ウェポンマスターに目覚めるまで
俺はドワーフの偏屈じじぃに育てられた。所謂孤児ってやつだな。なんでも、人里から離れた山の麓にお包みだけで置かれていたらしい。名前が書かれたようなものもなかったとか。どうでも良いし、聞いてもいないが。たまたま、じじぃが山から降りた時に見つけて、仕方なく拾って帰ったんだと。まぁ拾った理由が、俺がドワーフと人間のハーフだったからだって聞いた時はそんな事かよって思ったが。俺には未だにハーフだって実感なんてない。じじぃ程手先が器用なわけじゃないし、力持ちでもない、でもじじぃみたいにちっちゃいわけでもない。どっちつかずのダメなやつだと自分でも思うよ。それでも、今生きていられるのはじじぃが拾ってくれたからだ。理由が何であれ感謝してる。恩返しもしてぇ。でも、どうすりゃ良いのか分かんねぇんだよな。
じじぃはこの集落の中で一番の鍛治職人でどんな武器でも作る。ただ、偏屈さも一番で、素材にはとことんこだわるし、武器を扱う冒険者どもも選ぶが。それでも制作の依頼は常に来る。
そんな時にじじぃに追い返された冒険者が腹いせに徒党を組んで暴れに来やがった。ドワーフの中でもここの集落は生産特化で戦闘が出来る奴なんて誰も居なかった。ちょうど商人達もいない時期で、当然その護衛達も居ない。
俺は咄嗟にじじぃの店に置いてある鈍刀を手にして攻めて来た冒険者一人を打ち倒した。当然切れるわけもないがそれでも昏倒させることが出来た。それからは無我夢中で襲って来る冒険者と戦った。途中鈍刀じゃなくて棍を使ったり、槍をぶん投げたりもしたが、よく覚えていない。凄く長く戦ってた気がする。
襲って来た冒険者がみんな倒れたのを確認したら、どっと疲れが押し寄せて来て俺も倒れちまった。
少しして目を覚ますと、じじぃが俺の顔をじっと見つめてた。流石に顔が近くてビビったぜ。
「お前、どこで武器の扱いなんぞ知った。儂は鍛治しか教えとらんぞ。」
そんな事聞かれても俺だってしらねぇよ。
「無我夢中で振り回しただけだろ。」
そう答えるもじじぃが呆れた顔で溜息つきやがった。
「んだよ。なんで残念な奴見るみたいな顔してんだよ。てかあの逆恨み野郎どもはどうなったんだよ。みんなは。誰も怪我してねぇよな。」
「皆は無事じゃ。何処ぞの阿呆のおかげでな。今さっき儂の武器を受け取りにきた冒険者に頼んで縛り上げて街まで引っ立てて貰ったとこじゃ。」
そうか。じじぃの客なら実力も性格も問題ねぇな。安心したらまた眠気が来た。じじぃがまだ何か言ってた気もするが、そのまま寝ちまった。
次に目が覚めたら、肉の焼ける良い匂いがした。食卓に行くと、じじぃに「半日以上よく寝るもんじゃ。」って言われた。しくった。俺は好きな飯を3食も食いそびれちまった。
寝てた分も食う勢いで口一杯に肉を詰め込んでいく。美味い!今日はなんか豪勢じゃねぇか。よく見ると台所で集落のばぁさんたちがせっせと美味いもん作ってくれてる。こりゃなんだ。でも気にしてねぇでとりあえず食わねぇと勿体無いぜ。
「お前、食い意地はっとるのぉ。話聞く気もないじゃろ。」
じじぃが何か言ってるが飯が優先に決まってる。
「ばぁさん、この肉と野菜の炒め物おかわり!」
ひたすら食べ続けて、やっと満足したぜ。ふぅ。流石にもう食えねぇな。
「おい、儂の分まで食いよったな!8人前くらいは有ったんじゃぞ!どんだけ食い意地はっとるんじゃ!」
怒鳴られて、頭に拳骨落とされた。痛すぎて悲鳴も出ねぇ。目がチカチカする。
「まぁまぁ、今回のご馳走は最初からアイツらをやっつけてくれた坊やのなんだから殴ることは無いじゃないかい。坊や、みんな感謝しとるよ。だからこのご馳走はお礼さね。美味かったろ。ありがとうね。じゃ、わたしらはお暇するからね。」
