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第6-1/サーモバインドとエア・ブレーカー(1)

氷室さんと落ち合って状況を説明した結果、やはり生徒会へ乗り込むしかないだろう、と言う結論に至った。氷室さんの方には特に襲撃とかはなかったみたいだ。


「……で、生徒会室の前まで来たのはいいんだけど。アレ、こんなんだっけここ?」

「ええ。今の会長になってから大規模な改装があって」


何というか、無駄に豪奢だ。オレたちが目にしてるのは扉だけなのに、明らかな異質感がある。まずデカイ。そして引き戸ではなく両開きだ。そして、金箔を使っているのか、キラキラした装飾が多い。龍や鶴や鳳凰となんでもアリなのは如何なものか。そして、扉自体も重厚感のある木材で、漆塗りでもしてあるんだろう、光沢感というかツヤがある。


……そんな扉を設えた部屋が、普通の教室に並んで、そこにあった。


「いくらなんでも異質すぎないかね、これ?」

「……はい。正直言ってキライです、わたし。学長室でももう少し弁えているのだけれど」


あまり露骨なことは口にしない氷室さんをしてこの評価である。いや、真面目な彼女だからこそ、この横暴とも言える無駄な存在感に辟易しているのかも知れない。


「……まぁ気を取り直して。どう仕掛けるべきかーー」

『好き勝手言ってる声が聞こえると思えば、貴方達でしたのね。2年B組、空堂真介。2年A組、氷室幸花。扉は開いています。入って来て良くてよ?』

「ーーーー」


スピーカーでも付いてあるんだろう、扉からマイク越しのような声が聞こえてきた。どうやら生徒会室前での会話は筒抜けらしい。ともあれ、ここまで来てしまった以上退くことはできないし、その理由もない。オレは氷室さんと顔を見合わせ、お互いに頷くと、見た目通りの重さの扉を開けて中に入る。


「ーーーーーーーー」


入った瞬間、めまいがするかと思った。

一目見て高級とわかる絨毯敷きの部屋には、外から見えた扉以上にキラキラした装飾のオンパレードだ。とても学園内の一室、それも生徒会室とは思えない。


「ふふ。貴方達から会いに来てくださるとは嬉しいですわ。それで、ご用件は何かしら」

「はは、用件が何か、とはまた異な事を。生徒会勧誘の件じゃなくその疑問が最初に出る時点で、用件はお分かりなんじゃないですかねぇ」


無駄にデカくて高級っぽい机と椅子に腰掛け、机上に手を組んだ会長と話す。ざっと見たところ、亜衣子も平利も見当たらない。ふたりはどこに行ったのだろうか。


「ええ、もちろん貴方がお求めのものの用意はございますわ。けれど、それを差し出すかどうかはこれからする話次第ですわね」

「それってやっぱりオレに生徒会に入れっていうーー」

「貴方、本来の能力(アビリティ)を隠してらっしゃいますわね?」

「っ、さてさて、何のことやら」


唐突な切り出しに、オレは少し、動揺しかけてしまう。

こっちから話題を出して探りを入れていこうとしたが、いきなり出鼻をくじかれた。だてに生徒会長をやっているわけではない、ということか。


「シラを切ろうとしても無駄ですわよ。昨日の一件。貴方が氷室さんを救おうと繰り出した一撃は、どう考えても『波動(ウェイブ)』のCランクが出せる威力ではなかった。Aランク、いいえ、場合によってはSランクの素質があるのでは?」

「そこまで買いかぶって貰えるのは光栄ですがね、あんなのは火事場の馬鹿力ってなもんで。自分でもなんで出来たのか分からんやつですよ」


一気に核心を突きにきた会長を相手に、こちらも正面から顔を見据えて対応する。この手合いは気圧されたら負けだ。真っ向から対面しつつ、それでいて要所はいなし、はぐらかす。そういう立ち回りが理想だろう。


「あら、要するにピンチになればそれだけの力を出せる、ということですわね。それにしても、話したこともないようなクラスメイトのピンチでそれが発揮できるなんて。貴方、その子に惚れているのかしら」

