結
かくして、今年の甲子園で全国優勝、それも、全回一球しか投げないという破格のプレイで成し遂げた山崎は、一躍時の人となった。
「…本当に、神奈川準決勝の横浜大門がヤマだったな…」
山崎のチームメイト、宮本と村上は、誰も居ないのを確認しつつ、キャッチボールをしながら語り合っていた。
「山崎は…本当にすごいやつだよ。
一日に9球しか投げられないという制限があるのに、優勝しちまうんだからな…」
「横浜大門でコールド勝ちできなければ、9回の守備では山崎は下がるしか無かった。
そうなると、何点取っていようが、横浜大門を抑えられるピッチャーなんて誰もいない。
間違いなく負けていたな」
「全くだ。だが、あれで…大山田さんが犠牲になったお陰で、他のチームも真っ向から勝負するしか無くなった。
県大会決勝からはコールドはなくなり、一球の猶予も無くなっていた山崎には、最高の追い風だったな」
「ああ、真っ向勝負の繰り返しなら、もう山崎の思う壺だった。甲子園は負ける要素は微塵も無かったな。
スタンドからもものすごい、前人未到の大記録がどこまで伸びるかのオンパレードだ。
あの中で見逃しなんてできるはずもない」
「確かにあの球は、見れば打たずにいられない、打たなければ壊れる呪いがかかっているが…
別に見なきゃいいんだもんな。
目隠しして打席に立てばいい。種が分かれば破りようもあるんだが…」
「しかしなんだろうな、山崎のあの力は。
命と引き換えに悪魔と取引して、一日に9球しか投げられない呪いと引き換えに、思い通りの理想の球を投げる力を授かった…
なんて本人は言っているけどよ」
「眉唾だけど、そうじゃなきゃ説明がつかないよな…」
「お前なら欲しいか? 山崎のあの力」
「うーん、いや悪魔と取引ってなると、命と引換えみたいで流石に嫌だけどさ…。
そういうリスクがなきゃ、そりゃ欲しいだろ。
先発完投は不可能だけど、ストッパーとしては無双だぜ。何億稼ぐかわかったもんじゃねえよ」
「まあな。…でも、思う存分野球ができないってのも、嫌だろ」
「それは、まあ確かにな…。山崎はもう、こうしてキャッチボールをすることもできないんだもんな…。
まあ一日9球はできるんだろうけどさ」
「まったくな…」
日本全土、そしてプロからもメジャーからも大いに注目を集めた山崎は、残念ながらその年の内に早逝する。
それが山崎の言う、悪魔との取引の結果なのかは誰にもわからない。
その後、故意のボークは反則となった。
しかし、伝説を作る力を授かるならば、命すら要らないと、そう思う者も、きっと居ることだろう。
その後の野球史上、空前絶後の最強の投手として燦然と名を輝かせる山崎の名を、羨ましく思うことだろう。
終わり