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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第1章 アニマル☆サーカス
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第5話 ロコの魔法

「えいっ」

 突如召喚された女の子――ゆうねちゃんに向かって、ロコちゃんがステッキを振る。

 すると、ゆうねちゃんの全身が煙に包まれて――。

「こほっ、こほっ」

 もくもくもく、と、煙が晴れればゆうねちゃんはもう、そこにはいなかった。

 その代わりに、一匹の動物が、ちょこんと座っていて。

「……??」

 その動物は、不思議そうにぱちくりと瞬きをしていて。

「!!」

 でも、ふと顔を上げて、ロコちゃんと目が合うと、その動物は驚いた表情を浮かべて。

「きゅいっ……!?」

 それから、自分の全身を見回して、もふもふの毛で包まれた体を触ったりして。

「?! ぴ?! きゅっ!」

 高い声で鳴いている動物は、みるみる内に泣きそうになってしまった。

 ……ゆうねちゃんだ。すぐに分かってしまう。表情に、面影が残っているから。

 茶髪のショートヘアも変わる前と同じだから。

 つまり、ロコちゃんの魔法でゆうねちゃんは、動物に、変えられちゃったんだ……。

「ぴぴっ、きゅる……」

 四本足で立って、戸惑いながらロコちゃんや、フィーや、わたしの方を見つめるゆうねちゃん。

 それは、いつもフィーのマジックショーで見る反応と一緒。

 自分に起こったことが信じられなくて、ただただ、怖くて悲しくて不安で。

 わたしもきっと、うさぎの獣人に変えられた時、こんな感じだったんだ……。

 でも、それにしても。

 一体何の動物なんだろう? ゆうねちゃんが変えられちゃったのは。一目見ただけだと、ちっとも分からなかった。

 ほんのちょっと垂れていて、風になびく様に立派な長い耳は、兎に似ているかもしれない。

 だけどその外見は、明らかに普通の動物じゃない。

 全身を覆う長めの毛の色は、綺麗な緑色。前足と後ろ足の先は靴下を履いたみたいに真っ白で。筆の様にふわっと膨らんだしっぽは何と、二本も生えていた。

 マズル――動物の口元から鼻先の部分は、それほど長くない。体の大きさは猫と同じか、其れよりもちょっとだけ小さいぐらい。

 瞳の色は透き通る様な綺麗な紫。

 そして。

「あれは……」

 宝石、だよ、ね……? その動物――ゆうねちゃんの額には、六角形の大きな赤い宝石が、きらきらと輝いていて。飾りなんかじゃなくて、本当に体の一部の様に見えて。

「かわいいっ!」

 かわいいもの好きのフィーがしゃがんで、きらきらと目を輝かせながらゆうねちゃんの頭を撫でる。

「きゅっ!」

 びくっと体を震わせるゆうねちゃん。しっぽがぶわっと更に大きくなって、全身の毛が逆立って、怯えてる。

「――カーバンクル、です」

 不思議に思っていたことが伝わったのか、ロコちゃんがこっちを向いて、そっと言う。

 カーバンクル? そんな名前、どこかで聞いた様な……。幼稚園児の時に好きだった絵本に描かれていたのかな、それとも小学生の時に読んだファンタジー小説に登場したのかな?

 とにかく、カーバンクルって、本当はいないはずの、幻の生き物……幻獣?

「きゅー、きゅん、きゅる……?」

 ゆうねちゃんが首を傾げて、『かーばんくる』って言おうとしている。だけど、人間の言葉は、もう、話せないみたいで。

「そう、カーバンクル、とってもかわいいカーバンクルに変身できたんですよ。成功して、良かったです……!」

 それからロコちゃんもしゃがんで優しくほころんで、カーバンクルになったゆうねちゃんの背中のつややかな毛を撫で始める。

 嬉しそうな優しい表情。

 !

