第12話:変化のない現状
ーーー猫理が能力を解放して10日。
「死捕縛!!!」
「ギュッ!?」
「よっしゃ!!捕まえたか!?…………あれ?」
「ギュギュ…。」
「えっ!?ちょ!まっ!!!それ痛い!絶対痛いかrぁあぁあぁあー!!!!!」
レア能力。『死霊魔術師』と言う能力を解放した猫理はその能力を上手く使うべく外に出て魔物と戦っていた。しかし能力を上手く使いこなせて無いのでジリ貧である。
そして相手は……スライムである。
「ちょ…まじこんなコイツ強いの!?これ初心者用だろ!!?てか、第一…!!何なんだよこの能力!!死者を下僕として蘇らせる能力意外は糞なのか!??これなら地味でも普通に攻撃特化な能力のがよかったわ!!!」
そう。死霊魔術師は本来、
〝殺した対象〟を自分の下僕として蘇らせ、駒のように扱う能力。
そして、その駒を手に入れたければ〝自分で殺す〟と言うのが必須条件なのである。
死霊魔術師は元々魔力を消費するタイプなので猫理の魔力特化のステータスとは相性が良い……。が
「はぁ…はぁ…くそ…攻撃魔法を覚えたいのに…経験値が足りねぇ!!第ー、束縛魔法だけでどう倒すんだよ!」
そう。死霊魔術師の覚えれる最初のスキルは束縛魔法なのである。
スキルアップや分岐をしていけばそれなりに強力なスキルも覚えれる事は可能だがそれに行き着く事がまず難しい。魔物の倒して経験値を得らなければならないが、その魔物が倒せないのである。
「しかもスライムに苦戦とか…ここ3日くらい外に出てはスライムと戦ってるけど勝てねぇ…。これじゃあ他のスキル覚えらねぇ…。大人しく剣とか買うか…?……買えねぇわ。てか居候の身で家賃払わず高い武器買うつてのもな…。」
猫理は今、国王の慈悲により王城で過ごしていた。
魔物を自分で倒せば良いだけなので武器の使用は全く問題は無いが、その武器や防具が恐ろしく高い。と言うのも基本は戦闘職が稼げる職業なのに対して気軽に戦闘を出来ないのが武器、防具をしっかり揃えれないからである。
一般人がナイフかなんかで魔物に立ち向かおうものなら余裕で返り討ちにあってしまうし、武器、防具を揃えたとて、雑魚魔物しか倒せず、結局赤字になる事が多いのである。
故に生まれ持ったスキルで素の状態である程度魔物を倒し、金を稼がないと戦闘職にはなれないのである。
「はぁ…っはぁ…。このギルドで受けたホント初級のクエスト…スライム5体の狩猟さえもクリア出来ないとは…。」
この世界でも最弱とされる魔物、〝スライム〟は誰もが通る最初の魔物とも言える。…がしかし、木の棒ごときではダメージすら与えられないし、素早いスピード、自らの体を引き伸ばし反動を利用した体当たりはLv.0には、かなりの威力である。
しかし魔法に弱く、初級魔法でもかなりダメージを与えられるが…
「ちょこまかと…逃げやがって…!!って言うか!!束縛魔法でどう倒すんだよ!!!くそがぁああぁああぁあぁ!!!!!!」
最初に覚える魔法が束縛魔法の猫理には相性が悪かった。
「はぁ…はぁ…死捕縛っ!!」
「ギュッ!!」
「しゃあ!!捕まえt」
スポンっ
「……………く……そ……がああぁあぁあぁあぁあぁあぁああぁあぁああぁ!!!!!!!!!」
「死捕縛!!死捕縛!!死捕縛!!死捕縛オオオオオオ!!」
「はぁ…はぁ…よっ…ひゃ……やっと…捕まえた!!ほひゅ…ほぼ魔力…尽きたが…魔力量特化で…よかった……。」
目の前には黒いオーラを纏った手の様な形の鎖にがんじがらめにされている1匹の〝スライム〟。
「スライム…1体に…この苦戦は…やばいな…はぁ…はぁ…。」
猫理はほぼ魔力を使い果たし、とてつもない疲労に襲われていた。
「とっとと…トドメさしておくか…はぁ…はぁ…。死捕縛のサイズを…縮めてっ…っと!」
するとスライムに巻き付いていた鎖が急激に締めつけられていく。
「こんな殺し方で悪いな。今はこれしか無いんだよ…。いつかは一瞬で消してやるくらいの能力は覚えるからさ…はぁ…はぁ。」
ジワジワと鎖はスライムの体へめり込んでいく。
「ギュ…ガギュウゥ……」
「死んだらお前は俺の記念すべき第一下僕だ!まだ死霊魔術師特有の死体を操れる能力は使った事ないからどうなるかは分からないけど初めてには変わりないぞ!喜べ!」
「ガッ…ギュキュ…!!」
そして鎖は極限までスライムを締め付け…ーーー
ブチッ!!!
