第15話:獲物で娯楽
鍛えていなかった訳ではない。
両親が強い子へと育てるために…と。俺は、小学生の頃から空手を高1まで習い続けた。
階級はかなり上の方だったし試合だって優勝はした事無かったけどそこそこ上位に食い込んではいた。腹筋だって腕力だって、そこら辺のやつやよりはあるつもりだ。幾度のなくやったスパーリング、試合で格闘センス(?)は付いたと思う。
でも剣術なんて習った事ない。
中学生の頃、体育の時間で剣道をかじった事のある程度。しかし正直思っていた。
これがもし真剣で本気で振り回したり当てようとしたら普通に当たるし。普通避けれないし。こんな訳の分からない事しなくても実際真剣勝負なんて振り回しときゃいいやん。そう、思っていた。
実際その場面が来た。
相手はかなりでかい。こんな巨体がこのサーベルを避けれる訳が無い。こんなの走りながら振り回しただけで斬れるわ。
「ーーーぅおおおおぉおお!!!」
猫理はサーベルを振り回す。
昔付いた筋力をあてに剣を振り回す。
「うるぅあ!!ぅるぅうぅあぁあ!!!!」
ブン!ブン!爽快に風を着る音が聞こえる。
「らぁ…!うらぁ…!!」
走りながらサーベルを振り回す猫理。
それを〝軽々と避ける〟トールゴブリン。
決して大袈裟に逃げるのではなくほぼ紙一重で避けられる。当たったかと思えば軽くダガーを当てただけで力を流されている。
ーーー力の差が歴然としていた。
大体の異世界系の物語ならこんな敵はサクッと倒してしまうのでは無かろうか。
それか、楽勝では無かったとしてもいい感じに授かったスキルとか駆使して倒すのでは無かろうか。
俺の場合は何だ。物理的にステータスが上がっている訳では無い。かと言って魔法特化で魔法がバンバン使える訳でもない。
使える魔法は束縛魔法の初級。ただのゴブリンでさえ全力を出されると抜けれてしまう、そんな束縛魔法。
普通では無い特質の能力は授かったものの全く使えていない。まず、その能力を使う段階に達してない。
こんな状況の中、結論を出すと
ーーーコイツはそんな状況で挑む相手では無い。
全く当たらない攻撃に走り、振り回し、スタミナが尽きた猫理は大量の汗をかき、激しく肩を揺らしながら余裕の笑みを浮かべているトールゴブリンを睨みつける。
〝娯楽〟
トールゴブリンの表情から取れる印象はまさしくそれだった。
生きる為ではない。
別に必要な事ではない。
ただ、強い自分を誇示するかのように見せつけているだけ。
言葉は通じなくてもそれがヒシヒシと伝わる程の表情と雰囲気。
「馬鹿に…しやがって…!!!!!」
狩られる側の猫理は死なないよう。殺されないよう。必死に動く。
「くっ…そがぁあぁ!!!」
振りまくる猫理のサーベルはやはり全く当たらない。様々なフェイントをかけてみても紙一重で避けられる。
しかし猫理には秘策があった。それはトールゴブリンの後ろにある地面から突き出た岩の角。
そこに誘導するように攻撃を繰り返す
ブンブンと振るサーベルを紙一重で避けるトールゴブリンはジワジワと後退し、突き出た岩の角に近づく。トールゴブリンは気付いていない。
来たっっ!!!!
ここで猫理の渾身の大振り。
するとトールゴブリンは少し過剰に避け、突き出た岩の角たな足をぶつけて、大きくバランスを崩す。
「ここだぁあぁ!!ぁ!!!」
猫理は狙っていたと言わんばかりに
勢い良く、トールゴブリンに向かって大きく踏み出し剣を突き付ける。
狙いは喉。剣先はしっかり向いている
殺すという行為だが、魔物に躊躇いは感じない。
突き抜ける!!その意思で猫理は剣を喉仏に!!!
