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2話:気ままな天使マエル(エリー)のお話

朝、俺はいつもと同じ時間に目覚めた。カーテンを開けると、空は雨雲が広がっていた。


「雨が降りそうだな、彼女は来てくれているだろうか」


こういう天気の悪い日でも、俺はあの場所へと出かけに行く。エリーの言う神域って所は、俺にとっては家より安らげる場所だ。特に何かをするつもりではない、横になり空と顔を合わせるだけの日々だが、それがいい。

……傘を持っていこう。彼女の分は必要ないだろう、予備のために傘は2,3本持ち合わせているが、実は今まで、あの場所にいる時だけは天気が崩れたことは無い。……いや、今思うと女神の加護があったからこそなのだろう。


「やぁ、キドヤス」


可愛い天使様が、いつものように私を待ってくれていた。


「……ん?傘か、外は雨が降っていたのかな?」

「いや……まだだがこれからどしゃ降りになるだろう。帰りに必要と思って持ってきただけのことさ」

「なるほど。……君はもはや普通のことと思っているんだね」


……噂をすればなんとやら。先程俺が説明していた話のことだろう。


「ここだけずっといい天気……のことか?」

「そうそうそれそれ。すごいよねー女神様は。自分だけずっと良い心地を味わいたいという思考が、ここでも現れている。」


……俺の中の女神の偉大さレベルが5くらい下がった瞬間である。


「……さて、前置きもこのくらいにして。今日はなんの話をしようか」

「昨日天界については〜……なんて言ったばかりなのに、もういいのか?」

「あ、そうだったね。じゃあ今回も私の必殺技『テヘペロ』を発動しようかな。」


左手を頭に乗せ、片目を閉じ、舌を出す。彼女のテヘペロの下(舌)準備である。


「色々聞いていいよー、天使の食事とか、娯楽とか、天使は夜寝るのかとかね。夜なんてないから寝ないけどね。」

「それなら……君のことについて聞きたいね」

「…………」


俺はまずいことを質問してしまっただろうか。頬を紅潮させ、目を大きくし俺を見つめてくる。こんな彼女の表情は初めてだ。


「……わ、わわ私のことを聞いて何をするつもりかな?」

「何をするって……昨日君が言ったんじゃないか。エリーは俺の事を知っていて、俺は君を良く知らない。だから聞こうとしただけなのに、これのどこに恥ずかしむ要素がある?」

