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01 ソーラー・エクスペリエンス覚醒、超光速レベルアップ

 僕は今日、お城をクビになった。

 お城の大臣である、トリキチン大臣とブタビッグ大臣が僕の席にやってきて、いきなりまくしたてたんだ。


「コケェーッ!

 ソラ君、キミはクビだ! 即刻、ここから出ていくんだコケっ!

 ギルド寮にも連絡済みで、キミの部屋の荷物はぜんぶゴミ捨て場に移しておいたコケっ!」


「ブヒィーッ!

 お前ほど、他人の足を引っ張るのが得意なヒート、いや、コビットは初めてだブヒっ!

 いままでは『ソーラー・パワー』があったから、仕方なく置いてやったが、もう用済みだブヒっ!」


 トリキチン大臣は僕の席のすぐそばにある窓を押し開き、ブタビッグ大臣が僕の襟首を掴む。

 息の合ったコンビネーションで、僕はあっという間に外に放り捨てられてしまう。


 僕は高いお城の窓から落とされて死ぬかと思ったけど、すぐ下にあった中庭の植え込みに落ちたおかげで助かった。

 葉っぱまみれになった僕に向かって、ふたりの大臣は、無傷であることがさも残念であるかのように舌打ちする。


「チッ! 運のいいやつコケっ! だが、覚えておくがいいコケっ!

 お前はもう、我ら王族のトサカに触れてしまったんだコケっ!」


「ブヒッ! もはや民間には根回し済みで、お前を雇ってくれるような所は、このエクスマギアにはどこにもないブヒッ!

 お前はこれから一生、日陰者として暮らすんだ! ブヒィーッ!」


 ピシャリ! と閉じられる窓。


 僕は長年勤めてきたお城、今では魔導装置によってフルカスタムされた建物を、植え込みに大の字になったまま眺める。

 天を衝くほどの高層建築となっているお城の窓には、騒ぎをききつけたのか多くの王族たちが覗き込んでいた。


 僕がつまみ出されたのだとわかると、王族たちは男も女もみな「いい気味だ」みたいな顔をしている。

 僕は、このお城の中で空気の読めないことばかりを繰り返し、どうやらすべての王族たちを敵に回してしまったようだ。


 ……僕なりに、この国のことを考えて、がんばったつもりだったんだけどなぁ……。


 僕は植え込みから這い出ると、身体についた葉っぱを落とすのも忘れ、とぼとぼと歩きだした。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 僕はいったん寮に行き、荷物を回収する。

