第6話 解放
広大な野営地に張られた無数の天幕の中でも、一際目立つ大きな物のすぐ側で、隠し切れない恐怖が滲み出ている大声が響き渡った。
「伝令! 伝令!」
叫びながら、巨大な天幕──オーベルング王国軍の上位階級者が集う作戦会議場へ、五人一組の部隊を形成していた偵察兵が飛び込んでくる。まるでそこが自分の身を守護してくれると言わんばかりに。
「何事だ。ここに来て緊急の報告なぞ聞きたくは無いぞ。まさか、始まりの竜人でも化けて出たのか?」
大昔に滅びた神話の存在を冗談混じりに口にした男に対し、偵察兵の代表者は恐怖に濁った瞳で、真剣に叫ぶ。
「敵軍消滅であります!」
熱を持った話し合いの場に冷水が打ち付けられる。
優れた頭脳を持つ上層部の誰もが、偵察兵の発言の意味を掴めない。
北へ北へと進攻するオーベルング王国軍を、一つ先の都市で待ち構える敵軍の総数は一万にも上るという。それだけの数の人間が忽然と消えたと言われたところで、軍隊というものをよく知る彼ら上層部としては困惑するしかないだろう。いや、もし仮に「おお、そうなのか」、などと軽い調子で受け入れられる人間がいれば、是非とも見てみたいくらいだ。珍獣の発見者として歴史に名を残せるかもしれないのだから。
それに偵察兵の表現は少し変だ。消滅とは一体どういう意味なのか。
というのもオーベルング王国軍において、兵士の損耗には明確な定義が存在する。全滅は部隊の三割、壊滅は五割、そして殲滅が十割となっている。消滅なんて語句はまず用いられない。
「ふむ。とりあえずは汗を拭え。貴様の報告はいまいち要領が得ん」
男の命令に従い、偵察兵は腕で乱暴に額を擦る。しかし、そんな動作では冷静にはなれなかったようで、巨獣に追われているかのごとく早口で告げる。
「ば、化け物です。二体の吸血鬼による反撃の結果、敵軍は消滅しました」
「二体の吸血鬼?」
さらに話がこんがらがった、その思いが問い掛けとなって返される。
「何故、そこで吸血鬼が出てくる? どうやって一万もの数の人間をたった二体の吸血鬼が殺し尽くす。第一、吸血鬼なぞ大した相手ではないではないか。貴様──」
「待ってください。彼の話を一通り聞いてからにしませんか?」
別の人物が男を抑える。それから偵察兵へゆっくりと自分の言葉の意味が伝わるように声をかける。
「順を追って話してくれるかな? 君の報告は非常に重要だ。今後の指揮に関わってくるからね。つまり、我が軍の命運は君の手に委ねられていると言ってもいい。理解してくれたか?」
恐怖を塗り潰すにはより強い責任感を。その意図で放たれた言葉は、偵察兵を僅かに落ち着かせる。
「り、了解です。……まず、我々は敵軍の動向を監視する偵察部隊であります。よって、敵国が吸血鬼に対して全軍を動かした理由は定かではありません。知るのは戦場での様子のみです。それでもよろしいでしょうか」
「無論だとも」
「では報告します。二体の吸血鬼は、それぞれ黒い鎧と黄金の鎧を纏っておりました。そしてその片翼である黄金の吸血鬼が単身、敵軍へと突進したのです」
「ならばその者が一万の兵を蹴散らしたと?」
疑うような声音で問う男に対し、偵察兵は首を横に振る。
「いいえ、違います。確かにその吸血鬼は鬼神のごとき強さでしたが、撃滅したのは数百程度だと思われます」
であれば黒い鎧の方がやったのだろう。そう考えた者の予想は正しかった。まさしくその通りだった。
──ただし、滅ぼした方法については想像の遥か埒外だった。
「黒き吸血鬼が一つの魔法を放ったのです。その結果、一万の軍勢は消え去りました」
上層部の全員の脳内がかき乱される。思っていた答えとはまるきり違った為に。だからこそ、誰かがはじめに漏らした言葉は疑問の形を為していた。