「なっーーんで、そうなるんです」


……やりづらい。いちいち想定外の言葉が飛んでくる。


「あらあら、動揺しちゃって、可愛いんですのね。それで? やっぱり惚れてるのかしら。わたくしのモノになるというのなら、一緒に飼ってあげてもーー」


よろしくってよ、とその言葉が終わる前に、会長の机に氷の華が咲いていた。


「ーーちょっと。貴女、こちら側だったのではなくて?」

「わたしはただ、わたしの事情で空堂くんのことを知りたかっただけです。貴女と一緒にされたくはないわ」

「ふふ、それでも貴女がきっかけで今こうなってるのに変わりはありませんわ。それともそれは、罪滅ぼしのつもりかしら?」

「ーーーーっ」


氷室さんの言葉が止まる。そのかわりに、氷室さんの周りの冷気がぶわ、と広がった。


「まぁ、そうですわね。あまり引っ張っても仕方ありませんし。とっとと片付けてしまうとしましょうか」


会長がパチン、と指を鳴らす。すると、ウィィン、なんていう機械音がしばらく響いて、


「亜衣子! 平利!」


床が開き、下から縄で拘束された2人がせり上がってきた。

いや、なんつう所に金かけてるんだよ……。


「すまねぇ真介、捕まっちまった!」

「ああ、お前はいいけど亜衣子はどうしたんだ。意識がないようだが」

「ここでも俺の扱い雑ゥ!?」


せり上がって来た2人のうち、平利はいつも通り元気だが、亜衣子の方はまるで反応がない。拐われた後に何かされたのか……?


「眠らせているだけだからご安心くださいな。彼女、ひどく不安定だったようなので。わたくしからのサービスですわ」

「……なら良いが。それで、どうしたら亜衣子を解放してくれるんです?」

「俺俺! 俺もねっ!!」


わざわざ拐っていって、ここで出してくるということは、向こうにも交渉の準備があるということだ。交渉したい、ということは欲しいものがあちらにあるということで、それは即ちオレ自身か、オレの能力に関係するところだと思うがーー。


「ええ、では改めて。空堂真介くん。貴方、わたくしの駒になりなさい」

「駒ってのは、生徒会の一員ってことかい?」

「それだけではなくてよ。公私ともにわたくしの手足となり、慰みになり、研究材料になるもの。即ち駒、ですわ」

「ーーそいつは、また。そりゃちょっと、横暴が過ぎるんじゃないですかね」


彼女がいう駒というもの。それは駒というよりは奴隷のようなものだ。そのまま吞むにはあまりにもヘビィすぎる条件だった。


「そうかしら? こちらが吞む条件は人質2人の解放と、貴方の能力に関する情報の秘匿。わたくしが提示したのは貴方一人の身柄。こうして考えると、むしろ等価にすらなっていないんではなくて?」

「いやいや。そのかわりオレの人権、保証されてないでしょーよ。ヒトひとり、そんな安いモンじゃないですよ?」

「では、貴方がこの取引に応じなければこの2人を今後駒として扱う、といえばどうなるかしら?」

「む……」


そんなもの、交渉にも取引にもなってやしない。こちらは向こうの条件が重たい、と言ったのだ。それを、呑まなければより重たい条件を課すぞ、など、横暴を通り越して宣戦布告にも等しいと言えるだろう。


「ーーああ、そうかい。なら交渉は決裂だ」

「な……貴方、この2人を取り返しにきたんじゃないですの!?」


マジでアレが通ると思ってたのか。これだから筋金入りの権力者サマは……。


「もちろん、力ずくで取り返す。氷室さん、巻き込んですまないがそういうことでいいかな?」

「ええ。わたしもあれは看過できないわ。お手伝いさせてもらいます」


氷室さんの心強い返信にオレは頷く。と、会長……吉内アビィはいよいよ焦ったような顔を作り始めた。


「貴女、本当にそっち側につくんですの!?」

「……だって、あなた、なんかヤダ」

「なんかってなんだってのよコンニャロー!!」

「ヘイヘイお嬢さん。素が出てますぜ素が」

「うっさいですわ!」


横槍を入れてきた平利を吉内アビィはゲシッと雑に蹴り飛ばす。どうやら、随分と化けの皮が剥がれてきたようだ。

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