序/アビリティ
「ーーはぁ。こういうの、好きじゃないんだけどねオレ」
ぼやきながら、『波動』を発動し、空気の振動を利用して正面からの拳を止める。
ーー『波動』のランクC。空気の振動を操ることができる、オレ固有の特殊能力だ。この国の人間は初等学園に入学すると同時に適性テストと結果に応じた能力開発を受けることになり、生まれ持った適性に応じた特殊能力を得る。能力はランク付けされ、ランクの高い能力者……俗にハイランカーと呼ばれる人間はそのままこの国における高ステータスを持つ者とされる。
……のだが。
「なんでこうなったのかねぇ」
「だったらすっこんでろやボケェッ!」
チラッと後ろを見やった隙に罵声とともに飛んできた横からの殴打。これをかわし、『波動』でバットを吹き飛ばす。すると、相手はめげずに頭突きを繰り出してきた。
「おおっと。だってさ、寝覚め悪いじゃないの、っと!」
あまり至近距離を維持しすぎて、ブレザーの襟やネクタイでも掴まれるとよろしくない。オレは後退しつつ、相手の突進を『波動』で止める。退がった先には、蹲って震える少年の小さな体があった。
「そりゃあオレだって面倒なことはしたくない。したくないが、こんな小さい子をイジメてる現場見過ごして、あとから思い出すほうが面倒かなー、てね」
ため息をつきながら改めて前方を見る。坊主頭にごっつい身体のニィちゃんが、眉つりあげ青筋立ててこっちを睨んでいた。
……そんなにガン付けなくても良いじゃない。オレだって怖いのよ?
「元はと言えばそのガキが悪ぃんだよ。無能のクセに偉そうなこと言いやがってよォ!」
声も無駄にでかい。さぞや脅し慣れているんだろう。見るからにフィジカル強そうなヤツだが、今の所特殊能力を使った風には見えない。口振りからして、何らかの能力は持っているのだろうが。
「ゼロラン……無能力者、ねぇ。ぶっちゃけオレ、そういう差別もキライなんだけども」
高次元の能力を持つハイランカーがいるならば、その逆もいる、ということだ。低ランクの能力者、或いは何らかの事情で能力を発現できなかったり、喪失した者は、差別の対象になりやすい。低ランクでも能力を得ていればバカにされる程度で済むが、無能力者となると露骨に人権を失いがちだ。
「テメェ、能力者の癖に無能の肩持つとか馬鹿じゃねぇか?」
「馬鹿かもねぇ。けど、今更ごめんって言っても聞かないでしょ?」
「ッたりまえだボケ! バカにしてんのか、ああ!?」
っといけない。煽っちゃったか。
……なんて思ってるうちに奴さんのゴツい筋肉が更に膨れ上がり、なんかちょっと赤っぽく発光している。何アレ、赤熱?
「あちゃーこりゃちょっとオレやばいかも」
「今さら後悔しても遅ぇんだよ!!」
「ぐっ……!」
さっきより数倍速く突っ込んで来た相手の拳が、オレの腹に突き刺さる。『波動』でガードはしたが、この手の白兵戦はあんまり得意じゃない。
相手の能力は自己強化系なんだろう。筋力増強か何かか。ようするに自己バフである。
「こちとらイラついてんだ、すぐにくたばんじゃねぇぞ!?」
「っ、はぁ、そりゃ、そうだ。オレくたばっちゃぁ、君、捕まるでしょ」
「そういうこと言ってんじゃねぇッ!!」
相手の逆上はより加速する。正直シンドイが、ターゲットがあの子に向いたり、変に冷静になられて「なかまをよぶ」される方がよほどに面倒だ。とはいえ、
「オラァッ!」
「うぐっ……、たく、仕方ないね」
ーーとはいえ、流石にこのままじゃマジでキツい。このままだとヤバいので、仕方がない。
「はぁ、ほんっと、仕方がない」
「あ? 何がーーーー」
今の今まで威勢が良かったヤツの言葉が止まる。そりゃあそうだ、だって喋ろうにも空気が吸えないんだもの。
「あーあ、結局こうなったか。激レアだよー、オレの本気なんて。基本、手ェ抜きに抜きまくるヒトだから」
気絶した相手を地面に寝かせてから、ほっと息をつく。簡単に無力化できたことから、こいつの推定ランクはCってところか。口の割に呆気なかったのが幸いだったが……。
「ううん、あの子、居なくなっちゃったねぇ。口止めくらいはしたかったんだけど」
まぁあの状況で体が動くようになったらまず先に逃げるよね。普通はそうする。オレだってあの立場ならそうする。
「……他に誰かに見られたり、してなきゃ良いけど」
なんてぼやきつつ。特に効果はないだろうけど、その日はなるべく遠回りをして自宅に帰ったのだった。