「ひ、一つの魔法で……?」
「肯定します。黒き吸血鬼は九つの魔法陣を背負って、灰の星を落としたのです。その星は瞬時に巨大な爆発を引き起こし、周囲の地形ごと全てを消し飛ばしました」
沈黙が落ちる。地図上に並べた駒を動かす音や、何かを書き連ねる音などの、あらゆる気配が消失する。
咀嚼など出来る筈がない、短い時間の経過後、男が声を絞り出す。
「……あり得ん。魔法は一つの戦闘手段に過ぎない。それだけの超広範囲に及ぶものが存在するのであれば、これまでの軍略定石が覆るぞ。貴様らは夢でも見ていたのではないか?」
偵察兵の代表者に問うても同じ答えしか返ってこないと判断した男は、他の四人に威圧を湛えた眼光を送る。それでも四人は真っ向から否定した。
「全く同様の光景を目視しました」
「私もです」
「戦場を見れば、その破壊痕が残されている筈です」
「偽りは一切ありません。私達の言葉を疑うのであれば、聖天国に潜らせた内通者をお待ちください。直に同じ情報を持ち帰ると思われます」
賢明な提案まで挙げられては、上層部としても彼らの報告を信じるしかない。実感は湧いていないが、男は何とか彼らの言葉を飲み込んだ。
「その後は?」
男は硬い声で質問する。
「吸血鬼の向かった先はどちらの方角だった?」
「この野営地と戦場のちょうど中間にある森です」
つまりは次の標的がオーベルング王国軍である可能性は十分に考えられる。
「いかがされますか?」
「撤退だ。撤退に決まっている。事実だとすれば、それ以外に道はない」
男が断言したその時、天幕内に穏やかな声が響いた。
「興味深いの」
皆の視線が入り口に集中する。そこには、鎧を纏った老人の姿があった。格というものを感じさせる、非常に凄味のある人物だ。
老人は天幕の中に足を踏み入れる。その背後には騎士らしき優男が控えていた。
天幕内にいた全ての者が一斉に最敬礼を取る。
「休め」
深みのある静かな声が、最敬礼をしていた全員を鋭く戻らせると、老人は最奥の椅子へと向かう。後ろに続いていた優男が最適なタイミングで前に出て、その椅子を引く。老人は腰かけた。
「さて、話を続けようぞ。おおよその情報は先に聞いておいたからの。儂への説明は必要ない。──それで、じゃ。儂が聞きたいのは、この辺りに強大な吸血鬼の生息情報があるのかという事なのじゃよ」
先ほどまでの傲慢な雰囲気を消して、背筋を伸ばした男が答える。
「ございません、大王様」
「彼に同意します。というより、強大な吸血鬼という存在自体が聞いたことがありません」
二人の男達の返答に、老人──大王は頷く。
「うむ。儂もじゃ。そこで肝要となってくるのが、聖天国が吸血鬼に対して全軍を動かした理由である」
疑問符を顔に浮かべた臣下達へ、大王は説明する。
「それさえ分かれば、吸血鬼どもの目的がある程度絞れるんじゃよ。少なくとも、突発的な事故による戦なのか、それとも計画されたものかくらいはの。ゆえに、潜らせた者の帰還を待ちたいと考えておる」
話し終えた途端、手が上がった。
「大王様、僭越ながらよろしいでしょうか」
「なんじゃ?」
「何卒、ご避難をお願いいたします。この地は危険でございます。御身をお守りすることが我らの務めです。しかしながら、件の吸血鬼が相手ではそれも困難でしょう。ですので、どうか」
悔しそうに頭を下げた男を皮切りに、賛同する者が続出する。
「内通者が情報を届けるより、吸血鬼が我が軍へ襲い掛かる方が早いかと」
「大王様だけでも王都へ凱旋されるわけにはいかないのでしょうか」
「最悪な事態が起きれば、我らは死んでも死にきれません」
声が止む気配は無かった。大王はしばらくの間その様子を眺め、やがて納得したように、ぽんと手を叩いた。