ーーーーキィン…。
辺りに金属と金属がぶつかり合う音が響く。
「は……………。」
音が響くと同時に〝サーベルが宙を舞う〟
猫理の本気の一閃は
殺す気でいった本気の一閃は
リーチも斬れ味も強度も下回る、錆びたダガーで力を軽く流され、止められ、更にはサーベルを宙に弾き飛ばされる。
「…はっ…ははは。」
思わず笑いがこぼれる。
トールゴブリンは相変わらずニヤニヤと笑っている。それは勿論、今回の作戦が成功しなかった事だろう。
トールゴブリンは〝わざと〟誘導され、〝わざと〟大きくバランスを崩したのだ。
ここまでか。ここまで差があるのか。
猫理は落胆する。
…舐めていたのはこっちもだ。
当たるだろうなんて変な根拠で挑むべきではなかった
しかし、猫理は諦めず落ちたサーベルを拾いに行く
「…でも…!でも!!逃げずに死ぬよりマシなんだy…………ごっ………ふぁっ…………!!!!?」
サーベルを拾いに行った瞬間、トールゴブリンがダガーを投げつける。
そのダガーは猫理の右腹に深く突き刺さる。
「はっ!はっ…!!はっ…!!?」
血は、とめどなく流れ出る。
とてつもない痛みに刺さったダガーにも触れられない。ただ刺さっているところを見て呆然としている。
「…くっ…!はっ…!はっ…!!」
息が荒い。徐々に頭が回らなくなる。
体が寒くなっていく。
夢を見ているような、それとも酔っ払っているような。
うまく例えれないが視界が歪み、正常な判断が出来ないのは確か。
足に力が入らない。
猫理はその場に跪き、寒さに歯を鳴らし、死の恐怖に襲われている。
トールゴブリンは何もしてこない。相変わらずニヤニヤとこの様子を見ている。苦しむ姿を見たいが為に心臓を狙わな無かったのか。完全に玩具扱いだった。
「無理…無理だ……わ………」
猫理の意識は出血多量により落ちかける。
不運の続く異世界生活。
しかしそれでも楽しい事だってあった。
もっと…色んな種族に会いたかったな。
もっと沢山の技を覚えたかったな
ーもっとお金を貯めて防具買いたかったな
ーーもっとミレルとかと話して居たかったなぁ
ーーーもっとこの世界について知りたかったな
ーーーーもっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。
ーーーーーーーーまだ。
「……まだ…生きていたかった……なぁ………」
視界にスーッとグレーの膜が出来ていく。その膜は次第に濃くなり、視界が暗転していく。
今回ばかりはもう無理だろう。
深く刺さったダガーは柄まで腹に刺さっている。
猫理は短くも濃い。そんな異世界生活を振り返りながら考えるのをやめ、身を任せ、視界が暗くなるのをーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
「創成術式!!!!!」
ーーーーーーーーーーーーーー……!!!!
「混合回復っ!!!!!!!」
その声と共に猫理の周りが眩く光る。
唐突の閃光にトールゴブリンは目を抑え悶える。
そしてその光の中心では無数の光る糸がドーム状に猫理を囲む。
すると、光の糸が猫理の体へと伸びる。その光の糸は丁寧にダガーを抜き、
抜いた瞬間に糸が猫理の体へと入っていく。
すると徐々に傷は癒え、回復していく
落ちかけた意識が戻っていく
暗転していた視界が徐々にクリアになっていく。
……この…声は……
「何諦めてんの!!!アホ!ネリ!!!!!!」
……ーー!!!
猫理がうっすら目を開くとそこには腕を組み仁王立ちしている銀髪の美少女。
「あんたね!!前に私がわざわざ助けてあげたのにまた死ぬ気!?って言うか私の注意無視して1人でクエスト出かけたからこうなるのよっ!!!!!」
「ブッ!!?」
傷が癒えかけてる猫理の頭をスッパーンっと叩き、助けに来てくれた銀髪の美少女、ミレルは笑い、
「まっ…無事で良かったわ…ホントに心配したんだから!!さぁ!これからは私達のターンよ!なかなかレアな魔物ね!放って置いて街に来られても困るし、クエスト依頼出て他の人に狩られるのも癪だし…!!2人で狩りましょ!!」
そう楽しそうに言うのだった。




