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【新春怪談】−恐怖連鎖−[旅館のトイレ]

作者: しえすた



15年ぶり会った同級生と一緒に、〇〇県に旅行に出かけた。

同窓会で再会したUは昔から気の強い子で負けず嫌いだった。

その反面私はどちらかとゆうと人見知りで、彼女は学生時代の少ない友達の1人だ。

Uは5年前に結婚していて、2人の子供がいる。

最近旦那さんとすれ違いが多いらしい。

私も2人の子供がいるが旦那とは離婚していた。

傷心を慰める為にも、温泉で気分を紛らわせようと考えた。



ネットで格安に泊まれる旅館がいくつかあったので、友達と東北にある旅館にした。

そこは昔ながらの雰囲気があった。

風情がある、とゆう感じだ。

白亜の壁に、重厚感のある黒塗りの屋根。

本館と別館があり、2棟を繋ぐ石畳の両脇には小さな庭と水琴窟がある。



「どうぞ、ごゆっくり」


フロントで鍵を貰い、部屋に向かう。

旅館の人から貰ったパンフレットと館内地図を見ながら赴きのある空間を進んだ。


《絹更紗の間》


ここが、彼女と泊まる部屋になる。

広めの和室で襖も真っ白で傷1つ無い。

新調したのだろうか、畳の香りが上品だ。


少し休憩してから、一階の露天風呂へ向かう途中、2人でお手洗いに行く事にした。


ヒヤッと冷たい空気が足下を吹き抜ける。

雪の中を裸足で踏みしめた様に痛みさえ感じた。

黒いタイル張りで、個室は綺麗な造り。

けれど、なんだろう。


不気味だ。



他の人もおらず、物音も自分がたてる足音しかしない。

怖くなって出口から1番近いトイレに入った。

何故か鳥肌が止まらない。


頭の上から音が鳴る。

見上げても何もない。


キィ…、キィ…、キィ…


キィ…、キィ…、キィ…



私はすぐ用を済ませてUの元へ走った。

Uはお手洗いの手前で下を向いている。


露天風呂に行き、ゆっくり寛いだ私達は、料理が出来るまでお土産屋さんで時間を潰した。

さっきまで明るく話していたUが突然口数が少なくなった。

顔色も良くない。



「どうしたの?」


私の問いかけにビクッと反応してUは俯きながら小さな声で話した。


「あのね…トイレに人がいたの」


「人?私とUしか居ない筈だよ、だって」


「私はトイレに入ってないの。すぐ出たのよ、貴方がトイレに入る直前に見たの。首吊りした女性の姿を……」


それを聞いて私達は次の日すぐ旅館を出た。

後でネットで調べてみた。


私はぞっとした。


その旅館では不倫していた男女の無理心中があった。

男性は焼身自殺、女性はトイレで首吊りをした。


そして、その男性が亡くなったのは2人が泊まったあの《絹更紗の部屋》だった。








【新春怪談】−恐怖連鎖−[東病棟の武井さん]





〇〇大学にある女子サッカーのサークルで、左足を骨折してしまった私は2週間入院する事になった。


私が入院する〇〇病院は、東病棟と西病棟に分かれていてリハビリは新館として建てられていた。


左足以外は元気な体だったので、毎日が退屈だった。

西病棟の病室を抜け出し、松葉杖を突きながら散歩したりして気を紛らわす。

たまに受付の近くにあるコンビニに寄っては3食では足りない胃袋をお菓子で凌いだ。


受付の大きなフロアの端に長い廊下が3つある。

左は手術室、中央は診察室、右は東病棟に続く連絡口になっていた。


(どんな所だろう?)


好奇心が勝って渡り廊下をゆっくり進む。

その途中、初老の男性がスロープに手をかけ、渡り廊下の窓の外をじっと眺めていた。

磨りガラスで見えないようにしてるのに。


私は横目でそれを眺めながら通り過ぎようとした時だ。


「そっちはどんな所だい?」


私がやってきた方向を指して聞いてきた。


「?」


「そっちに行きたいもんだ」


黄緑色のメガネを掛けたおじいさんは穏やかな顔をしていた。


「ほら、お風呂の時間」


後ろから看護師さんに声をかけられた。

一瞬おじいさんに背を向けたが、振り返るともういない。


「あれ?」


「どうしたの、何かあった?」



「さっきおじいさんが居たんです、黄緑色のメガネをしてて…」


それを聞いて看護師さんはまたかぁと溜息をついた。


「その人は東病棟の武井さんっていうの。末期がんであまり体は動かせないんだけど、夜中車椅子を使って

ここから飛び降りたの」


看護師さんは窓を開けた。

そこには渡り廊下の、窓全てに飛び降りを防止するネットがびっしり貼られていた。



そっちに行きたいもんだ。




その言葉は、そっちで生きたいと言う意味かもしれない。















【新春怪談】−恐怖連鎖−[深夜のコンビニ]







都内にあるコンビニで夜勤をしていた俺は右手の自動扉から1人の客が入ってきたのを目にした。

年齢は20才後半位で、俺と世代が同じだ。


「いらっしゃいませ、」


雑誌エリアを通り抜け、飲み物があるガラスのショーケースに立ち止まった。

背を向けた状態でじっとしている。


もう深夜の2時。

俺ともう1人のバイト店員K、あの客以外、店内は誰も居ない。

レジでおでんの具材を入れながら、店内をぐるっと見渡す。


Kはドリンクの補充に入っているから裏側からあの客が見えているだろう。


お客はすぅっ…とそこから離れ、ジュースとお菓子を手にしてレジに現れた。

見た目はスーツを着たサラリーマンだと思う。

左薬指に光る指輪。



会計が終り、ビニール袋に入れて渡した。

お客はまたすぅ…と店から出て行く。



その後、裏側からバタバタと血相を変えてKが走ってきた。


「さっきの客は?」


「行っちゃったけど」


「あれ人間じゃないって」


「何言ってんだよ、足ついてたし」


「透けてたんだよ!ガラス越しに見たら、レジにいるお前がうっすら見えるんだよ」


俺が見た時ははっきりした顔だった。

俯いていたけど、目鼻立ちがくっきりした細めの男性。少し青白かった気がするけど……。



俺達は悶々としながらも朝がきた。


朝、店長がやってきた。

パソコンを叩いている時、思い切って聞いてみた。


幽霊を見た、それを聞いた店長はカレンダーを見る。

そうか、と溜息をついてゆっくり口を開いた。


「その幽霊、この店の常連さんだよ。サラリーマンをしていて、子供の為にお菓子を買って帰る人なんだ。

でも、手前の交差点で事故に遭って。今日がその49日だから、ここにやってきたんじゃないかな」


俺がバイトする前の話だ。

店長は、その常連客が事故に遭う前ここでお菓子を買っていくのを見届けている。

右手にはケーキの箱を持っていた。




嬉しそうに店を出て行く背中を見送った後、大きな地鳴りと、ブレーキ音。

そして衝撃音が周りを騒然とさせ、その日テレビのニュースに大きく取り上げられたらしい。









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