「ふぅ。やっと倒したか…さて、どうすれば下僕にで…………き……………えっ……?」
困惑する猫理の前には先程より1回り小さい〝2匹〟のスライム。
「分……裂……?嘘だろ…?」
スキル『分裂』
スライムやジェル状の魔物特有スキルであり、オーバーキル、コアの破壊、無数の斬撃等には発動しないが、真っ二つに斬られたり引き伸ばされたりすると発動する能力。
尚、分裂限界は2体までである。
あぁ、そんな説明を、城の本で読んだなぁ
なんで忘れてたんだ。俺。
「「ギュギュッ!!!」」
2体のスライムは体を限界まで引き伸ばし、猫理にジリジリと寄ってくる。
「やめろ…俺は動けないんだよ!!ねぇ!やめ!!やめtあぁあぁあぁああぁあぁああぁあぁあぁあぁああぁあぁああぁあぁあぁあぁああぁあぁああぁあぁあぁあぁああぁ」
バッチーーンという痛快な音と同時に悲痛な叫び声が草原に響くのだった。
⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅
「おい見ろよ…あれが噂の…」
「オーラが禍々しいな…あれホントにLv.0かよ…」
「あの仮面の下を見ると死ぬらしいぜ…怖ぇ…」
ざわざわと様々な声が聞こえてくる。
スライム戦から1日経って猫理は今、ギルドにいた。
この世界では珍しい黒髪に赤い刺繍が少し入った黒いローブ、黒いズボン、そして付けている右半分黒、左半分白の無機質な仮面はこの格好と組み合わせることによって怖さが倍増であった。
更に猫理は死霊魔術師の能力を解放した際、瞳の色が赤へと変色したため、仮面から覗く赤い瞳はより一層怖さを引き立てていた。
確かに罪人の証見られずに済んでるが…反応は対して変わらないな…。
猫理がこうなったのは10日前の事。
その日、能力解放した際に発した強い光は様々な魔力障害を起こし、国中の民が異変に気付いたのである。
国民は城前に集まり、光の発生地の城の安否を心配していた。
その頃の猫理と国王は…
「おっ!おい!どうすんだよ!!呑気に説明聞いてたらなんかめちゃ集まってんぞ!?」
「さっきの光が魔力に干渉して魔力障害を起こしたのだろう。一般の国民が気付く位に」
「どう説明するんだよ…!能力解放したらレア能力でしたーーって言っても俺は赤子じゃねぇからかなりおかしな展開になんぞ!!?」
「ん…んん。そうだな……。意外とマズイが…よし。決めた」
「ん?え?何をだ?おい?」
「仮面をつけておけ。城扉を開けるから国民の前に立て」
「…はぁ!??」
「いいから!国民にその時、説明するから!はい!行った行った!」
マジでなんなんだよこの親子!行動が突発的過ぎる!
