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05 怒りのソーラー・ダッシュ

 僕たちにはもう、怖いものなんてなにもない。

 今なら、ずっと格上のモンスターにだって勝てそうな気がする。


 僕は思い切って、森のさらに奥深く、ゴブリンよりも強いモンスターが出る地域に行ってみることにした。

 この森へは何度か来たことがあるんだけど、今まではレベル1なうえにひとりだったので、踏み込んだことのない領域だ。


 そこには豚のようなモンスターの『オーク』、そしてこの森のヌシのような熊型のモンスター『フォレストベア』がいるという。

 どっちも僕よりずっと大きく、僕よりずっとずっと力が強い。


 普通の冒険者すら敬遠するフォレストベアは無理だとしても、オークくらいならなんとかなるかもしれない……。

 そう思っていたんだけど、それ以上に最悪の相手と出会ってしまった。


 なんと、エクスマギアの『冒険者課』のメンバーである5人組の男。

 そいつらが、目隠しのうえに両手を縛り上げた女の子を、森の中で襲おうとしているのを見てしまったんだ。


「や……やめて! なにをするのっ!? 誰かっ、誰かぁぁぁぁーーーーっ!?」


 女の子は泣き叫びながら、這いつくばって逃げようとしている。

 片脚がへんな方向に曲がっていて、立ち上がることもできないようだ。


 男たちは女の子を見下ろしながら、下品に笑っていた。


「ハハハ! いくら叫んだって無駄だぜぇ! こんな森の奥深くじゃ、誰も助けに来ねぇよ!」


「ヒヒヒ! 剣姫(けんき)サマはこんな汚れクエストをやったことないから、知らなかったんだろうぜぇ!」


「フフフ! トリキチン大臣の指示どおり、与えられたクエストを、無理やり失敗し続けた甲斐があったってもんだ!」


「ヘヘヘ! 騙して森に連れ込んだ女を抵抗できなくして、じっくり怖がらせて楽しむのはやめらんねぇなぁ!」


「ホホホ! 名づけて『子鹿ちゃんゲーム』! さぁさぁ、逃げろ逃げろぉ! でないとこうだぞぉ!」


 男たちは手にした木の枝で、女の子のお尻や脚を叩いて追い立てている。

 僕はもう、一も二もなく飛び出していた。


「や……やめろっ!」


 男たちは「あぁん?」と振り返る。


「なんだぁ、テメーは!?」


「あれ? コイツ、『魔導装置課』のコビットじゃねぇか?」


「そうだ! 俺たちのクエストに、荷物持ちとして参加してたガキだ!」


「あっ、思いだした! クエストに連れ出した新人の女冒険者たちをかわいがってやろうとしたら、正義の味方ヅラして止めてきたんだよな!」


「コイツが居やがったおかげで、俺たちはしばらくセクハラ野郎扱いされちまったんだ!」


「テメェ、こんな所までお楽しみを邪魔しにくるだなんて、なんのつもりだっ!?」


 ……エクスマギアというのは当初は小国だったんだけど、魔導兵器を主軸とした軍隊で隣国を制圧し、帝国となった。

 そこから、純帝国民と呼ばれる者たちは、被支配国民に対して酷いパワハラとセクハラをするようになった。


 立場的には同じ帝国民であるにもかかわらず、勝手にヒエラルキーを作りはじめたんだ。


 男たちは純帝国民で、帝国の『冒険者課』に所属している。

 これはいわば、『帝国立冒険者ギルド』のようなもの。


 『冒険者課』は、すべての冒険者ギルドの頂点に位置しており、民間の冒険者ギルドを子ギルド化している。

 その子ギルドにいる女性は、自分の奴隷みたいに扱うんだ。


 そんなのはおかしいと、僕は事あるごとに抗議していた。

 他のみんなは、花形部署である『冒険者課』のメンバーに目を付けられたら大変な事になるからと、見て見ぬフリをしているのに。


 注意したら僕がボコボコにされるだけなんだけど、どうしても許せなかったんだ。


 辞めてしまった今となっては、彼らが何をしようが関係ない……そう思うつもりでいた。

 そのはずなのに、身体が自然と動いていたんだ。


 相手の5人組はプロの冒険者で、僕よりずっと強い相手なのに……!


 その恐怖を感じ取ったのか、5人組はさらに下卑た笑い声をあげる。


「ヒャハハハハハ! おい、見ろよ! このガキ、震えてやがるぜ!」


「ウヒヒヒヒヒヒ! 脚なんでガクブルだぜ! そのうち漏らすんじゃねぇか!?」


「ムフフフフフフ! おい、コイツの脚もへし折ってやるってのはどうだ!?」


「ギヘヘヘヘヘヘ! 面白ぇ! そしたらますます楽しめそうだ!」


「ドホホホホホホ! このガキがゴブリンのオモチャになっているところを見ながら、女をヤルとするか!」


 僕の肩にいるトムは、ふーっ! と毛を逆立てている。

 おかげで僕は勇気づけられた。


 こんなにちっちゃなトムが、こんなに大きな相手に一歩も退いていない……。

 だから僕も、逃げてたまるかっ!


「うおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 僕は、レベル2に上がったばかりの『ソーラー・ダッシュ』にありったけのSPをつぎ込む。

 5人の男たちの間を、一気に斬り抜ける。


 ……そして僕は、閃光になった。


 ズドォンッ!! と衝撃波とともに木々がなぎ倒される。

 男たちは魔導列車に弾き飛ばされたみたいに、天高く宙を舞う。


 爆音とともに斬り抜けた僕は、唖然となっていた。


 まさかプロの冒険者を、5人まとめてやっつけちゃうだなんて……!?


 男たちはきりもみをしながら、どしゃりと地面に叩きつけられる。

 そして悲鳴とともに、殺虫剤をかけられた虫みたいにのたうち回りはじめた。


「いっ、いでぇいでぇいでぇ、いでぇよぉ~~~っ!?」


「ほっ、骨が、骨が折れちまったぁ~~~っ!?」


「立てねぇっ! 立てねぇよぉ~~~っ!?


 僕は背が低いので、斬り抜けの一撃は男たちの太ももを捉えていた。

 その時にポッキリとした感触があったんだけど、まさか彼らの大腿骨をへし折っていたとは。


 大腿骨は人間の骨でも、歯の次に硬い骨と言われている。

 それを小枝感覚で、追ってしまうだなんて……。


 僕は信じられない気持ちでいっぱいだったけど、男たちのほうはそれ以上の驚きに打ちのめされていた。


「なんだこのクソガキっ、めちゃくちゃ強ぇぞっ!?」


「た、太刀筋が、まったく見えなかった!」


「逃げろっ、逃げろぉぉぉぉっ!」


 ギイギイと鳴きながら、男たちは逃げ出す。

 脚が折れて立てないようなので、両手で這いつくばって。


 その声と姿は、死にかけの虫みたいに憐れだった。

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