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1話 あはれ憎らしき父親のようです。







古い洋館。


部屋は重いカーテンに遮られ、朝か夜か分からない。

部屋にはよく似合った高級そうなソファがどっしりと置かれている。

換気していないのか、人が入らない部屋なのか、どこもみょうにほこりっぽい。

そして、むせ返る甘い花の香り。


こんな『いかにも』な洋館、日本にあるのだろうか。

もしかしたら、ここは外国かもしれない。

私は、一体どこまで来てしまったのだろう。

いや、連れてこられてしまったのだろう。


ーーーなにも、なにも分からない。

考えてみようとしたけど、無理。


今はそれどころではないのだ。


はっ、はっ、はっ。

恐怖で歯が震えるのを両手で塞ぐ。

暗い部屋の隅でできるだけ小さく身体を丸め、隠れた。

大粒の涙が目から溢れては、床1面を覆う真っ赤な絨毯にボタボタと落ちてゆく。


ζ(:、:*ζ


カツカツカツカツカツカツカツカツカツ。


ヒールの音が近づいてくる。

あの女のものだ。

声にもならない叫び声を無理やり飲み込んだ。


固く目をつぶり、夢中でなんども祈る。


カッカッカッカッカッカッ。


1歩ごとに舘全体にも響くヒール音からは、焦り、そして苛立ちが伝わる。


あの女はきっと怒っている。逃げ出した私に。


音は迷いなく続けて大きくなってゆく。



それは少女の部屋のすぐ前で一番大きな音をたて、

止まり、


カツン。


ζ(:、:*ζ「ッ~~~」


カツ、


ζ(;、;*ζ


カツカツカツ


そしてーーーー遠のいていった。


へなへなと力という力が抜ける。


ζ(:、:*ζ「ぐ、う、うぅ、ぅ……」


安堵からまた涙が止まらない。


一糸まとわない少女は両腕をいっぱい使って涙をふいた。

腕全体が涙でビショビショだ。それでも涙は止まらない。


しかし悠長に泣いている場合ではなかった。一刻も早くあの女から逃げなければ。


ζ(:、:*ζ(よし、よし、よし!)


涙は止まらないし、足も震えたままだが、とりあえず今はここから逃げよう。

とにかく外に出ればだれかが助けてくれるはず。

頬をつねり、無理やり決意を固め顔を上げた。


顔を上げた。その、目先。


ギョロリと、静かに少女を見つめる大きな青い瞳と目が合った。



***



ξ*゜⊿゜)ξ「……」


失礼な。


目の前で気絶した少女を見ながら、青い瞳の少女は少し呆然としていた。

束の間、コンコンコンと扉が叩かれる。


「あ、あの、ツンさん……?」


木製の扉の向こうから、男がおずおずと少女を呼んだ。


「すっっごい声がしたんだけども……入ってもいいのかお?」


ξ*゜⊿゜)ξ「どーぞ」


ぶっきらぼうにツンは答えた。


ガチャリ、そろそろ。

ガタイの良い大柄な男が柄にも合わない様子で部屋に入ってきた。


(;^ω^)「えぇ……」


そして絶句。


(;^ω^)「なんでこの子気絶してんの。おいおいおいおい、大丈夫か……」


倒れ込む少女のもとへ駆け寄る。


( ^ω^)「お……」


直後、悪寒。本能が立ち止まれと男に言った。


恐る恐る視線をずらすと、青い瞳が静かにこちら睨んでいる。


殺される。

男は視線と一緒にそのまま回れ右をして、倒れている裸の少女に背を向けた。


ため息ついて、ツンはカツカツカツと大股で窓に向かい、勢いよくカーテンを開けた。

大量の日差しが部屋にそそがれ、ツンの金色の髪が反射して輝く。


白く透明度の高い肌。赤く潤んだ血色のいい唇が映える。

例えるなら、天使。もしくは、女神。

そして女神は、厚いカーテンの下に隠れていた、上質で繊細なレースのカーテンをそっと手に撫でるように掴むと、

_,

ξ*゜⊿゜)ξo彡 ジッ!!!!!!!!!!


