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6話:勝気の天使ファナと内気な天使トリートのお話

「やぁやぁやぁ、親愛なる人の子よ。再会を喜んだのはこれで何度目だろうね」

「どうした急に」

「たまには洒落っ気出した方が笑いを取れるかも、と思ってね。…効果なし?」

「いつも通りの君がいいよ」

「あれま…」


くだけた挨拶から、今日もまた、天使との楽しい一日が始まった。


「ちょっといいか」

「あ、カンナいたの?」

「…このカンナが、ここに滞在していることがこの人間より変だとお思いで?親愛なるて・ん・し・さ・ま?」


今にも顔面パンチが炸裂しそうな勢い。右手の握り拳をワナワナと震わせながらエリーに殺意の目を向けている。


「怖いなー、冗談が通じないんだからカンナは。だから私ぐらいしか友達が出来ないんだよ」

「お前!この…!……ハァ、もうやだこいつの相手すんの…」

「嫌なら離れればいいのに〜、素直じゃないんだから」

「…で?何故ノエルがキドヤス殿にベッタリなんだ?」


まだエリーに敵視を向けながらも、俺に肩車されているノエルに注目を変えた。


「……」

「色々あってね。ノエルもまたキドヤスのことを気に入っちゃった、てわけさ」

『きどやすとあそぶのたのしい かんなもいつしよにあそぼ』

「…一緒に遊ぼう、て…神域をテーマパークと勘違いしてないか2人とも」

「まぁ、いいんじゃないかカンナ。ここまでしといて何も無いってことは、女神様も許してくれてるって証拠だよ」

「人間のキドヤス殿がそう仰るのはおかしくないか…?」


真面目故に、この現状に混乱しているカンナ。頭の中がぐるぐる渦巻いているのが容易に浮かぶ。


「そうだ。ノエルがキドヤスに頼まれて描いた絵を見せてくれたんだけどさ、それがまた上達した出来だったんだよ」

「キドヤス殿に?」

『きどやすからはなまるもらつた』

「あぁ、『ノエルのお友達』の絵か。エリーも観たのか?」

「うん。私のことも描いてくれてて嬉しかったなぁ。照れちゃうなぁ。」


エヘヘ、とエビス顔になっている。確かにあの5人の天使の中にエリーらしき天使が描かれていた。黒色だけのペンで、特定の人物をちゃんと浮かび上がらせることが出来るのは凄いことだ。



