護衛隊長
部屋にある鏡台の前でいつものように髪を整える。髪が肩にかかると動きにくいので夜会巻きにする。ワックス取り合えずカバンに入っててよかった。
そんなことを思いながら身支度をはじめる。
ちょっとしたリゾートに来ました。ぐらいにしか感じないぐらいにこの世界は私がいた日本となんら変わりない。魔法が電気などの代わりになってるだけだし。
髪を乾かそうと棚を探してるとドライヤーも見つけた。バスルームと同じで丸い水晶がついていてそこに魔力を通すと温風が出た。温度調節も自分が想う?念じる?だけで出来るようだったし。
トイレも普通に水栓だった。
私、お決まりのチート能力って魔力あるだけじゃないよね?
勇者召喚とかじゃないとチート能力ないのかな?
・・・考えても仕方ないか・・・。
はぁ、とため息をつきながら美容液を馴染ませる。
鏡をみながら昨日のエスパの肌を思い出す。
びっくりするぐらにエステの効果がでたのか、玉の様にきれいな肌になった。
若いっていいなあー、そりゃ私も美容業界にいるから同年代の子たちよりぷりぷりの肌してると自負してる。
でも、重力や年齢には勝てない。
ふと、思いつく。
そういわれてみればローザは私が施術中、魔力をつかっているといっていた。
それって・・・・。
鏡をみつめながら美容液を手に取り頬に手をのせる。そしていつもお客様にしている様に念じながら自分の肌をマッサージをする。
綺麗になーれ。毛穴レスに・・・・。
すると光の玉から妖精がでてきてクルクル私の周りを飛びはじめる。
昨日みた・・・・。この光景。そう思いながら自分の顔のマッサージを続ける。
そして終わると光も消え妖精も消えた。
「・・・うっそ・・・私の肌・・・・。」
見事な毛穴レス・・・・、陶器肌とはこのことだろう。
鏡を見つめながら自分の肌に手を滑らせる。
弾力、ハリ、言うことなし。
こ、これは!!!
私のチート能力はこれか!!!乙女の願い!若さを保てる能力!?
お金持ち相手に商売やっていけんじゃない??
いつか自分の店を持つのが夢だったし!!
ぱぁああっと明るくなったのもつかの間。
悪い奴に捕まって奴隷のように働かされる自分が想像できた。
あ、ダメなやつだ・・・・。ばれたら死ぬんじゃない?
とりあえずはやっぱりここで様子見なのね・・・。
ガクッと肩をおとしながら支度を続けた。
「アカリ姉さま、朝食を食べに行きましょう。」
身支度がととのったタイミングでローザが入ってきた。
「うん、私もおなかペコペコで・・・」
ふり返りながらローザに振りむく。
するとローザが顔を真っ赤にしながら止まっている。
「・・?ローザちゃん??」
「アカリ姉さま・・・とっても美しいです・・・。まるで女神さまみたい。」
うっとりしながら私を見つめるローザ。
そりゃいいすぎな気もするけど、化粧のりがよくて色々盛りすぎたのかも。うまく変身できてるってことなのね。たぶん。
「ふふっありがとう、ローザちゃんにも他の子にしたみたいにマッサージしてあげるからね。」
そういった瞬間にローザの瞳が曇り体を小さくする。
「あ、いえ私は大丈夫ですから、朝ごはん食べに行きましょう。」
そう早口でまくしたて外にいってしまった。
あちゃ、触れてはいけない所に触れてしまったようだ。
気を付けておこう。せっかくだしローザちゃんとは仲良くなりたい。
気を取り直して部屋を後にした。
外はこれでもかと言うくらいの快晴で、気温も高くなりつつある。
待っていたローザの後に続く。
「こちらです、基本食事は食堂になります。」
あるきながら説明をしてくれる。周りを見るとちらほらとガタイのいい傭兵さんがいる。
こんなにいてるの?そんなに危険なの?
「ねぇローザちゃん、この傭兵?さんたちはみんな護衛に雇っているの?」
「いいえ、この一座の一員です。まぁお仕事はここの護衛にはなります。」
「そう・・・、あ、そういえば私倒れたときは誰が運んでくれたの?マザーじゃないよね?」
「はい、護衛隊長様が運んでくださいました。」
「?隊長様?」
ふと思い出す双頭の護衛。
「もしかして双頭の???」
「はい、そうです。」
おおぅ、そうなのね。あとでお礼に向かわないといけないじゃん。怖いけど。
そうこう話しているといい匂いのするゲルの前に来た。
中に入ると大きな長机にたくさんの椅子。そしてまばらだが、男女たくさんの人でにぎわっている。
ほんとに食堂だー、学食を思い出す。
「お好きなメニューをお取りください。食べ終わったらマザーがおよびでしたのでマザーの元に行ってください。」
そういうとローザが食堂から出ていこうとする。
「え!?ローザちゃんは一緒ではないの!?」
「はい、ほかの仕事がありますので失礼します。」
ぺこりとお辞儀をしてあっさりと出て行ってしまった。
残される私、圧倒的アウェイ感・・・・。
しかし、私は小さな子供ではないわ!!と自分に言い聞かせ、腹が減っては戦は出来ぬ!!
ずんずんとご飯のあるカウンターまで急いだ。
いろいろあるけど結局サンドイッチのようなのを選び、飲み物をトレイに乗せ座るところを吟味する。
グループが出来ている所、一人で食べている所。
あ、あそこいい!!
結局めっちゃ隅っこに陣取る私。意気地なし・・・。
はぁ、とため息をつきながらサンドイッチを口にしようとした。
「・・・、大丈夫なのか?」
うん?声が上から降ってくる?