「あ、あー……そういうことね。そういえば言ってたなそんな事……ごめんごめん取り乱しちゃって」

「……?」


エリーは落ち着こうと深呼吸をした。それはもう深々と。珍しく慌てふためく彼女の姿を見て、俺は新鮮な気持ちになった。


「……そんじゃま今更ながら、自己紹介をさせていただきます。天使名はマエル、人間界だと君からエリーの名を授かりました。」

「授かった、て……そんな大袈裟に言わなくても」

「いやいや、名前を貰うのってとても光栄な事だよ?君の本名である木戸康だって、親からくれた立派な勲章じゃないか」

「勲章……か」

「うん。それにキドヤスって呼びやすいしね」

「あぁ、そうだな。……そういえば以前名乗ってくれた時は気にもしなかったが、マエルという名に由来とかあるのか?」

「由来かー……特に考えたこともなかったな。私という存在が誕生した時から既に女神様からその名で呼ばれていたからなー」


頭の上に?マークを浮かびあげながら、うーんうーんと答えを探そうとしている。


「……無いなら無いでいい、俺の興味本意で聞いただけだから」

「そ、そうかい?なんか申し訳ないね」

「ハハ、謝る必要は無いよ。……止めてしまって悪いが、続きを頼む」

「あ、そうだったね。……えーと、趣味はポエム作りかな。とは言っても天界でのコンテストで入選したことは無いけど……トホホ」


天界にも大会を催すことがあるんだな。……と口から発しそうになったけど止めた。滑らすとまたさっきのように話が逸れてしまう。


「ポエムか……試しに1個作ってみてくれないか」


我なりに良い返しをした。心の中でガッツポーズ。


「お!聞いてくれるか私自慢のポエムを」

「あぁ、良ければだが」

「そうかそうか、なら最近1個できたものがある。ぜひお聴きしてくれたまえ」


ウキウキとした顔で、彼女は目を瞑る。自分の趣味を楽しんでもらえることに喜びを感じているのだろう。よかったよかった。


「……アーアー、テステスマイクテス……よし、じゃいくよ」

「うむ」


マイクはないが、彼女なりの集中の高め方なのだろう。胸を手で抑えながら、彼女のポエムが始まった。


「月の光を浴びながら 狼は丘を駆け上がる


頂に達したその場所に 咲いた孤独のアセビの花


狼は気高く声を震わす 誰かに想いを伝えるために


いつか必ず二人一緒に その時はずっとあなたと共に」


「…………」


口を開くことなく、最後まで静かにポエムを堪能した。終わった後彼女はまた、いつものような朗らかな笑みを見せた。


「……どうだったかな。ぜひとも感想を貰いたいね」

「ポエム素人の感想だが、いいかな」

「あぁ、正直でいいよ」


「……狼はなんだか……俺と、似ている」


……自分でもなんて言ったのか分からなかった。でも他に言葉がでなかった。


「バレちゃったか、本人だものしょうがないね」

「……このポエムは俺のために作ってくれたのか?」

「うん。……君の心、分かるとは言わない。けど私も君には元気になって欲しいんだ。”世捨て人”の君にね」

「今の俺が、元気じゃないと言いたいのか?」

「いいや?少なくとも最近は、私とお話をするのを君は楽しんでくれている。勿論私も楽しいよ。……だけど、私が来る前の君は……1人の時の君はどこか……寂しげだった」


……エリーは俺の全てを知っている。俺の、過去も。だからこそのこのポエムなのだろう。だとすると彼女は……エリーはとても……


「優しい天使様だな」

「え?」

「……そう、俺は世捨て人。()()()()()()()()()()()()()()()()と、1度心を閉ざしてしまった者さ。」


あぁ、あの日……忘れもしないあの日から、部屋の中で孤独の時間をむやみやたらに過ごし日月を重ねていた……そんな時、この場所を見つけた。俺の家から1kmくらい離れた小さな山、その山道をでたらめに歩いていたら、木々に囲まれた暗い空間の中でここだけ明るい光に包まれていた。この中に入ると、そこには何も無かった。無かったが、野原が広がるその景色に俺は目を奪われた。心の闇を払えた気がした。……いや、言いすぎた。払い切れた訳では無い。俺は今でも、あの時の記憶をずっと、噛み締めているのだから。


「……そして、君が俺の前に現れた。その時が来たかのように……まさにグッドタイミングってやつさ」

「……人生をやり直す時、て事かい?」

「その通りだ。君は俺を迎えにきてくれた、違うかい?」

「全然違う」

「…………え?」

「君はロマンチックが過ぎるな。私は!君と!お話をしに来ただけ!君はまだ死んでないじゃないか。迎えだなんて冗談はよしてくれやい」


呆れたやつだと、彼女は眉をひそめる。小っ恥ずかしい、長々と話しておいて否定されるとは。


「まったく……ここは確かに神域だが天国とは言ってないよ。君が死んだら、その時は私がちゃんと迎えにいくから。やり直すだとかどうとかなんて死んだあとのことを語るのはやめにしなよ。」

「……す、すまない」

()()()()()でいいじゃないか。さっきも言ったが、私は君に元気になって欲しいだけなんだ。だから、さ。これからもたくさんお話をしようよ。今度は私が、君の隣にいてあげるからさ」

「あぁ、これからもよろしく」

「うん、よろしく!」


彼女は元気いっぱいの笑顔を見せる。俺もできる限りの笑顔を返す。今、俺の中の何かが吹っ切れた……そんな気がした。

私はこれからも語らおう。……優しく、気ままな天使と共に。


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