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この状況で告白されても

 仲間の天使を殺すことでその力を吸収し力を増す能力を持つ、ギロチンの天使か。なるほど、刑務官の長としてそれらしい人材だ。


 ギロチンの天使は残された仲間二、三十人の力を吸収したことで体のサイズが二倍近くに膨れ上がっていた。頭の大きさはそのままだから、十五頭身くらい?

 羽は二枚のままだけど、サイズがでかくなっている。エネルギーの総量が増えたと見ていい。


「仲間を皆殺しにするなんて酷くない? わたしなんかよりもお前の方がよっぽど罪深いと思うけどな」


「貴様のような最上級天使にはわからないだろうな。天上界において、我々のような下級天使の命などごみも同然よ。特に我々刑務官は一度失敗すればその罪は命で償わされる」


「うわ、ブラック企業だ。天使ってみんなそんな感じ?」


 カヤが口を挟んできた。うーん、人間に天使の事情を話しちゃっていいものなのかな……今さら遅いか。


「わたしのところは違う。けど……」


 わたしの部署も仕事を色々押し付けられるせいで大概酷いものだった。

 でも、わたしはさすがに失敗を命で償えとまでは言わないぞ。他のやつらと違って。



 天使は死んでも四十九日かけて知識をそのままに転生する。だから死んでもちょっと待つだけでまた仕事をさせることができる……というわけで天上界において死は軽い扱いをされている。


 だけど、知識はそのままでも記憶は失い、人格や容姿、身体能力などはある程度生前の影響を受けるとはいえ変わってしまう。

 当人としては死んでしまえばそれでおしまいなのだ。


「つまり殺される側としてはたまったものじゃないことは確かだよ」


 そう考えると、追手の連中にも同情の余地はある。できることなら穏便に済ませたいけど、さすがにそうもいかないだろう。


「ああそうだ。だから私は貴様を殺さなければならない!」


 ギロチンの天使の背から羽が二枚とも消える。身体能力をさらに強化しやがった。


「トアーッ!!」


 まっすぐこちらに向けて突っ込んでくる。体格に見合わずスピードも速い。


「【二枚・盾(バリア・ダブル)】!」


 今貼れる最高硬度のバリアを貼り、ギロチンの天使の拳を受ける。


「そんなもので防ぎきれると思うなーっ!!」


 バリアが砕かれる。

 咄嗟とっさに腕を交差させて拳を受けるが、その力は凄まじかった。ガードの上から吹き飛ばされ、ボールのように地面をバウンドさせられる。


「うぐ、ぐ……」


 ダメージがでかい。腕は折れてはいないだろうけど、痛みが酷い。ガードしたにも関わらず、ボディの衝撃も重く、吐き気がする。


 そして何よりも問題なのは、羽二枚でのバリアが破られたこと。カヤをバリアで守りつつ戦う、という前提が崩されたといっていい。


「くっ……仕方がない、か」


 カヤを守っていたバリアを解除する。無意味なバリアを貼り続けるよりも、フルパワーで戦える形にした方がいい。


「いい判断だ、確かにハンデ無しで戦えば、おそらく私は貴様に負けるだろう。だが――人質があれば話は別だ!」


 ギロチンの天使がカヤに向けて駆け出す。


「しまった!」


 やられた! わたしにダメージが残っているうちに攻めてくれればよかったものを、人質をとることを優先しやがった!

 羽はまだ戻っていないしダメージもある、間に合わない――!



「部外者だからなるべく手を出さないようにしてたんだけど、そうくるなら仕方がない」


 ギロチンの天使が迫っているというのにカヤは逃げるそぶりもなく、腰の刀に手をかけて。


「【攻ノ型・天竺牡丹(てんじくぼたん)】」


ひゅんひゅんと風を切る音がした。

 ギロチンの天使は止まらない。いや、足は止まった? 上半身だけが動いてカヤに飛びかかったように見えた。腕だけがカヤを素通りして地に落ちる。


「なっ……なんだ今の……?」


 なにかをしたようには見えなかった。

 ギロチンの天使の四肢は切断され、地面に転がっていて。残りの胴体だけがカヤに抱き締められるように抑えられている。

 カヤの刀は抜かれていることなど、結果だけを見て判断すると、こうなる。


 カヤは目にも止まらぬ剣技でギロチンの天使の四肢を切り落としたのだ。

 こんな芸当は熾天使にも難しいだろう。こいつ、何者だ?


