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06 剣姫シラユキ

 逃げ出した男たちを捕まえるのは簡単だったけど、それよりも僕は女の子の元へと向かう。


 女の子はエルフ族のようで、腰まで伸びたストレートの銀髪をしていた。

 目隠しをされているので周囲の状況がわからず、かなり戸惑っているようだった。


 エルフ族の特徴である長い耳を、不安そうに斜めに下げたまま、あたりをキョトキョトと見回している。


「な……なにが、起ったの……?」


「大丈夫ですか? 縄を切ってあげますから、じっとしててくださいね」


 僕はそう断ってから、女の子に近づいて、両手の縄をショートソードで切断する。

 そして目隠しも取ってあげようとしたんだけど、それよりも早く彼女の両手が僕をつかまえた。


 ……ぎゅっ!


「あ、ありがとう! ありがとう! 本当に、ありがとう……!」


 女の子は感謝の言葉を繰り返しながら、僕をきつく抱きしめる。


 どうやら、よっぽど怖かったらしい。

 声も、身体もカタカタと震えている。


「あなたを襲っていたヤツらはいなくなりましたから、もう大丈夫ですよ」


「震えが、震えが止まらないの……! お願い、もうちょっとだけ、このままでいさせて……!」


 僕は「いいですよ」と言ったものの、実を言うとかなり緊張していた。

 女の子に抱きしめられるなんて、生まれて初めてのことだったから。


 艶やかな髪がふわりと鼻を包み込み、花のような香りでいっぱいになる。

 押し当てられている身体は、まるでマシュマロみたいだった。


 女の子って、こんなにいい匂いがして、こんなに柔らかいんだ……。

 僕はこんな時だというのにドキドキしてしまった。


 気持ちを落ち着かせるために『ホット・ホット』を発動。

 すると僕の耳元に、甘やかな吐息がかかる。


「はふぅ……。胸が張り裂けそうなくらいに怖かったのに、あなたを抱きしめたら、すごく落ち着いた……。

 今はすごく、いい気持ち……」


 そうだ。『ホット・ホット』はスキルレベルが2で、効果範囲が広がってるんだった。

 どうやら彼女にもホッとする効果が及んだらしい。


「あなたって、不思議な人ね……。身体は小さいのに、すごくあたたかくて、大きい……。

 まるで、わたしの大好きな人みたい……」


「落ち着いたみたいですね。それじゃ、目隠しを取りますよ」


 目隠しの下から現れたのは、活発そうに輝く瞳の美少女だった。

 僕と彼女は同時に「「あっ」」となる。


「シラユキ、さん……?」「ソラ、くん……?」


 次の瞬間、シラユキさんの美しい顔が、ボンっと燃え上がるように赤熱する。


「ひゃああああっ!? まさか本当に、ソラくんだったなんてぇぇぇぇーーーーっ!?!?」


 シラユキさんは『冒険者課』に所属している冒険者で、先ほどの男たちの上司にあたる。

 職業(ジョブ)は剣士で、『剣姫』と二つ名を与えられるほどの、美麗なる剣舞を得意としていた。


 元々は子ギルドにいたんだけど、その腕前を見込まれて、親ギルドである『冒険者課』に配属となる。

 そこでも剣の腕前を活かし、被支配国民であるにもかかわらず、メキメキ出世していったんだ。


 剣姫と呼ばれるだけあって、まさにお姫様みたいな美しい人だったので、僕には近づくことも許されないような雲の上の存在。

 しかしなぜ彼女が僕のことを知っているのかというと、僕は彼女を助けたことがあったから。


 かつて王城の会議室で、ブタビッグ大臣が、しびれて動けなくなったシラユキさんを襲おうとしていた。

 僕はそのときすでに窓際族だったので、ヒマつぶしに作った魔導遠眼鏡(とおめがね)をかけ、自席の窓から外を眺めていたところ、偶然にもその光景を目撃。


 僕は脊髄反射で彼女を助けに行く。

 ブタビッグ大臣から、「邪魔するとブッ飛ばすブヒ!」と脅されたけど、かまわずに向かっていった。


 もちろんケンカをしたところで敵うはずもなく、僕はボコボコにされてしまう。

 でもうまいこと、シラユキさんだけは逃がすことができたんだ。


 そして今日、久しぶりに彼女と再会した。


 シラユキさんは僕の顔を見るなり、雪のように白い肌を真っ赤にしてわたわた慌てていた。

 でもしばらくして落ち着いたあと、まるヒーローを見るみたいなキラキラした瞳で僕を見つめる。


「そ……ソラくん、また会えて嬉しいな!

 まさかこうしてまた助けられるだなんて、ソラくんには感謝してもしきれないよ!

 本当に、ありがとうね!」


 シラユキさんはペッコリ頭を下げたあと、ニッコリ微笑む。

 僕はお礼を言われることなんて無かったので、それだけで照れてしまう。


 彼女はなぜか、心底うらやましそうな溜息をついていた。


「はぁ……。ソラくんみたいな優秀な人が、『冒険者課』にいてくれたらなぁ……」


「僕が優秀? そんなことはないです」


 僕は本心で言ったのに、シラユキさんは「またまたぁ」と茶化す。


「ソラくんみたいな優秀な人が『魔導装置課』にいるから、エクスマギア帝国はあんなに大きく、あんなに立派になったんだよ」


 さすがにそれは言い過ぎだ。

 しかしそう言っても、シラユキさんは取り合ってくれなかった。


「ふぅーん。そんなに謙遜するなら、ソラくんをヘッドハントしちゃおっかな、なーんて」


「ぜひそうしてください。僕、『魔導装置課』を今日でクビになっちゃいまし」


「へぇ、じゃあ今日からさっそく、ウチの部署に……」


 冗談めかして言っていたシラユキさん。

 しかし不意に耳の中に水を入れられたみたいに、ハッとなっていた。


「そ、ソラくん、いまなんて言ったの!?」


「『魔導装置課』をクビなったって言ったんです」


「うっ……うっそぉぉぉぉーーーーっ!?

 ソラくんみたいなすごい人が、なんでなんで、なんでぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 なにをそんなに驚くことがあるのだろう。

 シラユキさんは目をまん丸にし、口をあんぐりさせて、本気で仰天していた。

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