第8話:アリュート国時期姫ミレル
俺は...今どういう状況に置かれてるのか?
突然異世界に飛ばされ、情報を集めるためにギルドに行くと逮捕され、本当の事を言っても信じてもらえず、牢屋行きになり、更に永遠の罪人の烙印を押され、蔑まれ、畏怖され、そして出血多量で気絶していた所を助けてくれた謎の美少女に話しかけられ、警戒していると、まさかこの烙印を解決してくれると言われ、こんな豪華な竜馬車?に美少女と向かい合って乗っている...。
…あれ。俺って案外ちょろいのか?
猫理はにこやかに笑う美少女と向き合いながらガタンガタンと揺られていた。
猫理は堪らず口を開く。
「お、おい..。誰なんだ…ほんとに。」
「ふむ??ふーむ。まぁ、そりゃ困惑するよねー!ま、私の部屋に着いたら話そ!」
結構気さくだな。ってかいきなりタメ口なのは少し接しやすい。
まぁ、どっちにしろ悪くはならなさそうだし身を任せることにしよう…もしこれが偽りの対応でも...さっきまでよりは居心地が良い。少しでも解決の光が見えるなら縋るしかない。
そう、猫理は思いきかせ、細い希望の光に頼っていた。
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「でっ.....けぇぇ.....。遠くからでもデカ過ぎて城だと目認出来なかったのか」
猫理が連れてこられた城はとても大きく、一つの山のようにそびえ立っていた。
「いくら私の前だからってそんな初めて見たようなリアクションをとらなくてもいいんだよ?」
驚いている俺に銀髪美少女は言う。
やっぱ、こいつの態度は意味分かんねぇな。てか初めてなんだけど。
俺は周りにいた執事の様な人に城の中に案内される。
中も案の定広いし、とても綺麗で豪華な装飾品や綺麗な照明が高い天井から吊り下げられている。
そんな場所にさも当たり前の様に入っていく銀髪美少女の後ろ姿を見て流石の俺も予想ができてきた。
「ほら!こっちよ!」
「お、おう...ってかホントに俺が入っていい所なのか?な、なんかめちゃ色んな人に見られてるんだけど」
「そ?気のせいじゃない?」
「そうか...??」
...と言いつつ耳を澄ませてみる。
「誰あの下賎な男.....罪人!?罪人よ!?」
「なんでミレル様と!?」
「しかも格好が奇抜と言うか変と言うか。」
「ミレル様脅されてるのかしら!?」
「あの刻印は第1級犯罪者...!?どういうこと!?」
散々な言われよう。でも、これが当たり前の反応。そして俺の予想が正しければもっと酷い反応でもおかしくない。
…ん?今、ミレル様って言ったか?こいつの名前か?そんなことを考えながら美少女に付いていくと
豪華な装飾が施された扉の前に案内された
「あ、ここ私の部屋ね!一応掃除はしてるから綺麗よ!ささ!上がって!」
「お、おう。いいのか?」
こんな状況自体初めてなのだがまず女子の部屋に入るという行為自体が初めてな猫理は、いささか緊張する。その間にも後ろからは廊下の掃除をしていた人の声が慌ただしく聞こえる
「ちょ!?ミレル様のお部屋お入れになられるつもりよ!?」
「嘘でしょ!?私達でさえ入ったことないのに!?」
「本当に脅されてるんじゃ!?」
「とりあえずメイド長に連絡を!!」
いや、本当にいいのだろうか。想像以上に後ろがパニクってるぞ。
そんな事を思いながら初めて女の子の部屋に入る。
部屋の中は綺麗にしてあり、女の子らしい小物が置いてあったりやたらと大きいベッドがあったりと、いかにもお金持ちの女の子の部屋のように見える。...まぁ実際に見たことは無いから知らないのだけれども。
猫理が部屋を見渡し、どこに落ち着けばいいか探しているとベッドに座った銀髪美少女がそれを察したかのように声を掛ける
「ま、適当にそこら辺に座っていいわよ!ささっと、本題にはいろ!」
俺はその場にあぐらをかく
「話した時から思ってたけどなかなか勇気あると言うか...まぁいいわ!私の名前は分かるわよね!」
うん。何言ってんだ???
そ、そりゃミレル様って言われてるのは知ってるけど直接説明された訳じゃないし第一、この言い方は会う前から知ってるでしょ?って言い方だ。
俺は確信が持てず、首を傾げる
「.....えっ!?えぇ!?ちょ、私の事知らないの!?」
知らないよ。なんなのこの人。第一俺がどこの誰か分かってないのにそれでも私の事を知ってるでしょ...ってどんだけ自分が有名だと思ってるんだk
「私はこの国の次期、姫よ!?この世界に知らない人なんていないわよ!」
やっぱりな。ってかなるほど。そりゃあなるほどです。
確かこの国は他の国を束ねる主軸国。言わばこの世界のリーダー、その中のトップになる予定の人...って事か。そりゃあ知らない人がいるわけはない。だから俺にあんな態度取ってたんだな
普通は平伏したりするのかな
.....まぁ。この世界の住人ならな。
「ま、まぁいいわ。とりあえずステータス見せなさい!私の命令なんだから聞いてもらうからね?」
「は?ステータス?あー、なんか言ってたな…この世界の何かなのか?どうやって見s」
ぺちぺちぺちぺちぺち
ベットから降りて俺の前にちょこんと正座してきた姫様が俺の手の甲を執拗に叩いてくる。
「あ、あのステータスのことについt」
ぺちぺちぺちぺちぺち
な、何なんだ。この国...いやこの世界では手の甲を叩くという習慣でもあるのkぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちp...