ばぁさんたちがそう言ってぞろぞろ帰って行く。そっか、俺無我夢中だったけど、みんなのことちゃんと守れたんだな。寝て食ってやっと実感が湧いて来たぜ。
「あの野郎共って意外と弱かったんだなぁ。適当に武器ぶん回しただけの俺でも気絶させれるなんて、そりゃじじぃが武器作ってやらねぇわけだわ。」
じじぃの人を見る目はやっぱりすげぇんだな。そもそも武器作ってもらえなかった腹いせに暴れ回るような野郎だからじじぃに認めてもらえないんだな。
「阿呆が!いくら弱かろうとぶん回しただけで気絶させられる訳なかろう。そもそも昨日のお前の戦いぶりは武器をぶん回すなんてもんじゃなかったわい。刀も棍も槍も弓もきっちり使いこなしておったわ。このたわけ。」
「………は?んなわけねぇじゃん?俺鍛治は教えてもらったけど、武器の扱いなんざ知らねぇぞ?」
「だから、昨日同じ事を聞いたじゃろ。するっと無視して寝たのはお前じゃ。」
「そういや、そんな事を訊かれたような?でも俺夢中でやってたから覚えてねぇけど。」
「わかっとる。だからこれから確認するのじゃ。行くぞ、着いて来い。」
じじぃに言われて、とりあえず着いて行くことにしたが、俺が武器を使いこなせたのは火事場の馬鹿力みたいなもんじゃねぇのかなぁ。
連れて来られたのはじじぃの鍛冶屋の隣試し切りとかする為の広い場所だった。まさか俺にここでやってみろって言うんじゃねぇよな…。
「鈍刀でも扱えたんじゃ、儂の試作品でも扱えるじゃろ。ほれ、こっちから順番に構えてみせぃ。」
え、まじかよ。台の上に刀から順に両刃剣、片手剣、短剣、大剣、斧、棍、槍、弓、なんかよく分かんねぇ鎖の武器やらが並んでるぞ。これ全部構えろって言うのかよ。
呆然とじじぃを見るも、早くやれ、と目がまじだ。やらねぇといつまでも終わらねぇやつだ。
腹括って順番に手にすると、最初から俺のもんみたいにしっくり来る。あれ?俺鍛冶より武器構える方がしっくり来るぞ?とりあえず、置いてあるもん全部試してみた。
「全部の武器持ってみてしっくりきたんじゃな。そんなんじゃな。」
じじぃが凄い目で詰め寄って来たから、人形みたいにひたすら頷いた。それを確認したじじぃが何か考え込み始めた。な、何なんだよ。ビビるじゃん。てか、なんで俺名前も知らねぇような武器までちゃんと構えれたんだろうなぁ。変なの。
「お前は鍛治師じゃなくて武具職人の才があったんじゃのぉ。儂もまだまだじゃな。」
「ウェポンマスター?何だそりゃ?おい、じじぃ、どーゆーことだよ。説明しろよ。そんな言い方じゃわかんねぇよ。」
「阿呆じゃの。そのままの意味じゃ。どんな武器でも扱える者のことじゃ。お前のようにの。まぁ、滅多に居るもんじゃないからの。知らなくても不思議じゃないわい。」
俺がウェポンマスター?確かに武器持った時にしっくりはきたが、それだけで?
「まだ実感が湧かんのじゃろ。儂に武器を作りに依頼に来る冒険者に訓練でもつけて貰え。そしたら実感も湧いて来るじゃろ。」
そんなことを言われても…あれ?俺もしかして冒険者向きって事か?冒険者になったら稼いで良い素材沢山仕入れてじじぃに恩返し出来るんじゃね?
「よ〜し、わかった。冒険者にあれこれ聞いてちゃんと武器使えるようになれば良いんだな!やってやろうじゃん!」
俺がやる気出したのに、じじぃは何か呆れた目をして来てた。ろくでもない事考え始めたとか思ってんだろうな。でも俺は決めたからな。
めっちゃ有名なウェポンマスター?になって素材をガンガン手に入れるんだ!
これから強くなってやるぜ!
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