「なるほどなるほど。そういうことじゃったか。なかなかに知恵を巡らせよる」
どれだけ騒がしくとも、大王が口を開けば即座に鎮まる。臣下達は無言のままに続きを待った。
「吸血鬼の目論見が読めたぞよ。そやつは、今の儂らのような話し合いの場を思い描いたのじゃろうて」
「どういう事なのでしょう」
「儂らを退かせたかった、という事じゃ。現に、お主らは慌てふためいておる」
大王は獣の笑みを見せる。臣下達の背筋がゾクリと震えた。
「ちょうどよい。我らを阻むものは消えた。早急に進軍を開始せよ。この機を逃すでないぞ」
有無を言わせぬ圧倒的な気配に応える形で、拝承の声が天幕の中で反響した。
◆
レイ達は上空を飛行しつつ、街道を辿っていく。
白鎧は最寄りの街の傍に寝かしておくことにした。おそらく彼は、軍の指揮官が言っていた神使という存在だと思われるため、発見されればすぐに保護されるだろうとレイは判断したのだ。
「しかし、やはりあれは上手くいくな」
全力で飛べば街くらい即座に見つけられるだろうが、白鎧の負担も考えた速度で進んでいるので、エストが暇そうに雑談を始める。
「あれ? 魔法陣のことか?」
「いいや、違う。まあそれもそうではあるが、俺が言っているのは首の方だ」
「ああ、そっちか」
吸血鬼は心臓や頭が弱点、というのが大陸共通の常識だ。
だからこそ最初から最後までずっと首ばかり狙ってきたのだろうが、レイ達クラスの吸血鬼になるとそういった部位毎の弱点はない。しかし首が弱点であるように思わせるため、避けたりそこを重点的に防御する様子を見せれば、それだけで白鎧達のようにあっさり引っ掛かる。
勿論、あの程度の相手であれば力で解決するのは容易い。しかしながらそれに慣れてしまうと、同格や格上を相手にした際に遅れを取るだろう。
したがって格下との戦闘は良い練習になるのだ。たとえ性能に差があっても、駆け引きに於いては相手の方が上手かもしれないのだから。
それからもう一つ補足すると、レイ達は部位毎の弱点が存在しない為に、身体のどこを攻撃されても均一なダメージを負う。全身が粘液のみで構成され、部位という概念が存在しないスライムなどに代表されるモンスターのように。
つまりは、敵の攻撃する力が同じであれば、腕を切られても首を切られても同じダメージを受けるというわけだ。
そのためエストは首を切られたが、生命力はほとんど減っていなかった。見た目には信じられないかもしれないが、レイが魔法を一発撃つ方がダメージは遥かに大きい。
「まあ、避けられるなら避けた方がいいに決まってるしな。吸血鬼対策の常識に囚われてる奴ほど騙されやすいんじゃないか?」
レイが推測を告げると、エストが何かに気づいたような素振りを見せた。
「ふむ……。しかし、第九は知っているようだったぞ? にもかかわらず、俺達クラスの吸血鬼の情報は知らなかったのか?」
「多分、吸血鬼は弱い内に狩られるからだろうな。弱い頃は吸血衝動を抑えられないからすぐに発見される。俺が知る限りだけど、俺達クラスの吸血鬼は他に見たことがない」
「ほう? さしずめ俺が特別強いというわけだな」
灼熱を思わせる声。それは自信過剰でもなければ、大言壮語でもない。
エストの性能はレイのそれを遥かに凌ぐ。
数百年ではきかないほど長く生きてきたレイをして、彼より強い者とは出会ったことが無い。かつては勝利を収められたが、それはエストの戦い方があまりに杜撰だった為だ。今のエストが相手では、レイに勝ち目はないだろう。
とはいえ、それだけの存在だからこそ頼りになるのも事実。そうレイが心の中で思っていると、それなりの出来の壁に囲まれている街が見えてきた。
