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横方彼女面

「私の部署はクソブラックだったけど、他のところはそれほどでもないかな。人間のサラリーマンと大して変わらないよ」


 ブティックのあと、ふらりと立ち寄った喫茶店でわたしたちは天使の日常生活がどうとか他愛もない話をしていた。


「それでカヤ、このあとどこ行くつもり? またなにかセクハラを企んでたりするんじゃないだろうね……」


 ほうじ茶ラテがそろそろなくなりそうになったこともあり、わたしは話題を変えた。さっきみたいな変なサプライズがないかも気になるし。


「残念ながらその予定はないよ。これからはちゃんと普通のデート。でもマラクがえっちなことしたいっていうなら予定変更してもいいけど」


「普通のデートにしよう」


 とりあえず言質げんちは取った。もしまたセクハラをしてこようものならこっちも反撃してやるぞ。


 カヤはアイスココアに口を付けてから、次の話を切り出した。


「それでさ、マラク。これから青い鳥の仲間として仲良くやっていくためにもお互いに理解を深める必要があると思うんだ。その一環として、まずはお互いの好きなものを知ろう。そういうことだから、次はマラクが好きなところに行きたいな」


 わたしの好きなところかー。わたしが地上に降りて、行きたかったところといえばもちろん……。



 というわけで、やってきました家電量販店。お目当てはもちろんゲーム。

 天上界にいたときはネット経由で買ってたんだけど、一度お店に行ってパッケージ買いみたいなことをしてみたかったんだよね。


「へぇー……ほう……うーん……」


 見たことあるゲームは多いけど、実際こうやって手に取ってパッケージを眺めてみるとなんだかわくわく感が違う。


 ネットで見るとどうしてもレビューとかを見に行っちゃうし。

 これとかもクソゲーと評判だけど、パッケージだけだと面白そうに見える。


「マラクはゲームが好きなんだね。天上界にもゲームがあるの?」


「天上界ではゲームは作ってないんだ。下級天使に地上に降りて買ってきてもらったのをやってた。」


 天上界だと娯楽産業に対する風当たりが強い。スポーツとかは推奨されるけどいわゆるオタク業界は棒で叩かれる存在だった。

 そんな環境でゲーム業界が発展するわけもなく、地上のものを手に入れるにもいちいち部下を使わせないといけなかったんだよね。


 そんなだから人間に対してもすぐ堕落したとか言い出すし今回みたいに絶滅させようとか言い出すんだよ。


「マラクはどういうゲームが好きなの?」


 どういう、と聞かれると悩む。わりといろんなジャンルをやってる気がするけど。


「据え置きでよく遊ぶのはFPSが多いかな。仕事の合間に一戦とかできるから好き。同じ理由で格ゲーとかもよくやるよ。まとまった時間がとれたらRPGとかシミュレーションをよくやる。せっかくこっちに来たんだし新しいジャンルに挑戦してみたい気もする」


「うん、ゲームが好きなのはよく伝わった」


 仕事の一環としてやってたネトゲとかMMOについてとかも話したいけど、今はを時間がもったいないからまたの機会にしよう。


「カヤの方はどんなのが好き? っていうかゲームやったりする?」


「私は長いことご無沙汰だけど、流行りものしかやってなかったかな。友達と対戦とか協力プレイできるやつが好き」


 なるほど、カヤはライト層な感じかな。最近やってなかったのは地上では戦争があったから仕方ないか。


「じゃあ二人で遊べるやつ買おうかな。カヤ、こんど一緒にやろうよ」


「いいよ。でも手加減してよ?」


 そういうことで今日はパーティゲーと育成RPGをハードごと二人分買った。

 いままで対戦はオンラインでしかやったことなかったから楽しみかも。



 家電量販店を後にしたわたしたちは、こんどはカヤの好きなもののお店に行くことになった。


「へぇ、カヤはこういうのが好きなんだ……」


 カヤに連れてかれたのは香水のお店だった。色とりどりの液体が入ったガラスの瓶が並べてあって綺麗だ。

 棚に並んでいるのを適当に写真に撮ってもSNS映えしそう。


「私の持論なんだけど、女の子って五感で楽しむものだと思うんだよ。触れあったり抱きしめたりした時にいい香りがする女の子っていいと思わない?」


 確かにそう思う。実際カヤは近くにいるとすごくいい匂いがして、なんて言うかふわふわで心地よい感覚になる。

 なんでかなと思ってたけど、カヤもこうやって香水とか色々やってるんだ。


 カヤみたいに素でも十分にかわいい子でも自分をよりよく見せるためにいろいろ努力してるっていうのは考えてみるとすごいことだよね。


 慢心など一切なく自分の魅力を追及してくる。これだと素のスペックで負けてたら勝ち目がなくない?

 世の女の子たちが美人相手にして嫉妬しっとに狂うのも仕方のないことだと思うよ。


「お試しで付けたりできるから、ちょっと試してみてよ。マラクがどういう香りが好きか気になるし」


 カヤにすすめられて試供品をひとつ手にとってみる。説明によるとこれはリラックス効果があるらしい。

 カヤに言われた通り手の甲に付けて嗅いでみる。うん、いい匂い。だけどリラックス効果かどうかはよくわからなかった。


 他にも安眠効果とか異性を誘惑する効果とか色々試してみたけど、わたしにはよくわからなかったな。確かにどれもいい香りだったけど。


「効果とかはすぐに実感できるようなものじゃないから、仕方ないよ。薬とかとは違う。単純に香りが気に入ったらそれでいいと思う」


「そういうもの?」


「そうだよ。香水だから香りが一番大事」


 なら仕方ないか。

 わたしはとりあえず一番匂いが気に入った安眠効果があるってやつにした。


 カヤは六種類くらいをまとめてカゴの中に突っ込んでいた。これがガチ勢か。


「付け方、教えてあげるね」


 お店を出たら、カヤはやり方を教えながらわたしに香水をつけてくれた。

 自分で嗅いでみると、さっき試したときよりもいい匂いがする気がする。付け方が違うと変わるのかな。


 そのまましばらく匂いを嗅いでいた。かわいい服に身を包んでいい匂いがして、なんて言うかわたしが前よりもかわいくなった気がしてなんだかくすぐったくなる。


 こういうの初めてだけど、女の子たちがおしゃれとかメイクとかがんばったりする気持ちが少しわかった気がする。



 そのあと二人で手をつなぎながら歩いて、しみじみと思う。

 新しい服に新しい香水を付けたカヤは、やっぱりすごくかわいくて、すごくいい匂いがする。


 こういうかわいい子を連れて歩いているとなんだか優越感がある。わたし芸能人と知り合いなんだぜ? みたいなノリのドヤ顔ができる感じ、嫌いじゃない。


 そう考えると彼氏はアクセサリーって言葉も理解できるかもしれない。それを口に出すとカヤが調子に乗りそうだから言わないけど。

 カヤはそういうのじゃないから!  勘違いしないで欲しい。



 空が赤みがかってきて、デートの終わりが近づいてきた。名残なごり惜しいけど、そろそろ帰らないといけないよね。


「私としては、このままホテルに行ってベッドインしてもいいんだけど」


「今日はもうセクハラしないんじゃなかった?」


「予定してたことはもう終わったからセクハラ解禁してよくない?」


「セクハラはいつでも駄目だろ」


 そんな感じでふざけあってたわたしは、予想だにしていなかった。



「……!?」


 それは正に突然。わたしの頸動脈にナイフが食い込んでいく。


 天上界からの刺客。その天使の名は"時間の天使"。

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