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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第1章 アニマル☆サーカス
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第6話 とっておき

「ぴいっ! きゅうっ、るる! きゅうう! きゅうん!」

『あたし、どうぶつじゃないよ、かーばんくる、なんかじゃない!』

 カーバンクルにされた女の子――ゆうねちゃんに、ロコちゃんが魔法を掛けると、聞えてきた言葉。

 ! この声は……。

 間違いない。人間の声と、カーバンクルの鳴き声が、一緒に聞こえてくる?!

「ロコちゃんはね、動物とお話しできる、『おはなし魔法』が使えるんだよ!」

 えっへんと、フィーが胸を張る。これが、ロコちゃんの、魔法。確かにこんなことは、フィーの魔法では起こっていなかった。

「手を重ねて、ロコちゃんの魔力をフィーとうさぎさんにも分けて貰ったんだ!」

 うさぎの手を開いたり閉じたりして確かめる。だけど、外見は特に、ロコちゃんと手を重ねる前と変わりはなかった。おはなし魔法……動物の言葉が分かる、魔法。

「聞えているみたいですね」

 ロコちゃんはわたしたちの様子を見て、緊張していた表情をちょっと緩めて。

「あ、あの……」

 それから、ゆうねちゃんに話し掛けた。

『な、なに……って、しゃべれるようになってる?』

「はい。これなら、もう大丈夫ですよね!」

『ううっ、だいじょうぶなんかじゃ、ない! にんげんにもどしてっ!』

「えっ、喋れなくなったから、泣いていたんじゃ……?」

『それも、そうだけど、そうじゃない! しゃべれたって、ちがうもん!』

「とってもかわいいカーバンクルに、なったのに、ですか? それにこれからは、楽しい楽しいサーカスにも出られるんですよ……?」

『こんな、こんなへんなどうぶつなんて、ちっともかわいくないっ! いやだ、きらい、きらいっ!』

「魔法でお空を飛んだり、動物の仲間たちと遊んだりもできるんですよ……?」

『そんなへんな、どうぶつみたいなことしたくない! にんげんはそんなのしないもん!』

「そ、そんな……」

『あたしはどうぶつじゃないもん、にんげんだもん! ののはちゃんもわたしも、はやくにんげんにして!』

「あの……ゆうねちゃんは、おかしは好きですか?」

『おかし? う、うん、すき、だけど……』

「それならきっと、ゆうねちゃんが大好きなおかしになれて、ののはちゃんもきっとよろこんでるはずですよ……!」

『な、なにいってるの? ののはちゃんに、おかしになんかなってほしくないのに……』

「ゆうねちゃんは、ののはちゃんが大好きな動物に変身できて、嬉しくないんですか……?」

『そんなの、そんな!』

「でも、ののはちゃんはきっと、あなたが動物になってくれたらなって、ずっと願っていたんじゃ……」

『うそだ! そんなのちがう! たすけて、だれか、たすけて……!』

 あ、ロコちゃんは、何を言っているんだろう……? 動物が好きだからって、友達を動物に変えたくなったり、友達の大好きな動物になりたいって思うなんてこと、有る訳ないのに。

『もうやだっ! かえりたい、まほうなんて、どうぶつなんてやだっ……!』

「ど、どうしても、嫌なんですか……?」

 ゆうねちゃんに、ロコちゃんが戸惑いながら尋ねる。

『いやっ! 人間に戻りたいっ! うわああああん……』

 ゆうねちゃんがロコちゃんに吠えて、ぽろぽろと涙をこぼす。

 だけど、フィーのことを見てきたから、嫌でも知っている。この魔法の世界の魔法使い達は……ロコちゃんでも、誰でも、相手を戻せない。

 それに例え戻せるとしても、きっと戻したりなんかしない……。

「そんな……」

 ロコちゃんは悲しそうに俯くと、近くに置いてあったおもちゃ箱から、そっとある物を取り出した。

「す、ステッキ?」

 それは、青と白色の縞模様の描かれた、とても長いステッキだった。フィーが普段使っているピンク色の物よりももっと長くて、七十センチぐらいは有るかもしれない。持ち手の部分がくるんと、しっぽのように丸まっている。

