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第18話 仲間

 エストの居城の玉座の間。

 レイはそこで、玉座の右手側に飾られた黄金の鎧を見つめていた。


「エスト、俺はやるぞ」


 偉大な吸血鬼の王が道を示してくれた。 


「メルーシャ達を、皆を助ける。そして俺もまた皆に助けてもらう」


 レイは拳を固く握り締め、自らの思いを叫ぶ。


「俺は負けない。何があろうとも。そして最強の敵はお前だったとこの世に知らしめる!」


 返事などある筈もない。

 しかしその時、窓から差し込んだ陽の光に照らされ、黄金の鎧が煌めくように光った。


『十分だ!』


 レイにはそう、聞こえたような気がした。

 もはや立ち止まらない。レイは力強く、一歩、前へ踏み出した。




 拠点へと戻ったレイは、メルーシャ達の前に立ち、頭に浮かんだ考えを告げる。


「皆、聞いてくれ。頼みがあるんだ」


 全員の目がレイへ向く。それを確認したレイは、一度息を吸い、静かに声を発した。


「俺は国を造りたい。そして君達に、その国の民になって欲しい」


 それは無謀だという以前に、侮辱と捉えられても不思議ではない発言だろう。祖国を裏切れと言っているの同義なのだから。

 だがそれでも、レイの言葉は止まらない。


「君達を守り、同じような目に遭っている者達を助けたい」


 誰もが信じられないような戯れ言だった。確かにお人好しなのだろうという事は理解している。しかし、流石にこれは素直には受け取れない。

 そんな思いを抱いていたメルーシャ達の心を読んだわけでは無いが、レイは続けて言った。


「そしてもう一つ、頼みがある。俺に力を貸して欲しい」


 メルーシャ達は目を見合わせた。

 代表して剣士が問う。


「力を貸すとは?」


 レイは今まで、口に出すことはなかった願いを言葉にする。


「生き返らせたい人がいるんだ」


 そんなものは絵空事だ。不可能に決まっている。出来る筈がない。

 レイは彼らの表情に、そんな考えが浮かんでいるように見えた。


「……だから手伝って欲しい。お願いだ」


 レイは頭を下げた。それしか出来ることが無かったから。

 場に沈黙が落ちる。

 もはやこの空間には静けさしかない。しかしながら、レイから声をかける事は出来ない。


「実は……我々の故郷は滅ぼされてしまったのです」


 剣士の言葉にレイは頭を上げる。


「私達の帰る場所は、蹂躙されてしまったのです」


 剣士の寂しげな表情を見て、レイは自分へ怒りが沸いた。言葉が喉の奥で詰まる。また自分は、彼らの事情に思い至れなかった。その可能性をまるで考えていなかったのだ。

 やはり、自分は人の上に立てるような器ではないのかもしれない。レイが肩を落とすと、ゆっくりとメルーシャがこちらに向かって歩き出し、そして正面で立ち止まった。

 どうしたのかとレイはメルーシャに顔を向ける。それから目を見開く。


 メルーシャがとびきりの笑みを湛えていたのだ。


 レイは困惑する。何と言えば良いのか分からない。一体どうして彼女はそんな表情をしているのか。

 レイが戸惑っていると、メルーシャはこれまでのたどたどしい話し方ではなく、はっきりと発音した。


「覚えていますか? あの時の約束を」


 突然の変貌ではあるが、それは妙に彼女に似つかわしかった。

 だからだろう、即座にレイの頭に当時のやり取りが思い起こされる。たしか自分はこう言ったのだ。


『すぐ戻る。そして、全員無事に帰す。約束だ』、と。


 鮮明に記憶を引き出したレイが「覚えてるぞ」と返答しようとする前に、メルーシャは後ろを振り返った。それから同胞の顔を眺めると、再びレイの方へ向き直る。

 メルーシャは指折り数え始めた。


「すぐに戻ってきてくれて、私達は全員無事で、そして帰る場所も作ってくれましたね」


 メルーシャは優しく微笑んだ。

 それはハッとするほど綺麗な笑顔だった。


「約束を守ってくれてありがとう、レイさん。これからよろしくお願いします」


 メルーシャがペコリとお辞儀をすると、応えるようにレイの胸が青く光り輝いた。

 それは、皆の姿を照らすほど明るいものだった。

 レイは皆へ──初めて出来た仲間へ、自然と湧き出した暖かな気持ちを伝える。


「ああ。こちらこそ、ありがとう」




 これは、世界を仲間にする物語。

 たった一人の吸血鬼が、一つ一つの命を纏め上げ、世界を平和に導く、ただそれだけの物語──。





次回から二章に入ります。

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