「さて、それでどうするのだ、レイよ? 忍びこむような真似は……。霧化すれば可能か。だがそれではこの男を運べんしな」
エストの呟きを受け、レイは色々と考えながら提案する。
「うーん。そうだな……。なら、地上から空へ向けて魔法を撃ってくれないか? 街から見えるような感じで。その隙に見張りの近くの壁上に彼を置いておくから」
「そんなんで大丈夫か?」
「なら、見つかった時のために着替えておくか。そうすればただの人間に見えるだろ」
「衣服を替えた程度で誤魔化せるとは思わんがな」
「……牙も削っておけば完璧な筈だ」
「そも、人が壁上にいる時点で不自然ではないか?」
「ぐっ……! そんなに言うならお前も何か代案を出してくれよ!」
レイは糾弾したが、対するエストは冷静だった。
「貴様の我が儘だろう? 自分で考えろ」
正論だ。故にレイは言い返せない。
「クソっ! 戦争中でなければ検問で馬車が並んでいただろうに……」
「無いものは仕方あるまい? 精々頭をひねるんだな! フッハッハッハ!!」
「お前こそ驚かせるような妙手でも編み出してみろよ」
「俺はそんな事に興味はない」
何を言っても上手くいかない。レイはもはや開き直った。
「さっきの案で行くからな!」
レイは叫びながら白鎧を連れて飛び去る。と、その前に一応注意しておく。
「〈燃隕石〉は使うなよ! お前だとバレるかもしれない!」
「……貴様ではないのだ。そんな無様な真似は晒さん」
その返答の遅さに、レイはほくそ笑んだ。
◆
レイは着替えるために地上へ降りていた。
瞬時に着脱する魔法というのは存在しないので、いちいち手間のかかる作業をしなくてはならない。既に手慣れている流れといっても、面倒なのは変わらないなと思いながら、レイはテキパキと鎧を脱いでいく。
それから僅かな時間を経て鎧を脱ぎ終えると、その下には鍛え上げられた肉体よりも目立つものがあった。
胸からうっすらと青い輝きが漏れている。
旅と研究の成果だ。
だが、これでもまだ全く辿り着いていない。いや、むしろ遠くなったとすらレイは感じていた。
よってあまり見たいものでは無い。
振り払うように空間に手を入れ、群衆に溶け込めるような服を取り出す。
「これは普通だよな……?」
自分の感覚を疑うようになってしまったのはエリヤのせいだろう。彼女が放った文句が脳裏に浮かぶ。
「エストのセンスと変わらない、みたいな扱いされたな。黒は無難だろうに」
黒く染まった布製の服を眺めながらも、さっさと着替えようとし──街がある方角で爆発が巻き起こった。
「は?」
まだ準備は終わっていないのに、どういう事かとレイは思う。
「早すぎるだろ。何やってるんだ、エストは。まさか見つかったのか? それともオーベルング王国の侵攻……なわけ無いか」
レイはオーベルング王国軍の野営地を事前に調査していた。そこから逆算すれば、聖天国の軍を滅ぼした情報は確実に伝わっている筈だ。それなのに侵攻するなど、頭の回路がぶち切れているエストでも無い限りあり得ない。
であれば何故。その疑問は、三つ首の番犬が上空へと放たれた事によって氷解する。全ては自らの失態だという気付きと共に。
「魔法撃つ時間決め忘れてた……」
レイは頭を振る。それから白鎧を抱えると、全力で街へ向かって飛ぶ。もはや白鎧の負担を考える暇は無い。
瞬き数回の内にレイは街の外壁の上へと到達し、爆発と番犬に慌てふためいている兵士を尻目に白鎧を寝かせる。そして気付かれていない隙に飛び立とうとした時、目の端に捉えてしまった。
処刑場であろう高台に繋がれた、小柄な少女を。
「ちっ!」
レイは即決すると、処刑場めがけて飛行しながら、初歩的な魔法を発動させる。
「〈風の刃〉」
