第7話:謎の...。
『ーー全く…。君は…本当に愚かだな。』
どこからともなく声が聞こえる。
そこは真っ白な、何も無い。無の空間。
『何がこの世界のせいでだよ~八つ当たりもいいとこだよ…』
次第に声はハッキリと脳内へと届いてくる。
『まぁ、でもいきなりは、流石に過酷過ぎたのかな?しかし!そのせいでなってしまった罪人と、言う道は本当に面白い!』
その声は少年と言うには少し高く、少女と言うには低い声。どことなく不思議な雰囲気が漂う声。
『でも死んでしまっては元も子も無い。君は久々の異常現象なんだ。楽しませてくれないと!』
そう言ったかと思うと突然、真っ白な空間に一輪の漆黒の花が咲く。
すると、次第にその花の周りの空間に黒が……否。闇が侵食していく。
じわじわと、白の空間を埋め尽くしていく。
『あっはは!きみはやっぱり異常現象だよ!数ある中でもこの能力とはねぇ…!〝生きた屍〟の君にピッタリだ!』
その声は嬉しそうに弾む。
『さぁ!!!こんな所で寝てないで楽しませてくれ!そして…いつかは…いつかはこの私をーーーーーーーー』
そんな声を聞いた記憶があるような…ないような。
猫理の記憶は徐々におぼろげになっていく。まるで…わざと忘れさせられているかのようにーーー…
⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅
体の温かみを感じる。自分の波打つ心臓の鼓動が聞こえる。目を開けるとうっすら明るい空が見える。
「俺…生きてる…のか…。」
手足が動く。まだ少し痺れているが立ち上がるには問題無さそうだ。猫理は立ち上がる。体が嘘のように軽い。猫理は、ふと自分の体を見る。
「!!傷が…治ってる…!?」
そう。それは意識を失う前に付けられた傷。無数の石によって出来た擦り傷や投げられた農具によって切られた傷などがまるで、元々傷など無かったかのように癒えている。
更にはさっき受けた仕打ちに対する嫌悪感が明らかに減っている。あそこまで憎み、恨んでいた気持ちが嘘のように晴れている。
自分に起きた現象に驚いていると突然横から声を掛けられる
「あら?目を覚ましたみたいね!」
猫理は咄嗟に距離を取り、声をかけてきた相手を睨みつける。
「わっ!そんな警戒しなくていいのに!て言うか!怪我して倒れてたんだから急に動かないの!」
「誰だ。お前…。」
声をかけて来たのは高そうなドレスを着た銀髪の美少女。
「だっ…誰だって!本気で言ってるの!?いや…記憶喪失なのかも……ってか!あなたを回復してあげたの私なんだけど!感謝とかないわけ!?」
「あっ、そうなのか、それは…すまん。ありがとう。…ただ。なんの目的なんだ?」
猫理は未だ警戒を解かない
もうこの状況下、簡単に警戒を解いてしまえば何をされるかわからない。
信じてくれると思って話した事全てを否定され、尚、一生罪人という枷を嵌められた。その結果、向けられる視線は酷く悲しく冷たいもの。
ーーー昨晩のようには…なりたくない。
不思議と負の気持ちは湧かないが嫌だと言うことに変わりはない。
「なんの目的って…あんた可愛げないわねー!まぁ、私が話しかけてるんだからそりゃ警戒するわよね!」
なんでコイツはさっきからこんな偉そうな態度なんだ…?
本能がヤバイやつだなと告げる。逃げよう。助けてくれたのはありがたいがもしかしたら見返りが酷いかもしれない。
ーーそう思い、猫理は逃げる準備をしていた。
しかし、その態勢は謎の美少女の発した一言で打ち消される。
「まぁ!とりあえずうちの竜馬車乗りなさい!あんたのその刻印、なんで付いたか知らないけど不本意なんでしょ?倒れてる時うなされながらブツブツ言ってたわ!嘘では無さそうだし、助けてあげるわ!」
そんな言葉に猫理の心は一気にグラついた。