猫理はブツブツ言いながらも廊下を進み、階段を降り、仮面をつけて、扉の前に立つ。
ギィィィィ…
重たい扉がゆっくりと開く。階段の下には気持ち悪いほどの数の国民。様々な種族が待っていた。
「あ!開いたぞ!!」
「なんなんだ!?アイツは!!」
「魔族!魔族だ!!城に攻めに来たんだ!!」
「不気味なオーラ纏ってやがる…」
「ん?待てよ?普通に出てきたって事は…?国王は…!??」
「っつ!!俺達だけでも倒すぞ!!束になれば!!!」
「えっ!?おい!なんかおかしな方向に行ってないか!?おい!オッサン!!オッサン!!こくぉおおおおー!!」
国民が団結し、目の前の扉から出てきたものを敵として見ようとしていた時、俺の横に国王が出てくる。
「国王!!国王だ!!無事だぞ!!」
「じゃあなんなんだ!隣のヤツは!」
「もしや国王…脅されて…人質か!?」
様々な不安が渦巻く中、国王はスピーカーを口に近づけ、
「皆の者。静粛に。」
そう言った。すると
しーーーーん。
たったその一言で後ろが見えないくらいの数の国民が静かになる。物音一つ立たなくなる。
…すげぇなオッサン…。
「ふむ。すまないな。突然驚かせて。順をおって説明するつもりだ。聞いてくれ。」
そう言って国王は国民に説明をする。
〝嘘〟が入り混じった説明を。
この能力は今生まれたわけでは無く、数年前に解放していたが、その力が恐ろしかった為、かなりの労力をかけ作り上げた能力を抑える魔具で封じ、国王直々に秘密で普通の子として育ててきた。しかしその魔具は成長と共に合わなくなっていき、ついさっき限界に達し、今まで抑えていた分が放出した…と。
その能力は死霊魔術師と言う能力だ。と。そしてその能力は国民に向けて使うのでは無く、魔物を倒すために能力を使用していくと。彼は正真正銘我々の味方だ…と。
猫理は隣で聞いて流石に無理やりすぎてヒヤヒヤしていたが、国王の言葉は絶大なのであろう。
国民は素直に理解してくれた。
その日はそうして無事に終えたのだが…
すぐにそう態度は変わる訳では無い。
そんな怖い存在が、今からは当たり前のように自分達と同じ場所にいるわけで。
国王はそれを見越して、魔物をバシバシ倒していく事で完全にこちら側の味方だという信頼を得ろうという作戦を練った。
そしてタイミングを見計らって仮面を外そうと。
その時は国王も説明に付き合う。そう言う事になったのだ。
ーーーそして時間は現在へと戻る。
猫理は今ギルドの受付の前に立っていた。
「先程スライム討伐を依頼した猫理です。」
「あっあわわ!はっ…!はい!!!!!」
「あ、あのそんな怖がらなくても…えっと…この討伐をキャンセルして横のゴブリン討伐に変えたいんですが…」
「おっ…お手数おかけしました!!何か気に触られたでしょうか!!?も、申し訳ございませんんっ!!!」
受付のエルフのお姉さん。
異世界に来たばかりの頃にこのギルドで初めてあったエルフのお姉さんが……涙目であわあわしながら俺の話を聞いている。
……これはなかなか辛い…。
「いや、あのですね、スライム倒すよりゴブリンの方が能力に合ってまして…」
「はっ!!はい!!そうですよね!!Lv.0とはいえ死霊魔術師の能力をお持ちの方にスライムなんて簡単すぎっていうか舐めてんのかって感じですよね!?すいません!!!!」
いや、その舐めてんのかって思われるスライムに瀕死の状態まで追い詰められたんですけど…。
「は!はい!こ、これゴブリン討伐の依頼書です!!!ゴブリン3体の討伐ですが!物足りなかったら何体でも大丈夫ですのでっ…!!!!」
「あ、えっと……はい。」
まだそんな強くないんだけど…。
そんな風に思いながら仮面の奥で苦笑いを浮かべる。
こりゃあ…仮面を外せる日はかなり遠いな…。
ゴブリン討伐の依頼書を握りしめ、猫理は、そう感じるのであった。




