第4/行方
昼休み。オレと平利はひとまず食堂に向かう。
普段なら亜衣子が先に来ているところだがーー。
「あら、空堂くん。あなたも食堂派なの?」
ーー亜衣子を見つける前に、氷室さんと会ってしまった。どうやら彼女はこの食堂の利用者らしい。吉内学園の食堂はメニューが豊富で味も良い。……のだが、お値段がちょいとばかり割高すぎて、我々一般庶民にはなかなか手が出なかったりする。
「いや、持ち込み派。ちょっと人を探してるんだけど」
「それは少し、マナー違反なのでは……。いえ、それより。人探しなら手伝いましょうか?」
「そいつは助かるな。でも良いのかい?」
「構いません。食事ならもう、済みましたから」
「……早くない?」
オレたちが食堂へ向かったのは授業が終わってすぐのはずだが……。
「わたし、食べるの早いので」
「へぇ、そうなんだ」
それにしたって早すぎる気もするが……まぁここはこれ以上気にしても野暮ってなもんだろう。大人しく好意に甘えたい。
「クドっち、一通り探してみたけど、やっぱり食堂に亜衣子ちゃんはいなさそうだぜ」
そこに、食堂を一周してきたらしい平利が戻ってきた。朝に散々素っ気なくされたせいで、氷室さんには少し苦手意識があるようだ。
ほぼ初対面の相手にウザ絡みされたら、そりゃそうなるでしょうよ、とは思う。
「そうか。氷室さんが手伝ってくれることになったし、ここいらで少し状況を整理しますかね」
・昨日、亜衣子がランクEの未来視による直感で悪いものを感じた。
・昼にオレから励ましの言葉をかけたが、色々あってその後フォローを入れることができなかった。
・次に顔を合わせた時には、オレたちはオレと氷室さんが一緒にいることによる騒ぎの渦中にいた。
・亜衣子は元気そうに見えて、かなり不安を抱えた状態にあると予想される。
ーー状況整理、終わり。
「それって……ごめんなさい。わたしにも原因があるみたいですね」
「まぁ、タイミングは最悪だったけど。偶然だもの仕方ないよ」
「ん? どゆことどゆことー?」
平利に昨日のことをざっくりと説明する。無論、オレの能力に関してはボカしておいた。
「ふーん? 氷室さんがクドっちに興味をねー」
「何だよ」
平利はニヤニヤしながら横目でこっちをみてくる。氷室さんはというと、俯いてだんまりを決め込んでいた。
「まぁ、正確には『クドっちの能力に』興味があったみたいだけど? そんで、闘技場のシステム誤作動で勝負はお流れになったって?」
「……ま、そういうこと」
闘技場でエラーがあった、ということ自体は今朝のホームルームで知らされており、今日1日はメンテナンスのため闘技場が使用禁止となっている。ゆえに、話のつじつまを合わせることはそう難しくなかった。
「ま、気持ちはわからんでもないけどな。クドっちってばいつもテキトーだもんよ。でも、氷室さんがってのはちょっと意外っつーか」
「そ、それより! その、平久保亜衣子さん、ですか? 彼女を探すのが先決ではなくて?」
「それもそうだな。な、クドっちー?」
ニヤニヤ見てくる。……いや、そんな期待されてもオレの口からはなんも出ないって。
「とりあえず一度亜衣子の教室見に行って、手がかりがないようなら別れて探すって感じかねぇ。……午後の授業フケることになるかも知れんが、氷室さんどうする?」
「問題ないわ、付き合います。その、放ってはおけませんし」
「そっか。ありがとう」
基本的に優等生な氷室さんだが、躊躇なくサボり宣言だ。この場合は責任感の方が勝ったのかもしれない。
予鈴が鳴るのを待ってから、1年の教室を見に行く。授業に出るなら探す手間は省けるし、本鈴が鳴る前ならクラスの誰かから情報が聞ける可能性がある。
「と、思ったんだがねぇ」
そう上手くはいかないものだ。教室には亜衣子の姿はなかったし、クラスの連中は亜衣子に無関心だったし、本鈴まで待っても亜衣子は教室に来ることはなかった。