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セルフハンディキャッピング

 追手おっての天使たちに囲まれたこの状況。わたしもピンチではあるけれど、今はそれ以上に気にするべきことがある。


「一応聞いておくけど、ここには人間がいる。天上界憲法によれば、"天使は人間の前にみだりに姿を現してはならない"とある。今のうちにこの子だけ避難させるということはできない?」


 ぶっちゃけわたしが一番それを破っているのだけど、これはこれ、それはそれ。天上界の規律を守ってしかるべき彼らなら、わたしの提案を飲むべきだ。ついでに不意討ちのチャンスができるとうれしい。


「残念だかそれは飲めないな。この状況は我々にとって有利なものだ。それをわざわざ手放すような真似はできない。それに、目撃者は"始末"してしまえば問題はないだろう?」


 くそったれめ。

 わたしは舌打ちした。こいつら、組織からして腐ってやがるな。根本的な話、人間に対して家畜程度にしか見ていないんだ。


 わたしたちを取り囲む天使の数はおよそ四十人から五十人。わたしが逃げ出してからそれほど時間が経ってはいないからとりあえず受刑場にいた全員で追いかけてきたという感じかな。

 おそらく個々の戦闘力でいえば大したことはない。弱体化したわたしでも問題にならないだろう……通常ならば。


「【二枚・盾(バリア・ダブル)】!」


 わたしは羽を二枚消費して、カヤを囲むようにバリアを貼った。これならば、並の天使にはそうそう破れない。


「マラク……!?」


「カヤ、そこでじっとしてて。すぐ片付けるから」


 リソースを半分消費するということは、すなわち戦力も半減するということである。この状態でこの数を相手するのは厳しい。

 しかし、わたしは追放されても天使の最高位、熾天使してんしだ。どんなことがあろうとも、自分のせいで守るべき人間を危険に晒すわけにはいかない。


「いいよ、このままやろう。ただし、手加減はできないから後悔しないでよ?」


「わざわざ人間を守ってくれるとは助かるな。おかげで仕事が早く済みそうだ」


「熾天使を舐めるなよザコども。お前たち相手なら、これくらいのハンデがあってトントンなんだよ。【二枚・点(ポイント・ダブル)】」


 残りのリソースを足に集中する。

 部分強化を使うなら手より足だ。攻撃にも使えるし……。


「総員、エネルギー弾発射!」


 わたしたちを取り囲んでいる天使たちが一斉にエネルギー弾を放った。一つ一つが着弾する度に重機がぶつかるような音が響く。攻撃に巻き込まれた隕石は砕け散り砂のようになっていく。

 だが、こんな中でもバリアに囲まれたカヤには傷ひとつない。そしてわたしは。


「逃げ場はどこにもない。やつも終わりだ……」


「それはどうかな」


 天使の一人に、落下の勢いが乗ったかかと落としを叩き込んだ。めしゃりと気持ちのいい音がして、天使の頭が陥没する。即死コースだ。


「貴様、どうやって……ごひィ!」


 周りが呆然としているうちにハイキックを顎にぶちこむ。乱戦では思い切りの良さが必須だ。


 ちなみにさっきのネタばらしをすると、強化した足で思いっきりジャンプして避けた。部分強化を足に使うと回避にも役立つ。

 天使の場合上に移動するのは飛行を警戒するから、こうして跳ぶと意表を突けるのだ。


「うおらぁーっ!」


 体勢を立て直した周囲の三人が同時に襲いかかってくる。それぞれ正面、右、後ろだ。


 まずは右のやつが拳を突き出してきた。

 これはフットワークで軽くいなし、カウンターの左フックを顔面に打ち込む。


 すぐに正面から次の攻撃がくる。低空タックルでわたしを転ばせるつもりらしい。させるか。タックルに合わせて膝を顔面に叩きつける。


 だがまだ敵が迫っている。腰を捕まれ、後ろ投げ(バックドロップ)の体勢だ、させるか。天使の股に足を引っかけ、投げを阻止する。そのまま重心が後ろに傾いたところに肘を入れて脱出。反撃に金的を食らわせてやった。


「そんなっ」

「こいつ、一人で……!」


 ザコどもがさえずる。

 こいつら、誰が相手だと思ってるんだ。いくら弱体化しようと、不利な状況だろうと、わたしは最強の熾天使。お前たちとは基礎スペックが違う。


 あと天上界で浮いてた関係上喧嘩になることが多くてね……わたしは平和主義者でなにもわるくないんだけど向こうからかかってくるものだから仕方なく。ほら、熾天使じゃん? 天使で一番偉いじゃん? 面子の問題で舐められたらいけないからさ……。


「落ち着け! 基本通りの陣形だ!」


 天使の一人が叫ぶと、ザコたちがわたわたとひとかたまりに集まりだした。さっきの一斉攻撃といい、あいつが頭か?


 とにかくまずは牽制だ。強化した足で地面を蹴り、接近する……が、バリアで阻まれた。


「ははーん、さては」


 反撃のエネルギー弾を避けて、回り込んでの蹴りを放つが、これも止められる。その隙に、また別のやつらがエネルギー弾を撃ってきたのでまたこれを回避する。


 やつらの言う陣形とは、複数人で集まってバリアをいくらでも貼れる状態にして、余裕を持って攻撃するやつだ。単純でけっこう強力。

 だけど、強力だからこそ対処法についてもよく研究されているんだよ。


「へぇあーっ!」


 一斉攻撃を避けたときみたいに高く跳んで、集団の上から攻める。最初の一発は当然バリアで防がれる。

 だが、上からの攻撃に対応するバリアは、こちらからすれば足場としても使える。


「へあーっ!」


 つまり、一歩歩くだけで次の攻撃がすぐに行える。さらに上からの方が面積が広いぶん守らなきゃいけない範囲も広い。


「あっ、しまった!」


 さらに、横からの攻撃なら正面のやつが止めればいいが、上からだと密度が大きいぶん自分以外の誰かが止めるだろうという心理が働く。

 そしてこのようにうっかりバリアを貼り忘れるミスが発生する。


「おらっおらおらおらっ!」


 一度抜けてしまえばあとは楽だ。ごちゃごちゃして敵は動きづらいしこっちは適当に攻撃してれば敵に当たるフィーバータイム。


 敵が体勢を立て直すまでの間に二十人は数を減らすことができた。

 これで半分だ。想定よりいいペース。


「一人相手に何をしている、この役立たずどもめ……もういい、私が出る!」


 ザコどもの頭がなんかごちゃごちゃいってるけど、もしかしてこれはわたしに都合がいい流れ?

 一対一ならわたし、負けないよ?


「ああ、一対一だ……ただし、貴様が相手にするのはここに残っている全員分だと思え!」


 そう叫ぶとそいつは剣を抜き仲間の天使たちの首をはね始めた。


「へえっ、えっ? なに!?」


「ふおおおおーっ!!!」


 そして、その度にそいつは筋肉をたぎらせ力を増していく。


「マラク! それ、止めた方がいいやつじゃない!?」


 カヤが叫んだ。確かに! でも今さら遅い!

 わたしが止めるよりも早く、生き残り全員の首をはね終わってしまった。


「私は味方を殺す度にその力を吸収することができる"ギロチンの天使"……この力を使わせた以上、生きて帰れると思うな!」

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