思い切りぶんちぎった。


(;^ω^)「アーーーーーーーーーーーッ!!!!それうん百万ーーーーー!!!!!」


うるさいわね、と男に目もくれず、

ツンは掴んだそのカーテンを、無造作に少女に

投げつけた。


そしてそのまま流れるように近くのテーブルにあった羽根ペンを掴み、カーテンの裾になにやら書き始める。


それは一瞬だった。


ツンが最後の1文字を書き終えたと同時、カーテンのが少女の身体に巻き付いた。

時折ビッと破れる音を立てながらカーテンは意思を持って少女の身体を這う。

ほつれた糸が重なりあい、結ばれる。


待つ数秒。

裸だった少女の身体に、レース調の可愛らしいワンピースが仕立てられた。


(;^ω^)「おおお~ん、さようならウン百万のカーテン…」


ξ*゜⊿゜)ξ「……」


じろり。つくづく男は睨まれる。

口から出る言葉は嫌味たらしいが、男の顔を見るにさほど気にしてはない様子だ。

調子のいい足取りでようやく身にものをまとった少女に近づく。


ξ*゜⊿゜)ξ「じゃあブーン、あとはお願い」


( ^ω^)「はいはい、よいしょっと」


ブーンと呼ばれた男が少女を抱えて持ち上げる。


ツンが踵を返すと、ブロンドの髪が揺れる。

部屋を出るツンの後を、ブーンとその腕に眠る少女が追った。



***



ζ(゜ー゜;ζ


なんだこれは。


目の前に並ぶ豪勢なオードブル。

そして中央には一口サイズのケーキ。

ショートケーキ、ガトーショコラ、チーズケーキ、その他もろもろ。

彩り豊かだ。女子なら誰でも目を奪われる。


ξ*゜⊿゜)ξ「起きたのね」


その奥、青い瞳の女が優雅に紅茶をたしなんでいた。


ζ(゜ー゜;ζ「ひっ!」


ξ*゜⊿゜)ξ「紅茶、あなたも飲む?」


女は手際よくカップを用意する。

自分の返事は待たずに、まだ湯気の立つ紅茶がカップに注がれる。

ふわりと甘い香りの中に上品は香りが立ち込める。


ζ(゜ー゜;ζ「え、え、あの」


意味が分からない。

この女は、いったい何者なんだ。


ξ*゜⊿゜)ξ「さっきは驚かせてごめんなさいね」


女は紅茶を自分の近くに置くと微塵も変わらない表情で謝る。


ξ*゜⊿゜)ξ「裸で知らない場所で目が覚めたら誰でも恐怖を感じるわよね」


配慮が足りなかったわ、と女は目線を下にやる。


はっとして自分の胸を見た。

いつのまにかかわいらしい純白のワンピースを着ている。


ζ(゜ー゜;ζ「わ、わたしの服は…?」


ζ(゜ー゜;ζ「ていうかかばんは?ここはどこなの?」


ξ*゜⊿゜)ξ「…」


女は不思議そうな、そして困ったような顔で私を見る。


ξ*゜⊿゜)ξ「落ち着いて話し合う必要がありそうね」



***



女が第一発見者だった。


この館に住む青い瞳の女、内藤ツンはちょうど出かけようとしているところだった。

家を出て、戸締りをする。

きちんと鍵がかかっているところで、


どすん


と何かが落ちた音が聞こえた。


庭の方からだった。


館はぐるりと塀で囲まれている。

人が登れるような高さではない。

それなら何か投げ込まれたか。

不審に思った内藤ツンはすぐ裏の庭を確認した。


ζ(-、-*ζ


そこに少女がいた。


芝生の上に、似合わない肌色。

裸。


とっさに無事を確認した。

見たところ大きな怪我はないが、意識もない。

ぐったりとした顔は青ざめているようだ。


とにかく事件性があるのは明らかだった。

彼女は慌てて同居人の内藤ブーンを呼び、少女を保護した。


ξ*゜⊿゜)ξ「そしてわたしが服を探しに行ってるときにあなたが目を覚まして、びっくりして逃げたのね」


( ^ω^)「僕はさすがに同じ部屋にいられなかったしね」


そう、タイミングが最悪だった。


ζ(゜ー゜;ζ「…」


だから、はい、そうですか、なんて簡単に言えなかった。

混乱しすぎて頭が痛い。吐き気がする。

この人たちを信用してもいいのか。分からない。

怖い。


( ^ω^)d「ちなみに外に救急車来てるけど、どうする?乗ってく?」


そんなナンパみたいな軽いノリで。


ζ(゜ー゜;ζ「あ、いや、どこも痛くないっていうか、元気っていうか、大丈夫です。すいません」


「救急車」という言葉を聞いて、ㇵッとした。


ζ(゜ー゜;ζ「あのっ、警察、警察を呼んでくれていませんか?」


