プロローグ
異世界転生———そんなものはあり得ないと思ってるであろうそれが自分に起こればどうする?ほのぼの生きる、英雄になる、ハーレムを築く、旅に出る。人によって答えは様々だ。そんな中、俺らが出した結論はロールプレイをするというものだった…これはそんな転生者たちのお話だ。
「はい、第3回転生者会議を始めまーす」
「「「イエーイ!!」」」
青年が一人、少年が3人、幼女が一人が円卓を囲んでいる。円卓の上には5本の蝋燭が赤く揺らめき、それぞれの目正面にはジョッキが並んでいる。
「っていうかこの机の上の蝋燭要ります?普通に照明つけません?」
「む…結構気にいっているのだが…」
一番ガタイのいい青年に糸目の少年が文句をつける。しかし、青年は受け入れるのを渋り視線を残りの3人に向ける。
「どっちでもいいと思います~」
「俺はハイネルトと賛成だ。この部屋暗すぎて互いの顔見えないし」
「俺は好きだぜ!童心に帰ったみたいでよ。てなわけでアステリオスに賛成だ」
意見は三者三葉。結局、アステリオスが折れる形で照明をつけた。
「とりあえず、互いの進捗について話そうぜ!」
「「「「………」」」」
「なんだよ?」
「いや、幼女の姿で男言葉を使われると違和感がな」
「仕方ねえだろ?俺だけTS転生なんだから」
そう、ここに集っている少年幼女。その全員が異世界転生者なのだ。それぞれ違う環境で生まれ、違う環境で育ち、同じように一抹の孤独を感じていたからこそ偶然出会った彼らはこうして定期的に集まり、助け合おうとしているのだ。
「しっかし、いいよなぁ~。ハイネストとルートは貴族だろ?俺とアリウスなんて捨て子だぞ!?」
アリスは美しい金髪をはためかせ、机に体を乗り出す。
「私は羨ましいぞ!アイリス!!!!私もTS転生したかったっ!何でよりにもよってパワーゴリラなんだ!」
「アステリオスの見た目でTS願望アリとかある意味ギャップ萌えだな」
「男は誰しもが性転換を夢見る!お前とて同じなはずだ!」
冷静に突っ込んだルートにアステリオスは演説を続ける。よくよく見れば、顔が赤くなっており彼が酒に弱いことを知っているルートたちからすれば、酔っぱらっていると察するのは簡単だった。
「おい誰だ?酒の出した奴。こいつ酒弱いの知ってるだろ?」
「あ、それ私です」
「糸目眼鏡ぇぇぇ!」
ダルがらみをされ身動きが取れないルートは怨嗟の声を上げ、ハイネをにらみつける。それを見なかったことにするかのように、ハイネストは椅子に座りなおす。
「え~、さて。ルートとアステリオスは放っておきましょう。進捗ですよね?私は順調です。隣国のロザリオスで、留学生として勉強しつつ経験を積んでいます」
「ハイネストのロールプレイの設定は糸目暗躍系軍師ですよね」
「はい!喋り方も変えてみました。どうです?」
ハイテンションで語る黒髪糸目のハイネストにアリウスはやや引いている。アリスは誰よりもロールプレイを楽しんでいる目の前の男に感心し、賞賛を送る。
「ちなみに決めゼリフは『私に勝てぬ戦などありません』です」
「…順調で何よりだな!じゃあ次はアリウス」
鼻息が荒いハイネストを受け流し、アリスはアリウスに報告を求めた。少し間を置き、指名されたアリウスはうつむきながら語りだした。
「僕の設定は頼りになる勇者系冒険者なんだけど………」
「あー、まあ、アリウスはコミュ障だもんなぁ」
「…それを克服したくてこういう設定にしたんだけど…」
上手くいかなかった記憶がフラッシュバックしたのかさらに落ち込みだすアリウスを見て、ハイネストは優しく声をかけた。
「いいんじゃないですか?最初っからうまくいくわけではないですし」
そもそも、このロールプレイは彼らの願望であると同時に生きるための手段でもあるのだ。例えば、この世界では日本のように倫理観が高いわけではない。盗賊はいるし、魔獣もいる。この世界で生きていくためには、日本の倫理観を持ったままでは厳しかったのだ。そこで、彼は考えついた。理想の誰かを演じることで、価値観のずれに慣れ、異世界に順応していくというプランを。
だからこそ、最初からロールプレイが上手くいく方が稀有なのだ。
「うまくいかない時のために俺らがいるんだろ?手を貸せることには手を貸してみんなで生き残る。それが俺らの共通見解だろ?」
「アリス……」
感動したように涙ぐむアリウスであったが、すぐさま横やりが入った。
「幼女の姿でかっこいいこと言っても締らないんだよなー」
そんな突込みは華麗にスルーされ、アリスはようやく席に戻ってきた二人に話を振る。
「ルートとアステリオスはどうだ?」
「俺はちょっと迷走中だ。ミステリアスの定義が分からないくなってきた。後、社交界に行きたくねえ…」
「私は順調だ!設定も軽いし、素の性格とそれほどかけ離れた設定はつけてないからな!」
自信なさげに話すルートと、対照的に自信満々で語るアステリオス。同じ貴族でも苦労のベクトルはまるで違うのだなと冷静に分析するハイネスト。それを横目で見ながら、呆れるアリス。同胞を見るような目でルートに熱い視線を向けるアリウス。
「……とりあえず、現状は分かった。アリウスからだな。お前が一番重症だ」
こうして転生者たちの夜が更けていった。