 トリキチン大臣の言っていたとおり、僕の荷物はゴミ捨て場にあって、ご丁寧に生ゴミの奥深くに突っ込まれていた。


 僕の荷物はほんの数個しかない。

 まず、コビット族に伝わる重量軽減の魔法錬成がかかった、やたらとおおきなリュック。


 背負うとマントみたいに垂れて、地面すれすれになるんだ。

 中身は、子供の頃から使っているスリングショットと、コビット族に伝わる非常食『スニッパー』がちょっと入っているだけ。


 あとは初任給で買ったショートソードと、盗賊(シーフ)ツールの仕込まれたグローブ。

 この『エクスマギア帝国』のなかでも優秀な冒険者だけが所属できる、『冒険者課』に入りたくて揃えたものだけど、結局転属はかなわなかった。


 なぜなら僕は、生まれながらにしてレベルアップできないという奇病を患っていたから。

 いくら訓練しても、いくら戦ってもレベル1のまま。


 それでも、強力な戦闘スキルでもあれば良かったんだけど……。

 僕が生まれながらにして与えられたスキルツリーは、『ソーラー・パワー』。


 太陽の光を浴びると体内に力がチャージされ、それを魔力に変換して放出できるスキル。

 ようは『非戦闘スキル』だったんだ。


 そのスキルを活かし、僕はこの帝国で『魔導装置課』に就職。

 魔導装置の技師をやっていた。


 魔導装置というのは自動で動く機械のことで、魔導人形(ゴーレム)なんかが代表的だ。


 その原動力となる魔力は貴重なもので、普通は他人に分け与えたりすることはできない。

 でも僕は太陽の光を魔力にでき、しかも他人や魔導装置に与えられたので、重宝された。


 しかし最近、『オーマ・パワー』と呼ばれる、魔力を生み出ための新しい仕組みが開発されたんだ。

 細かい原理は省くけど、それが莫大な魔力を生み出せるので、僕の『ソーラー・パワー』の出番は日に日に無くなっていく。


 さらに、僕は空気の読めない言動が多かったようで、そのせいでお城の王族たちから嫌われていた。

 用済みとなった時点で、僕はすぐさまお城の窓際に追いやられてしまったんだけど……。


 そして今日ついに、大ナタが振り下ろされてしまったんだ……!


 僕は城下町の片隅にある、小さな公園のベンチでうなだれていた。


 これから、どうやって生きていこう……。

 ブタビッグ大臣は民間に根回しをしたというから、再就職は不可能に近い。


 僕は、挫けない心だけが取り柄なところがあった。

 今までどんなに失敗しても、疎まれても、何度でも立ち向かうだけの気持ちがあった。


 でも今回は王族が相手のせいか、ぜんぜんそんな気持ちが湧いてこない。

 それも、無理もないだろう。


 だって過去に城勤めから追い出された者で、幸せになった者はいない。

 辞職の理由にかかわらず、みんなもれなく路上生活者になって、のたれ死んでいるという。


 僕もこのまま、嫌がらせの連続にあい、路地裏で息絶えてしまうんだろうか……。


 僕はベンチの背もたれに身体をあずけ、天をあおぐ。

 空は灰色の雲に覆われており、まだ昼間だというのに、ひと足早い夜がやってきたかのように暗い。


 公園内を吹き抜ける風は強くて寒い。

 僕の心にあったはずの太陽もすっかり沈み、死にたい気持ちでいっぱいになっていた。


 しかしふと雲間から、わずかに太陽が覗く。

 天使の梯子のような光が降りてきて、僕の額を照らした途端……。


 僕の目の前に、信じられないものが現れたんだ。



『新スキル「ソーラー・エクスペリエンス」が覚醒しました!』



 新たなるスキルの覚醒を知らせる、ステータスウインドウ……!


 僕は生まれてから一度も、この新スキル覚醒の知らせを受け取ったことがなかった。

 だから『ソーラー・パワー』のスキルツリーは、初期にある基本スキル以外は一切増えないものだと思っていた。


 僕は落ち込みすぎるあまり、幻覚を見たのかと目をこする。

 しかし青い半透明のウインドウは、なおも僕の目も前に浮かんでいる。


 ……う、ウソ、でしょ……!?


 僕は蜃気楼に手を伸ばすように、ステータスウインドウに触れる。

 すると、僕のステータスが現れた。


--------------------------------------------------


ソラ・クリアスカイ


 ステータス

  LV 1

  HP 10 / 10

  MP 10 / 10

  SP 10 / 10


 スキル

  ソーラー・パワー

   基本

    01 ソーラー・チャージ

    01 マジック・シェア

   余剰

    New! 01 ソーラー・エクスペリエンス


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 ステータスの上にあるのは、僕の状態を表しているパラメーターだ。


 『HP』は体力、『MP』は魔力を示している。

 そして『SP』というのは、蓄えた太陽エネルギーのこと。


 僕はなぜかレベルが上がらない体質だったので、ずっと初期値のままだ。


 ステータスの下には、スキルツリーがある。

 スキルツリーは覚醒したスキルを一覧にしたもの。


 早い人間だったら、物心つく頃には新しいスキルが開眼するという。

 でも僕はこの歳になっても、基本のスキル以外はひとつも覚醒しなかった。


 それがなぜ、今頃になって……!?


 などと戸惑っているうちに、さらに信じられないことが起こる。

 ステータスウインドウに被るようにして、またしてもはじめてのウインドウが現れたんだ。



『レベルが2になりました!』



 ……れ、レベルアップした!? 僕、なにもしてないのにっ!?

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