.......パッシーーーン!!!
「いっ!!たいわ!!!!!」
急に強く叩かれ姫様から少し距離を取る
「え、え、ホント何なんなの?何かあるの?」
俺は疑問だらけで困惑する
「何で...出ないの?ステータス。王の証をもつ私なら誰でも見れるはずなのに...。」
何故かこちらも困惑している様子。
よく分かんねぇが、状況的にこちらのターン。今なら聞いてくれるか...。
いささか突然すぎて信じては貰えないだろうが
俺は今までの事を正直に言ってみる。
こことは違う世界の事。また意味もわからずこの世界に飛ばされたこと。そして.....罪人になった事。
姫様は驚き、少し考えたような素振りを見せ、やがて
「あなたの言葉をすべて信じたわけじゃないわ。て言うか、それをすべて信じろって言う方がおかしな話ね。
でも...王の権限を持ってもあなたのステータスが見れないのは確かだし、ステータス登録してないのにこの国に入れたりしたりは出来ない。少しは信じるわ。正直...その刻印が押される前に話したかったわね。。。
一応あなたが異世界から来た。それをわたしが信じた体で話をさせてもらうわ。」
ほー…。なかなか話が分かるお姫様だ
「いい?よく聞いてなさい?この国。いや、この世界は生まれた瞬間から血を少し採取し、その血を魔生魔法陣に垂らし契約し自分のステータス、能力が刻み込まれていく紙を作るの。」
「す、ステータス?能力??」
「そこからなの!!?あ、そうなのね…うーん。面倒ね。まぁ説明するわ、ステータスってのはいわゆるその人個人の身体能力や特技、得意分野の事ね。これは生まれた時に契約した魔生魔法書に秒単位で数値で更新されていく。まぁ簡単に言えば元の筋力は5と書いてあって、数値が1上がる程度の筋トレしたら6になるのよ。」
なるほど、まぁ普通に経験値をためてレベルアップの区切りが短いバージョンって所か。
猫理が納得したような顔をすると姫様は喋り出す
「で、能力についてだけど、これはステータスのようには更新されない。これは生まれた時に決まる...うーん。なんて言ったらいいのかな。能力は能力なんだよねー...。うーん、特技...じゃないしなぁ」
「なるほどな。転生や転移する時に神から貰えたりするやつか」
「.....????よく意味が分からなかったけど理解してくれたならいいわ!ま、それが能力ね!それは生まれた時にもう決まり、遺伝子等は関係なしにただただ運で決まるの。運が悪ければ日常生活に活かすことすら難しい能力だったり戦闘タイプのステータスなのに逆に日常生活に生かせる能力だったり、最悪の場合は無能力。いわゆるステータスオンリーで生きていかなければいけない人もいるの。ま、そんな人は国から補助金が出るんだけどね」
「な、なるほど。この世界はそんな感じなのか。…と、なると俺を回復してくれたのもその能力か?」
「そうよ!私の授かった能力!まぁその話は後にするとして…意外とすんなり受け入れるのね?あなたこの世界の人じゃないらしいのに」
「俺の元いた世界でもそんな能力とかを描いた話とか普通にあったからな。理解が楽だ」
「へー、意外なこともあるものね。あ、あと一応説明しておくけど能力は一人一つ。これは決まっているんだけどその自分の能力をレベルアップさせる事でその能力をベースにした分岐スキルが扱えるわ。うーん。。例えば〝発火〟の能力の人は体のあちこちから火を出せる。ただ、それをレベルアップさせると火を自由に扱えたり、指定した場所から火を出したりとか出来るってわけね!」
「強い…なるほどな。能力を鍛えれば鍛える程いいってことか...って、ん?なんかさっきから説明される能力に戦闘だのなんだの関連してるようだけど戦争でもしてんのか?」
「あ、あんたホントに何も知らないの?それともそう言う演技??まぁ一応説明するけど。私達のこの世界は1度魔神に支配されてる。まぁその魔神はかなり昔に倒されたんだけどその1度支配された影響であたりに魔物が巣食うようになったの。それでその蔓延ってる魔物を討伐したりすると討伐した魔物に応じて報酬としてお金が支払われるの。戦闘を主としている人の職業、収入源よ」
「ま、魔神!!魔物!!?」
なるほどこの世界。そう言うタイプの世界だったか
「そ、まぁ魔物は私達と同じで一度死ぬと2度と生き返らない。だから数は減らせていけるはずなんだけど...。魔物は繁殖する上に魔物、魔神の頂点に立つ〝魔王〟。奴がいる限り魔物は増え続けるの。確か魔王の能力だったかしら...。」