 でも、どうして、ロコちゃんは今、ステッキを……? だってロコちゃんはさっきまで、フィーの様に、道具無しに自分の力だけで魔法を使えていたはずなのに。

 もしかして、魔法に使うためのステッキじゃ、なくて。

「……!」

 ある可能性に行き着いて、がたがたと体が震えてくる。

 魔法に使うためのステッキじゃないのなら、まさか。

 ま、まさかあのステッキでゆうねちゃんを叩いたりして、無理矢理言うことを聞かせる、とか……? 

 いや、ロコちゃんはそんなこと、しないだろうけど。でも、もしも、万が一本当にそうなら、流石にそれは、それだけは、止めなきゃ!

「い、いえっ、そ、そんな乱暴なこと、しませんよ……!」

 だけど、わたしが口を開くと同時に、ロコちゃんは気配を察したのか、すぐに否定した。

「た、大切なサーカスの仲間に、そんな、そんなひどいこと……」

 想像するだけでも恐ろしいという風に、がたがたと震えて目を閉じるロコちゃん。

 その様子は、本当にカーバンクル――ゆうねちゃんのことを思いやっているみたいで……確かに、ロコちゃんはステッキで叩いたりなんかする子じゃないって、はっきりと伝わってくる。

 ロコちゃんは、優しい子なんだな……と思うと同時に、混乱する。

「もー、ロコちゃんは、そんなことしたりしないもん」

 フィーがちょっと頬を膨らませて、わたしに言う。 

 だけど、それなら、あのステッキは何に使う物なんだろう。

「ロコちゃん、マジカルステッキ、ずっと大切にしているんだね!」

 するとフィーが、はしゃぎながらロコちゃんに話し掛ける。

「うん! もしかして、フィーちゃんも……?」

「学校にいた時とおんなじだよ! ほら!」

 そしてフィーはいそいそと、短めのステッキを取り出した。

「えへへ、おそろいの模様!」

「フィーちゃんと一緒……!」

 そして二人はこつん、と短いステッキと長いステッキを交差させて嬉しそうに笑った。その縞模様は色以外は本当にそっくりで。

 きっと、色々な思い出が詰まっているんだろうな……。

「ぴい、ぴいいっ!」

 と、そこで。ゆうねちゃんの甲高く訴える様な泣き声が聞こえてきて。

「あっ……」

 と、ロコちゃんが囁いて、ゆうねちゃんの方を向いて。マジカルステッキを手にしながら、一歩近付いた。

「マジカルステッキはね、とっておきの、秘密の魔法の時に使うんだよ!」

 フィーがわくわくしながら目を輝かせて、そう説明する。

 秘密の魔法?

「本当は……こっちの魔法は、動物さんに使いたくないんですが……ごめんなさい…………」

 ロコちゃんが、寂しそうにステッキをじっと眺めて、それから視線をゆうねちゃんに戻す。

『止めて! ぶたないで! いたいのはやだあっ!』

「こ、怖がらなくても、平気です! 絶対にぶつけたりなんかしませんから……!」

『うそつきっ! しんじないもん、まほうつかいのいうことなんて……!』

 申し訳なさそうに、ロコちゃんが更に一歩、ゆうねちゃんに近付く。

『や、やだ、やめて……』

「な、泣かないで……すぐに終わるから」

 そして、ステッキをゆっくりと持ち上げて……。

「それっ……!」

 ロコちゃんが、こつん、と、ステッキの先っぽを自分の足元に本当に弱く、物凄く弱く、床に打った。

 ゆうねちゃんには、ちっとも当たっていないし、かすりもしなかった。

 だけど。

「――!!!」

 その瞬間、ゆうねちゃんの足元に、模様が細かく描かれた何重もの円が現れて。

 そして、ぼんやりと暗いサーカスのテントの中で、青い光を発して輝き始めた。

 これは……魔法陣?

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