「カンナも観るか?」

「うむ、ノエルの描いた絵は久しぶりだ。ぜひ拝見したい」


ノエルはスケッチブックにある自分の描いた作品のページを開いて、カンナに渡した。


「…み、右から2番目の天使は…このカンナ自身か?」


コクコク…「そうだよ」という意味の頷きを確認すると、カンナの目から涙が滝のように流れ落ちた。


「…うわぁぁぁん!ぞうが…ぞうがぁ!!ごのがんなのごどもどもだちばどびどべでぐででんだばぁぁぁぁ!!」

「あーぁ、でたよでたよ天使名物カンナの滝。カンナは喜怒哀楽の怒と哀が激しいからなぁ」

「さっきの『友達ができない』ってやつ、引きずってるからじゃないのか?」

「あんれま、まるで私が悪いみたいな言い方やめてよ〜」

「悪いから言ったまでだ」


カンナの滝はまだ止まらず、地面に水たまりがひろがる。エリーには未だ反省の色が見えない。


『なきむしはだめ えがお』

「ほら、ノエルもこう言ってるんだから泣き止まないと。神域が海と化しちゃうよ」

「…グスッ、す、すまない…ヒック」


ようやく涙が止まった。カンナの目は涙のだし過ぎで赤く充血している。小さい子の一声は魔法のようにこの場を収める力があるのかも。

そう感心していた時、絵を見返してある事に気づいた。


「…そういえば、絵にある5人の天使の内のあと2人も、エリー達の知っている天使なのか?」

「あぁ、このショートカットのやつとウェーブが掛かったロングヘアの天使か。知ってるも何も、ノエルといつも接している天使は、私とカンナとこの2人しかいないからね」

「だからこんなにくっきりとした描写になったのか」

『ふぁなととりーともともだち』

「ファナと、トリートって呼ぶのか」

「この2人も同じアパートにいるから、もしもキドヤスが会いたいなら声をかけてみようか」

「その必要はねぇぜ」


聞き慣れない声の方向に目を向けると、エリーがさっき言っていた2人の天使が立っていた。


「わわ、ホントに人間だ…生きてる…」

「コイツがマエルの言ってたヤツか…へっ、確かに負のオーラがプンプン見えてくるぜ」

「ファ、ファナちゃん…その場合は『臭ってくる』だよ…」

「あぁ?どっちでもいいじゃねーかよ、おぉ?トリートのクセにオレ様に指摘してくるたぁいい度胸じゃねーか」

「ヒィッ!?ちょ、ちょっともう身体くすぐるのやめてよぉ…!」


男勝りな一面の水色の短髪天使が、エリーより長い緑髪の天使の身体のあらゆる所をこちょこちょまさぐっている。一般男性の中にはこういうイチャコラがある種グッとくるらしいが、俺にはピンと来ない。


「度胸だから胸…やはりファナにはギャグのセンスがあるな〜」

「よーぅマエルゥ!随分楽しそうにしてんじゃねーかぁ!俺様も混ぜやがれぇ!」


突如、短髪天使のファナが消えたと思ったら、エリーに右ジャブを決めようと突進してきた。エリーはそれを易々と手のひらで受け止める。その衝突から、台風のように強い風が辺りを襲う。


「いきなり力試しに殴り掛かるの相変わらずだな〜。一応ここ女神様が監視してるんだけど」

「ん?そーなのか?そんじゃしゃーねーな」

「ところで、サボり魔の君が珍しいね。いつもはトリートを振り回してどっかに遊びに行くのに、アパートの近隣地区に滞在しているなんて」

「そーか?…あーそーかもな。オレ様はおもしれぇと思った場所は是が非でも行きてぇ性分だからなー。」

「で?今回がここだと」

「ここ、とゆーか…アイツだな」


風で飛ばされて体中雑草まみれのまま倒れている俺を指さしている。いててて…このまま本当に天使様にお世話になるところだった。


「あわわわわ…だ、大丈夫…?」

「生きてる、なんとか」


心配して、トリートがこちらに近寄ってきた。


「い、今治してあげるね…元気になぁれ、元気になぁれ…!」


慌てながらも、トリートが両の手をかざすと俺の周りに緑色のホタルの形をした小さな精霊達が飛び回り、俺を囲うように光のドームを作った。みるみるうちに傷が癒えていき、1分も掛からず完治した。


「…おぉ、すごい。助かったよ」

「わ、私には…これくらいしか出来ないから…あ、あの…握手、してもいいかな…?」

「あぁ、いいとも」

「あ、ありがと…わぁ〜、男の人の手…暖か〜い…」


俺が手を差し出すと、優しく握りながら頬にスリスリしている。ファナとは対照的で内気そうな彼女は、動物のような愛おしさを思わせる。


「怪我はないかキドヤス殿…いや、トリート殿が治してくれたようだが」

「あ、カンちゃん…目赤いけど、大丈夫…?」

「い、いやなんでもない。気にするな」


泣き顔がようやく落ち着いたカンナもこちらに来た。さっきまで泣いたことは口外しないで欲しいと、俺に目線で釘を刺す様に伝わってくる。…秘密にしておこう。


「まったくあの二人ときたら…顔を合わせるとすぐにバカ騒ぎが始まる」

「ま、マエちゃんも、元気そうだね…」

「二人は仲が良いのか?」

「良いどころか、良すぎる。最悪なことにお互い趣味が合うし、負けず嫌いだから勝負に他人を巻き込むことも少なくない。…このカンナやトリート殿も何度散々な目にあったか」

「み、みんなで遊んだ方が…楽しいよ…だ、だから…誘ってくれるんじゃない…?」

「あの二人にそんな融通をきかせられるものか」


ブツブツと嫌味を呟いている。小さい声でよく聞こえないが、内容はある程度察せる。トリートは両手の人差し指をつきながら下を向いている。一方エリーとファナはあっち向いてホイをして盛り上がっている。この2組のテンションの差は客観視点でとても分かりやすい。


「…ん?」


袖を引っ張られた気がした。そちらを向くと、ノエルがスケッチブックを俺に見せるように持っている。


『みんな のえるのともだち なかよし』

「…あぁ、分かっているとも」


頭を撫でる。これは、子供のノエルしか分からない。この4人の天使は皆個性的だが、皆友達なのだと。

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