはその岩のうち、小山ほどもある岩に近づいていく。

 岩の前で僕たち肩から降ろしたあと、両手を広げて岩にガシッと張り付いた。


 その岩は大勢の人間や馬を動員しないと動かせないほどに重そうだったんだけど、フォレストベアは漬物石でも扱うように「よっこらしょ」と動かす。

 岩の下には穴があり、噴水のように黄金の光があふれ出していた。


 僕とシラユキは思わず息を呑んでしまう。


 そこにはなんと、金塊のような秘蜜がゴロゴロと転がっていたんだ……!


 フォレストベアは穴の下に降りていくと、その中でいちばん大きな秘蜜を持ち上げた。

 呆然自失となる僕たちの前に、タンスみたいに大きな黄金の塊が置かれる。


 ドッスンとした衝撃は物理的にも心理的にも、僕たちは飛び上がらせた。


「い……いやいやいや! こんなに大きいのはいらないよ!

 必要なのは、10グラムとかそのくらいだから!」


「そ……ソラくんの言うとおりだよ!

 秘蜜って、手のひらに載るくらいの大きさでも、お家が買えちゃうくらいの値段で取引されてるんだよ!?」


 僕たちはわたわたと手を振って遠慮したけど、フォレストベアは「いーからいーから」と黄金の塊を押しつけてくる。

 何度も断ってようやく、フォレストベアはしぶしぶ、穴の中からいちばん小さな秘蜜を持ってきてくれた。


 それでも、両手いっぱいくらいの大きさがある。


「うーん、これでも人間が発見した秘蜜では、世界最大クラスなんだけど……」


 でもこれ以上断るとフォレストベアがスネてしまいそうだったので、その最小サイズの秘蜜をもらっておくことにした。


「ありがとう、フォレストベア。なにかお礼をさせてくれないかな?」


 フォレストベアは「くぉ~ん」と首を左右に振る。

 「別にいいよ」と言っているらしい。


 それよりもフォレストベアは、岩山の近くにあるハチの巣が気になるらしく、チラチラとそちらのほうを見ている。

 ハチの巣は気球みたいに大きく丸く、巣穴からはたっぷりとした蜜がしたたり落ちていた。


「あのハチの巣にある蜜が欲しいの?」


 「くぉん」こっくりと頷くフォレストベア。

 それから身振り手振りで教えてくれたのだが、あの巣にいるハチはとても狂暴で、近づくだけで弱点である鼻を刺されまくるという。


 僕はいい『お返し』を思いついた。


「ちょっと待ってて!」


 ショートソードを片手に、近くの繁みに飛び込む。

 しなりのいい木の枝を見繕い、いくつか伐採して戻った。


 「それでなにをするつもりなの?」とシラユキ。

 「まあ見ててよ」と僕は地面に座り込んで、工作を開始する。


 僕の嵌めているグローブには盗賊(シーフ)ツールが仕込まれてあって、指の曲げ方でツールが飛び出してくるんだ。

 そのツールのひとつであるミニナイフを使い、枝を削って整形する。


 竹ひごのようになった枝を折り曲げ、ツールにあるワイヤーで枝どうしを結び合わせた。

 そして完成したのは、どんぶりのような形状の網カゴ。


「できたっ! フォレストベア用鼻マスク!」


 さっそくフォレストベアに付けてあげると、サイズはピッタリだった。


「これで鼻をガードしていれば、弱点を刺されることもなくなるよ!」


「くぉん!」


 「なるほど!」とフォレストベアは大喜び。

 さっそく喜び勇んで、難攻不落だったハチの巣に挑んでいく。


 鼻マスクの効果はてきめんで、現地のフォレストベアも、遠巻きに見ていたシラユキも大喜びだった。


「すごいすごい! 鼻マスクのおかげで、フォレストベアさんぜんぜん痛くなさそうだよ!

 あんなすごいものをちゃちゃっと作っちゃうだなんて、さすがソラくん!」


 フォレストベアは小一時間ほどの格闘で、両手いっぱいのハチミツを手に戻ってきた。


「くぉんくぉん、くぉぉぉぉーーーーんっ!」


 どうやらこのハチミツを手に入れるのは悲願だったのか、嬉し泣きしている。

 「よかったね、フォレストベアさん!」とシラユキも嬉しそうだった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 目的のものを手に入れた僕たちは、フォレストベアと別れ、フォレスの森をあとにする。

 エクスマギアへと繋がる街道を歩いていると、シラユキが夢見心地の溜息をついた。


「はぁ……。まだ、信じられないよ……」


「なにが?」


「こんなに難しいクエスト、ふたりだけじゃ絶対に無理だと思ってたのに……。

 まさかこんなに楽に、こんなに楽しく達成できるだなんて……」


 それは僕もそうだった。

 『ソーラー・パワー』のスキルがまさかここまで役に立つだなんて思わなかった。


「でも、よかったね。これで有終の美を飾れるじゃないか」


「……ソラくんは、これからどうするの?」


「まだ考えてないけど、とりあえず帝国を出て、他の国に行ってみようと思う」


「えっ? 帝国の外に行くの?

 帝国の外って魔導装置があんまり普及してないから、すごく未開で、生きていくのにも苦労するらしいけど……」


「うん、そうみたいだね。でも僕、外の世界を見てみたいんだ。

 魔導装置に乏しい国の人たちが、どうやって生きてるのかって」


「……なら、わたしも一緒にいっていい?」


「えっ?」


「決めた! わたし、冒険者課を辞めたあと、ソラくんと一緒に旅をする!」


「ええっ!? 民間の冒険者ギルドに、再就職するんじゃないの!?」


「最初はそのつもりだったけど、ソラくんといっしょにクエストをしてて気が変わったの!

 だって、一緒にいてこんなに楽しい仲間、ソラくんが初めてなんだもん!

 だからお願い! わたしも一緒に連れてって! ねっ!? いいでしょ!? ねっねっ!?」


「で、でも、女の子とふたりで旅なんて……」


「にゃーっ! にゃにゃーっ!」


「トムくんもいるじゃない! それにほら、トムくんはいいって言ってくれてるよ!」


 シラユキとトムからわーわーにゃーにゃーと詰め寄られ、僕は同行を承諾せざるをえなくなってしまった。

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