空気を圧縮したような刃が放たれ、繋がれた鎖を断ち切った。支えを失った少女が倒れていくその前に、レイは処刑場に着地し、少女を抱え、勢いのままに飛び立った。
「──え? なっ!? お、おい! 上を見ろ! あれを撃ち落とせ!」
遅れて気付いた処刑執行人と思われる兵士が叫び、外壁の上にいた兵士が矢を放ってくる。しかしながら、上空を飛行しているレイに〔技能〕で強化されてもいない単なる弓矢が当たる筈がない。
レイは少女を抱えたまま、脱出に成功した。
レイはエストの魔法が放たれていた辺りまで飛んでいく。
はてどこに行ったのか、とレイが首を振ってエストの姿を探していると、突如として上から気配を感じた。どうやら、自分よりもさらに高高度を飛んでいたらしい。エストは音もなく降下してきた。
「ようやく来たか。……おい、待て。何なのだそいつは」
「処刑されそうだったから助けて来た」
「処刑? ……まあ、言いたい事はあるが助けてやったという立場ならばよかろう。それより、白鎧はどうしたのだ? 成功したのか?」
「ああ、そっちは大丈夫だ。というかすまなかった。時間決め忘れてて。ありがとう、エスト」
気にするなとエストが手を振ったことを確認すると、レイは大人しくしている少女へと目を向ける。
「大丈夫か?」
「…………」
返事が無い。
この距離で聴こえていなかったのだろうか。レイは訝しみ、もう一度話しかけようとしたが、そこでとある事に気付く。
最初は人間の少女かと思った。しかし、よく見てみると彼女は人間ではなく──。
「君は……。もしかしてハーフリングか?」
ハーフリングとは成人でも身長が百二十センチ程度までしか伸びない種族である。外見的には人間によく似ており、老いてもさほどの変化が見られない為に、実年齢が非常に分かりにくい特徴を保有している。
彼女も例に漏れずただの人間の少女に見える。そしてその顔立ちは驚くほど整っていた。もしも人間のように成長することが出来れば、将来は数多の人々を魅了する美貌の持ち主になりそうだ。
「…………」
やはり返事がない。
言葉に対して微かに反応を示しているので、難聴などでは無い筈だ。念には念を、とレイは彼女の生命力を調べる。
「〈生命看破〉」
魔法が発動し、その効力が発揮される。レイの目に彼女の生命力が映った。それは全くの想定外のものだった。
「これは……。お前、強いじゃないか」
白鎧達よりは弱いものの、一般的な兵士に捕まるような力量の持ち主の生命力とは思えない。
「どうして喋らないんだ? 何かされたのか?」
「…………」
相変わらず返事がない。
仮に呪い等にかけられていたとしても、自分達ではどうする事もしてやれない。
回復魔法とは大別すると、生者に対するものと不死者に対するものの二つに分かれるのだが、レイはそのどちらも生命力を回復するものしか覚えておらず、呪いや病気等を治す魔法は修めていない。
そしてエストは不死者に対する回復魔法なら様々なものを覚えているが、生者に対するものは一つも修めていない。
「何か異変があるようには見えないんだけどな……」
「ふむ。まあ、この程度の力量ならば置いていってよかろう。貴様が気になるなら、この街から離れた場所に連れて行けばいい」
エストの提案にレイは同意する。あまり聖城への侵入が遅れれば、白鎧達すら返り討ちにした情報が伝わるかもしれない。
「そうするか。すまない、俺達は急いでるんだ。途中で下ろすから、後は一人で逃げてくれ」
「…………」
またしても返事がない。
それを受け、レイはエストを見たが、肩を竦められただけだった。
「うーん。いつまでもここに居ても仕方ないし……行くか」
レイは彼女を抱え、エストと共に飛び立った。