ξ*゜⊿゜)ξ「ケエサツ?」


美しい顔の眉間にしわが入る。


ζ(゜ー゜;ζ「えっ」


なにか変なことを言っただろうか。

いや、それよりもなんだかとても不安な感じがする。


ツンは少し考えたが分からなかったようで、ブーンの方を見た。

しかしブーンも首をかしげる。


ξ*゜⊿゜)ξ「…ごめんなさい、『ケエサツ』ってのは何かしら?分からないわ」


ζ(゜ー゜;ζ「は!?」


世間知らずなのか、この人は。この人たちは。

いや、さすがにその歳で警察を知らないとかふざけている。


ζ(゜ー゜;ζ「警察ですよ!警察!ポリス!事件とか、事故とかをなんか、あれ、いろいろやってくれる!」


目の前の二人が呆然としている。というか引き気味でこちらを見ている。

なんで、普通のことを言っているだけなのに。


ζ(゜ー゜;ζ「もういいです、じゃあ電話を貸してください。自分で通報します」


ξ*゜⊿゜)ξ「デンワ?」


もうやだ、この人全然言葉通じない。

お嬢様すぎる。


( ^ω^)「どこかに連絡をしたいのかお?」


ζ(゜ー゜;ζ「そうです!電話くらいあるでしょう!?」


(;^ω^)「うーん、『デンワ』はよくわからないけど連絡する手段なら貸すお」


渡されたのは、


ζ(゜ー゜*ζ「紙」


( ^ω^)「と、ペンね。はい」


ζ(゜゜皿゜゜;ζ「バカにしとんのかァ!!!」


ξ*゜⊿゜)ξ「顔」


わなわなと涙が出てくる。

手紙で警察を呼ぶなんて、今まで生きてきて思いつきもしなかった。

どうしよう、お金持ちの人は頭にはお金が詰まっているらしい。

それとも私が警察に連絡できないようにわざとはぐらかしているのか。

そうだったら結構怖い。


(;^ω^)「えー、もうやだこの子、情緒不安定すぎじゃない?」


もう言い返す気力もない。話すだけ体力が無駄になる。

涙がパタパタと落ちる。もう一度逃げ出すべきか。


ξ*゜⊿゜)ξ「……」


少女が投げた紙をツンが拾った。

ペンを持ち、紙にさらりと一言書いた。


ξ*゜⊿゜)ξ「あ、もしもし?」


ζ(゜盆゜;ζ


紙に話しかけるツン。

それを見てドン引きの少女。

やばい、本当にこの人、やばい。


と思った矢先だった。


『・・・・・はーい、どうしたの?』


ζ(゜、゜;ζ「…え?」


紙が、しゃべった。



***



ζ(;、;*ζ「待ってください、待ってください、もう本当に無理です」


少女は泣きじゃくっていた。


ζ(;、;*ζ「おうち帰りたいです、帰してください」


そんなことを言われても。

こっちだって帰してあげたいに決まっている。


でも、


(;^ω^)「異世界に帰りたいって言われてもねぇ」


ζ(;、;*ζブワッ


大変、この子一日中泣いている。

そろそろ枯れるんじゃないか。

近くにあった紅茶とついでにケーキを渡す。


泣きじゃくりながら少女は口に運んだ。


□『伊藤デレ…ってやっぱり戸籍データがないなぁ~』


紙切れから発せられる声の主は、しきりにうーんと唸っている。


( ^ω^)「外国籍とか?」


□『調べ済み。でもなかった』


(;^ω^)「そうなると、出生手続きされていないことになっちゃうお~」


どうすればいいのだろう。

全く見当もつかない。


少女ーーー伊藤デレ、はなんでも『チキュウ』という世界の『ニホン』という国から来たという。

この世界にそんな場所はない。聞いたこともない。


その世界はなんでも、『デンキ』と呼ばれるエネルギーで成り立っているらしい。

それはこの世界でいう『魔力』と同じものらしい。


この世界は魔法で成り立っている。

魔法を使って荷物を運び、魔法を使って調理をし、魔法を使って遠く離れた人物と会話ができる。


必要なのは魔力を提供している会社との契約。


契約さえ結べば、魔法が使える。

魔力は使えば使うほど金はかかるが。


□『この世界で魔法を知らないってことはないし……妄想癖のあるヤバイ奴なんじゃないの?』


紙が小声で話す。

泣きじゃくる少女をちらりと見る。


たしかに、かなりの妄想癖か、精神的疾患の重症患者かもしれない。







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