 わたしの背中の毛が、ぞわっとする。やっぱり、やっぱりロコちゃんも、魔法で人間を動物に変えちゃえる子なんだ、フィーと同じなんだ……。

「きゅ……?????」

「えへへ、かわいい~! かわいいかわいいっ!」

 はしゃいでいるフィーが大きな鏡を魔法で出して、ゆうねちゃんに向けた。

「ほら! とっても素敵なカーバンクル! ロコちゃんの魔法って凄いんだよ!」

「ぴ、ぴいっ!!!?」

 鏡に映った自分の姿を見て、ゆうねちゃんのけが更に逆立つ。ゆうねちゃんも鏡の中のカーバンクルも、驚きながら全身を触っていて、それからまっすぐにじっと見つめて……。

「ぴ、きゅうう、くきゅ……!」

 ぺたんと地面に座り込んで、大粒の涙を流し始めて。

「きゅう、きゅうう、ぴいっ、ぴ……! きゅ、きゅう!!」

 悲痛な高い声が突き刺さる。もう何回も、何回も、同じ様なことを見ているのに、未だに慣れない、慣れちゃいけない。こんなの……。

「な、泣き止んで……ご、ごめんなさい!」

 と、慌ててゆうねちゃんをなだめようとするロコちゃん。

「ぐすっ、きゅ、きゅう、きゅる……!」

 でも、勿論意味は無くて、ゆうねちゃんは泣きじゃくっていて。

「ど、どうしましょう……」

 困ったロコちゃんも、同じ様に泣きそうになっちゃっていて。こんな時、フィーなら、女の子が泣いていても平気で気にしていない――というか、喜んでるって勘違いするところだけど……。

「――ロコちゃんはね、人間を他の動物に変える魔法がとっても上手なんだ! どんなに珍しい動物でも、おはなしにしか出てこない様な動物でも、変えることができるんだよ」

 いつの間にか右隣に立っていたフィーが背伸びをして、うさみみに耳打ちをする。

「そう、なんですか……」

 どうやら、カーバンクルはこの世界でもとても珍しいか、そもそも普通はいない動物みたいだ。

 その声は、やっぱりいつもよりも純粋で、弾んでいて、心の底からロコちゃんのことが……そして、ロコちゃんの使う魔法が大好きだって伝わってくる。

「えへへ、だけどね、ロコちゃんの魔法がもっと凄いのは、ここからなんだ!」

「そ、それほどでもないよ、フィーちゃんってば……!」

 するとロコちゃんが恥ずかしそうにフィーのローブをくいっと引っ張る。

「ううん、だってフィー、カーバンクルなんて、初めて見たんだもん! こんなにかわいいだなんて、びっくりしちゃった! 流石だね、ロコちゃん!」

「そ、そんな、恥ずかしいよ……!」

「あ、ロコちゃん、赤くなってる!」

 誇らしげにフィーがロコちゃんを褒める。そして、もじもじとしているけれど、うれしそうなロコちゃん。

「……?」

 それにしても、凄いって? だって、女の子を勝手に動物に変えるのは、フィーだっていつもやっていることなのに、どう違うんだろう。

 それに、変えられちゃったらもう人間には戻れないところも、同じなはずなのに。やっていることはどっちも酷いことなのに、凄いって、どこが凄いんだろう……。

「でも、そうだね、フィーちゃんとうさぎさんに見てもらった方が、上手くできるかもしれないかな」

 そう言うとロコちゃんが胸にそっと手を当てて、すーっと深呼吸して。

「フィーちゃん、うさぎさん。ここに」

 それから右の手の平を私達に差し出した。

「分かった!」

「……はい」

 何とか堪えて、フィーと同じ様に、ロコちゃんの手の平に自分の右手を重ねた。人を変身させる時の、あの煙は出て来なくて、ほっとしたけれど……。

『い、いやだ!』

 えっ、今の声は? 

「ぴいっ! きゅうっ、るる! きゅうう! きゅうん!」

『あたし、どうぶつじゃないよ、かーばんくる、なんかじゃない!』

 ! この声は……。

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