「ねえマラク、天使ってこれくらいのダメージだと死んじゃう? それともここから手足生やして復活したりできる?」


 カヤはわたしに問いかけながら頭と胴体だけになったギロチンの天使を投げ捨てて、刀を構えた。


「ぐ、うぅ……」


 ギロチンの天使がうめき声をあげる。まだ息はあるようだけど、この傷だ。羽二枚の下級天使ではヒールが間に合わないだろう。もうすぐこいつは死ぬ。


「カヤ、お前は……何者だ?」


「それは……後にしよう。今は彼に喋らせてあげる。どうぞ、ギロチンの天使さん」


「ふふ、まさか人間にやられるとは……思いもよらなかった……」


 ギロチンの天使に目を向けると、体を無理やり起こしてこちらを見つめていた。その表情は不思議と優しげであった。


「どうしたの、なにか言い残すことがあるの?」


「うぅ……火星が爆発して件についてはまだ調査中だが、天上界はまだ人間を滅ぼすことを諦めていない……気をつけろ……」


「どういうこと!? なんでそんなことをわたしに伝えようとするんだ!?」


「私も……天上界には不満があるということだ……下級天使だからと同族の処刑などやりたくもない仕事を任され、あげく使い潰される……反抗心も生まれようというもの……」


「………………」


「思えば、私はここで殺されてよかった……仲間を手にかけて、生きていてもしょうがない……」


 やはり、彼らにも思うところはあったのだ。逆らえば死、天上界の掟に従わされた被害者と言ってもいい。


「火星の破片、まだ大きなものが残っている……星の天使、ステラ様がそれを使えば、人類を滅ぼすのには十分らしい……気をつけ……ろ……」


 ギロチンの天使は、力尽きた。

 情報の礼だ。せめて目だけは閉じさせてやる。


「人類を滅ぼすとは、物騒な話だ。もしかして、火星の落下も天使の仕業だったりする?」


「そうだよ。天使たちは今、地上の人間を滅ぼそうとしてる」


 そして、それに反対していたわたしも冤罪で追放されることになった。だから今の天上界には人類殲滅(せんめつ)派しかいないはずだ。


「そうか、それは困る」


 カヤは少し考え込んで、口を開いた。


「マラク、行き場所がないんだったら私と一緒に来て。その件について話を聞かせて貰いたい」


 口では穏やかな提案だ。だけど刀に手を添えているあたり、これは脅迫だ。断れば、よくて誘拐か。


「その前に質問に答えてもらってないよ。カヤは、いったい何者なの?」


 とりあえず話がしたい。判断するにはこちらにもある程度情報が必要だ。


「私? 何者か、か……。この国を守る特殊部隊の幹部、かな? 世界の危機だというのなら動かないと駄目な立場だよ。」


「怪しい。普段どういうことをしてるのさ」


「暗殺、破壊工作、捕虜救出……ああ、そうだ。さっきの火星の落下、あれを止めたのも私」


 正直まるで信じられる話じゃない。

 でも確かに火星の破片に乗って空から落ちてきたよ? 理屈的には可能性あるし、なんかよくわからない強さだし、まさか本当じゃ、ってなってる。どうしよう。


「これでいい? 早く私と一緒に来てくれる?」


 カヤがわたしを急かしてくる。ちょっとまって、まだわたし覚悟ができてない。


「せめてこれだけは聞かせて。どこにわたしを連れていこうとしてるの? なんで連れていくの?」


 これで付いていったら怪しげな研究所で人体実験されましたとかだと困る。


「マラクには、私の所属してる特殊部隊"青い鳥"に来て貰いたい。マラクにもメリットはあると思うよ? 追われてる身なら、こちらで守ってあげられる」


 特殊部隊か……ゲームとか映画で聞くようなやつだよね。軍隊みたいなものかな?

 国家組織ならそこまでめちゃくちゃやらない……よね? なんか悪の組織だったりしない?


「理由の方は色々ある。天使たちが人類を滅ぼそうとしてるっていうのも気になるし、これだけ戦闘能力を持った存在を野放しにするわけにもいかないし、女の子を一人で置いていくのは不憫ふびんだっていうのもある」


 理由はどれも納得のいくものだった。いくつか嘘があるかもしれないけど、わたしを連れていく理由があるのは本当のようだ。……と、最後の理由を聞くまでは思っていた。



「そして何より……私は君に一目惚れしてしまった。マラク、好きです。私の彼女になって」


「へぇっ? えっ、へぇええええっ!!!?」

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