追放後即情報漏洩
隕石から出てきたし、宇宙人かなにかだと思った。この場合火星人というのが正しいかも。
宇宙人といっても、タコやグレイみたいなのじゃなくて、かぐや姫みたいなタイプだ。
要するに、わたしはその女の子に見惚れてしまったのだ。
まず、まっしろな髪。中学生くらいに見えるのに。染めてるんだろうか。
前髪は目にかかるくらいでぱっつんと切り揃えられていて、さらさらとしたストレートヘアが腰まで伸びている。髪型だけならお嬢様っぽいかも?
白い髪でも老人のそれとは違い、キューティクルってやつなのかつやつやとした光沢があり、軽く動くだけでふわっと揺れる。髪質がいい。繊細かつ儚さを感じさせる、例えるなら粉雪のような美しさだ。
そんな美少女マシマシみたいな女の子なのに軍服っぽいやつの上からロングコートを羽織っている。さらに腰のあれって、刀……刀だ。なんで? 長いのが二本刺さっている。なんだこのミスマッチ。
そしてなによりも、顔がいい。
目が大きくてくりっとしている上に、まつげも長い。よくお化粧とかでデカ目効果だとか付けまつげだとかして周りが喉から手が出るほど欲しがっているものを、こいつは天然で、それも最高ランクのものを手にしているのだ。
その上で血色もよくてほっぺももちもちしてそう。化粧のいらない顔っていうのはこういうものなのか、と思わされる。
いい意味で幼さというかあどけなさが残っていて、かわいさがすごい。
「もしかして、落ちてきたこれにぶつかったりした? どこか怪我してる? 痛いところある?」
そんな感じで見惚れていると、その女の子はしゃがみこんで顔を近づけてきた。うわ、なんかすごいいい匂いする。よく通る澄んだ声だ。って近い近い!
「大丈夫! 大丈夫だから!」
ばっと立ち上がってお尻についた土をぱんぱんと払う。なんか顔が熱い。どうしたわたし。
「大丈夫ならいいんだけど……私、桜 草。桜草と書いてそう読むんだ。君は? なんて名前?」
「えーと……わたしはマラク・エル・タウスマンだよ」
初対面だけど、名前くらいなら教えてもいいだろう、とわたしはよく考えずに答えていた。
「マラクか……外人さん?」
「えーと……うん、そんな感じかな」
まさか天使というわけにもいかず、わたしはそう答えた。これが間違いだった。いや、どう答えても駄目だった気がするけど。
「そう。……それで、ここで何をしていた?」
カヤの声のトーンが急に変わる。瞬きした瞬間に刀が首筋に突き付けられていた。
「へ……ぇ……え?」
嫌な汗が流れる。なんだこれは。
さっきまでは穏やかで虫も殺せないような顔をしていたカヤって子が、突き付けられた刀のように鋭い目付きに変わっている。
「下手な嘘は止めろ。世界大戦開戦以来、正規の手段で日本に出入りした外国人は全て把握している。何者だ? まさか今更悪戯とでも言わないよね?」
直感した。偽れば死ぬ。黙っていても死ぬ。なんならこの殺意をぶつけられているだけでも寿命が縮む気がする。
「天使の中で最高位の熾天使です。無実の罪で天上界を追放されそうになって逃げ出して、ワープゲートを通ってここに来ました。天に誓ってなにも悪いことはしていません。命だけは助けて下さい」
「ええ……」
わたしの全力の命乞いに、カヤは困惑しているようだった。信じられないだろう。わたしがカヤの立場でもそう思う。でも本当なんだから信じてもらうしかない。
「えーと……なにか証明するものはある?」
「羽生やしたり空飛んだりバリア貼ったりエネルギー弾撃ったりとかできます」
本当はこういうの人間に見せちゃいけないんだけど、命がかかってるし仕方ない。神様に世界を救えって言われてるし許されるだろう。なんなら天上界を追放されてるし法に縛られていないまである。なんだ、なにも問題ないじゃん!
詭弁と大義名分を得たので全力でやろう。
天使の羽!
本来は六枚だけど力を奪われた影響でいまは四枚!
正確には羽のような見た目をしたエネルギーの集まりでこれを消費して色々なことが出来る!
飛行能力!
羽が背中に二枚以上ある場合空を飛べる!
バリア【盾】!
羽を任意の枚数消費してバリアを貼れる! 消費した羽の枚数が多く、範囲が狭いほど頑丈だ!
エネルギー弾【弾】!
羽を任意の枚数消費してエネルギー弾を撃てる!
消費した羽の枚数が多いほど威力が高い! 一枚消費でも木をへし折るくらいの威力がある!
ヒール【治】!
羽を消費する自己回復能力!
四枚消費すれば致命傷でも三分で完全復活!
部分強化【点】!
羽を消費して体の一部を強化する!
攻撃に使えばエネルギー弾より威力が高い!
……という天使の共通スキルを実証してみせた。ちなみに消費した羽は時間経過で戻る。
「おー! 本物だ。漫画みたい」
女の子は能天気にぱちぱちと拍手をしている。正直言うと、もうちょっと驚いて欲しかった。ほら、「な……なんだこの力は!?」とかあるじゃん。ここにはああいうリアクションが欲しい。
「まあいいか……こんなものだよ。わたしが天使だって信じてくれた?」
「とりあえず一応」
とりあえずに一応かよ。まあ信じてくれたならいいか……。殺されなくて済むし。
いや待てよ、さっきは不意を突かれたけどわたしは熾天使なんだから勝てるのでは? ここはわたしの力を見せつけてマウントをとるべき場面なのでは?
「ならその体に天使の力というものを教えてやる! へあーっ!」
「む」
カヤに飛びかかろうとしたところで、ぱきり、となにかが割れるような音がわたしたちを囲むように響いた。
「これは……ワープゲート!?」
周囲の空間にヒビが入り、砕ける。わたしが天上界から地上に来たときと同じゲートがいくつも開いた。
「見つけたぞ、熾天使マラク・エル・タウスマン。刑の執行途中での脱走、許されることではない。天上界憲法にのっとり、処刑を実行する」
十や二十ではない。ものすごい数の天使たちに、わたしたちは囲まれてしまった。