見上げるとガタイがとんでもなくいい双頭の彼が私を見ている。
「・・は、はい、おかげさまで・・・。」
とっさのことにびっくりしてサンドイッチを落としかける。
びっくりした!!!びっくりする!!わたわたしていると、彼は目の前の席に着いた。
大量の食糧と共に。
ハードルが高い・・・、円滑な職場を作るにはコミュニケーションが大事だと重々承知している。
だかしかし、だがしかし!!!
いきなり異種族は辛いんじゃございませんか?!何が地雷かもわからんのに・・・・。
そんなことを考えている間にどんどんと食事を口に運んでいる。
「・・・、やっぱりびっくりしてるんじゃない?彼女」
そういいながらにっこりとこちらに視線を向けるは私からみて右側の彼。
右側の彼の瞳は真っ青なブルーだ。昨日は気がつかなかったが、髪色は二人?とも同じでシルバーグレーの色をしている。
「・・・・食わないのか?」
右の彼の言葉など気にした様子もなく私に話しかける左の彼。
「あ、たべます」
指摘されもそもそと食べ始める。気にした様子もなく二人とももくもくと食事をはじめた。
手の神経はどうなっているんだろう、真ん中でぱっくり二つに神経が分かれているのか別々の動作をしている。
不思議だなー、双子みたいなもんかしら。
そう思いながらぼーっとしながら食べながら眺めていると不意に金色の瞳と目があった。
目をそらすのは失礼な気がして、何より見すぎた気まずさをごまかすように思わず話しかける。
「あの、昨日運んでもらったみたいで・・ありがとうございました。」
「・・・・別にかまわない。」
そういうかいなやまた視線を落とし食事を始める。
「ふふふっぼく達珍しでしょ?気になる感じ?」
右の彼が飲み物をのみながらにっこり話しかけてくる。
「あ、はい。すいません、じろじろ見てしまって。私の国にはいない方なのでつい・・。」
「大丈夫だよ、慣れてるし。ここの国でも珍しんだよぼく達。」
頬杖をついてこちらを見る。
なんていうか、イケメンだな。一つ目だが、イケメンだ。そして若干チャラい匂いがする。
「そういや名前なんていうの?」
「アカリです。渡世 あかり。」
「ワタセアカリ?」
「アカリが名前です。隊長様。」
にっこり笑いながら答えると、二人とも食事をしてる手をとめて見つめてきた。
え!?・・・なんかまずい事言った?
「・・・フローガだ。」
「え?」
むすりとしながら金色の瞳がジト目を作っている。
「僕はクリオだよ、よろしくね。」
「あ、はい。よろしくお願いいたします。」
クリオと名乗った青い瞳の彼。
何故か機嫌の悪い金色の瞳のフローガ。
な、なんなのよ、今の間・・・・。
フローガに目を向けると何もなかったように最後のおかずをホークにさして食べるところだった。
自分の中でもやもやっとしたものが生まれたが、私も早く食べないと、と思い直し視線を落としサンドイッチを食べ始めた。
もくもくもく・・・・
もくもく・・・
もく・・・
な、なんで?食べ終わったんじゃないの?
とっくに食べ終わった二人は未だに私の席の前に陣取り、ずっとこちらの様子を見ている。
「・・・そんなんで足りるのか?」
「えっと、はい。」
何が不思議なんだろう、返答に納得いかないのか眉をしかめる。そんな様子を面白いのかクルオがくくっと押さえながら笑っている。
これは早く食べよう、なんかいたたまれない。
急いで食べて手を合わせる。
「ご馳走様でした。」
トレイをもって返却口へもっていこう立つと急いで立つと、クリオが話しかけてきた。
「これからマザーの所に行くんでしょ?場所分かる?」
「え?・・・・そういわれてみれば・・・」
昨日倒れてしまって運ばれているし、正直自分の部屋も、昨日の控室も、もちろんマザーの部屋も把握できてない。
「一緒にいこう、連れてってあげる。」
クスっと笑うクリオ。
「はい、ありがとうございます!クリオさん。」
つられて笑いながら答えた。
食堂から出て、一歩後ろに下がり二人の後をついていく。
本当に大きい。大きな背中を見つめて思う。
支給された靴はかかとのない物だったから余計に小さい私が目立つ。
二人は大柄の種族なのだろう。2メートルはあるような気がする。そしてムッキムキだ。
食事が終わっても待っていたのは場所が分からないと思っていたのかな?
思ったより優しいな。
そう思いながら二人を見上げる。
相変わらずフローガは機嫌が悪く、それに比べてクリオはご機嫌だ。
「ここだよ、マザーの部屋」
思ったより食堂から近く早く着いた。
「ありがとうございました。クリオさん、フローガさん。」
「いえいえ。また分からないことがあったら声をかけて。」
「はい!ありがとうございます。」
お辞儀をして二人を見る。
するとフローガがびっくりした顔になったかと思うと、ふわっと笑いながら頭に手を置く。
「!!!!!!!」
「・・・またな。」
とっさのことに反応出来ずにいると二人はそのまま去っていった。
な、なんなんだ、あれは。
ぶわっと顔が赤くなるのが分かる。
頭撫でられた・・・、もしかして、すんごい幼いと思われてるの?
アジア人特有の年齢より若く見えます的な?
て、めっちゃ子ども扱いされてない?成人してるんだけど。
なんか、どっと疲れた・・何にもしてないのに。
ふぅーっと深呼吸してマザーの部屋に入っていった。