「ま、魔王とかいんのかよ!てか魔王も能力使うんだな」
「そりゃいるわよ!誰が魔物を統率するの。あ、その能力の事なんだけど実は魔王は元は私達と同じだったんじゃないかって言われてるのよね。」
「ほへぇ...。なんか壮大だな。で、でもなんで魔王達はここに攻めてこないんだ?俺らはバリバリ魔物倒してんだろ?」
「バリバリ...って程でもないけど、戦闘能力の人も限られてるし、まぁ多分今は手を出せないんだと思う。私達だって魔神や魔王に匹敵する位の能力の人だっているのよ。そしてその人達でグループが作ってある。多分魔王はそれを知っていて自陣を固めているんでしょうね。かれこれ1千年近くは大規模な戦闘は起きてないわ。」
「なるほどな...。でも、こっちは強いのが揃ってんだろ?なんで魔王の所に攻めにいかないんだ?」
準備整える前に攻めに行けば先手必勝で勝てるのに。
が、しかし姫様は少しは笑いこう答える
「出来てたらとっくにしてるわよ!無理なの。私達からじゃあちらに干渉はできない。魔王達はこことは別次元から何かしらのゲートを作って出てくるの。つまりあちらから出向いてこないとこちらは攻めれないのよ」
「把握した。そりゃあ大変だな。」
つまりいつ攻めてくるかもわからないわけか。まぁ、にしてはここの民は安心しきってるようだが。そんな俺の考えに気づいたのか姫様は言う。
「この国、正確には対魔障壁が貼ってあるドームの中が1国とされてるんだけどそのドーム内には魔物は入れないの。まぁ中から外への接触も無理なんだけど。いわゆる、各国で大きなドーム型のバリアを貼っていてその中にいる限り安全。魔物も寄ってこないし入れない。そしてそのドームの大きさで国がどれだけ栄えるかも決まるわよね!そりゃ土地が大きい方がそれだけ有利ですもの」
「つまりこの国が1番大きいってことか。」
「そゆこと♪ちなみにドームを貼っているのは王でこの城のてっぺんにいるわよ!ま、いわゆる私のパパね」
この話を聞く限り誰かと同じ能力ってのはあるみたいだな。なんせ同じ能力がでないとドーム貼れなくて国はここだけになるからな。
「あ、そそ!ちなみにこのドームを貼る能力は未だに50人しか確認されてなくて1人が死んでしまうとその土地の誰かの赤子がドームの能力を得るの。その間、その赤子がしっかり壁を扱えるまで障壁は契約として貼られるけどかなり弱いわ。だからその時は国民全員が魔力供給をして壁の強度を補うの」
なるほど。よく出来てるな。まぁ、聞きたい事はあらかた聞けたかな?しかし俺はどうすればいいんだろうか。生まれた時に契約しとかない時点で罪らしいのだがもう最上級の罪の烙印を付けられている。その上さらに契約してないから犯罪だの言われたら...
「あ!名前聞いてないし言ってないわね!私はアリヒュート=ミレル。ここ、アリヒュート国の次期姫よ!よろしく!ミレルって呼んでいいわ」
「お、おう。姫様なのに呼び捨てでいいのか?まぁ遠慮はしないけど。おれは柏木 猫理って呼んでくれ。」
「ネリ?変な名前ね?そっちの世界ではそれが普通なのかしら?まぁよろしく!ネリ!」
いきなり名前で呼ばれ猫理は少し照れる。
ミレルは優しく微笑み
「良かった!だいぶ明るくなったね!最初あった時なんてダルダルテ男爵みたいな顔してたもん!」
「いや、誰だよ。」
唐突に知らない人に例えられる。
…しかしまぁ、安心したのは事実である。
転移してそうそう酷い目にあっている所に、怪我を回復してくれ、更に嫌悪、蔑み以外の声をかけてくれ、現状助けてくれているミレルには感謝しきれない恩があるといっても過言ではないだろう。
罪人の俺にも優しく、そして話しやすいミレルに俺は安堵しているのだろう。
「ほんと...ありがt」
猫理が礼を言おうとした瞬間、ミレルが手を握り俺を引っ張る
「とっとっと...!!なんだ急にどしたんだ?」
「え?決まってるでしょ?連れていくのよ?」
「んぁ...?どこにだ?」
ミレルはさも当たり前の様にこう言う。
「パパの所よ?」
この世界の国の頂点に立つ人に異世界から来たから、契約していない。しかもこちらの世界から見れば不法侵入者。そして第1級犯罪者。故にこの世界では最悪の罪人の俺。その罪人が次期姫の娘と共に父親の所に行く。
この事態に気付き
「...いやほんと。何言ってんだ。」
俺の顔が青ざめていくのが自分でも分かる気がした。