表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第1章 アニマル☆サーカス
5/41

第4話 『友達』

「フィーちゃん! 久しぶり……!」

 フィーに連れられて入ったアニマルサーカスのテントの中。フィーの友達――ロコちゃんは水色のオーバーオールを着ていて、胸元には赤色の細いリボンが結んであった。

 長めの髪の毛の色も淡い青色で、腰まで届きそうなぐらいの三つ編みにしている。

 前髪もちょっと長めで、比較的整って切り揃えられている。

 身長はフィーと同じ、135センチほどで、見た目もフィーと同じ十才ぐらいに見えた。

 体つきも華奢で、まだまだ幼さを残す女の子だ。

 長いまつげと、綺麗なエメラルド色の瞳を持った優しそうな目。

 耳はフィーの様には尖っていない、普通の形をしていた。

「まさか、フィーちゃんに会えるなんて思ってなかった! 嬉しい、ほんとに嬉しいな……!」

 ちょっとかすれた声でロコちゃんは言う。それほど甲高くない、落ち着いた声音。

「この辺りでロコちゃんのサーカスがやってるってお話を聞いて、来たんだ!」

「そうなんだ! ありがとう、フィーちゃん……!」

 フィーとロコちゃんはぎゅっと抱き合って、声を掛け合っている。フィーはいつも以上に、とっても楽しそう。

 ロコちゃんも本当に嬉しそうに笑っていて、二人が本当に仲が良いことが、これだけでも伝わってくる。

「……。そ、そちらの方はどなたですか……?」

 すると、抱き合う手をそっと解いたロコちゃんが、フィーの背中に隠れる様にして、不安そうな上目遣いでそろっとこっちを見つめてきて。

「え、えっと」

 ど、どうしよう……? 少し気弱で、おどおどしたロコちゃんの様子がフィーとは全然違って、かえって張り詰めた緊張が漂って、戸惑ってしまう。

「この子は、うさぎさんだよ。マジックショーのアシスタントをしてくれているの」

 すぐに返事できずにいると、代わりにフィーがそう答えて。

「は、はい。そうです。よろしく、お願いします」

 結局それに乗っかる感じで、慌てて頭を下げた。

「そ、そうなんですか。よろしくお願いしますね、うさぎさん」

 ロコちゃんは、ちょっとだけ安心してくれたみたいで、ぺこりとお辞儀をした。

「わたしの名前は、ロコ、です。フィーちゃんとは、魔法学校の時から一番の友達で、ずっと一緒だったんですよ」

 想像していたよりも、普通の子みたい。ちょっとだけほっとする。

 少なくとも、フィーよりはまともそうだけど……。

「一年生の時からずっと、同じクラスだったんだよ! 入学式の日にロコちゃんが、話し掛けてくれたんだよね……!」

 フィーがそう付け加えると、ロコちゃんの表情が和らいで、ほころぶ。

「うん! それで、魔法の実験の時も、休み時間も、お昼ごはんの時も、フィーちゃんとずっと二人一緒で……!」

「学校が終わったら、色んな場所に遊びに行ったりしたよね。ロコちゃんはとっても凄いんだよ! 二年生の遠足の時なんて――」

「だ、だめ、その話は恥ずかしいよ、フィーちゃん……!」

 恥ずかしそうに頬を赤らめて、両手を振ってフィーを止めるロコちゃん。かわいいな……。そんな様子を見ていると、わたしまで、何だか緊張が少しだけほぐれて――。

「あっ、そうそう、実はね――」

 だけど。フィーがふと、トランクを開けて。心臓が一気に、早鐘を打つ。

「はい、これ、ロコちゃんにプレゼント!」

 フィーが取り出したのは、チョコレート。さっきの子を魔法で変えて作った、チョコレート……。

「ロコちゃん、甘いおかしが大好きだったよね!」

「わあ! フィーちゃん、ありがとう! 覚えててくれたんだ……!」

 受け取るロコちゃんの方も、感動した表情をしていて。

「当たり前だよ。魔法学校に居る時は、ロコちゃんとおかし、いっぱい作ったもんね!」

「クッキーにケーキにキャンディに、色んなのを作って食べて……懐かしいね」

「ねえねえ、ちょっと食べてみて! フィー、ちゃんと魔法上手くなってるか、ロコちゃんに確かめて欲しいの!」

「うん! 良いよ……!」

 ロコちゃんがそっと箱を開けて、船の形のチョコレートを一つ食べてみる。

「おいしい! やっぱりフィーちゃんのチョコレートが一番おいしい……!」

 えへへ、とほがらかにロコちゃんは笑っている。やっぱり、この子もフィーと同じなんだ……。と、泣きそうになって、何とかこらえる、こらえなきゃ……。

「あ、そう言えば――」

 するとロコちゃんが、何かを思い出した様にはっとする。

「実は、フィーちゃんに一つ、頼みたいことが有るんだ」

「うん。どうしたの?」

 フィーに、頼みごと? 嫌な予感がする。 

「もう一人、女の子を出して欲しいんだけど……」

「勿論だよ! えいっ!」

 すぐにフィーはステッキを振るって、自分より少し年下ほどの女の子をその場にぽん!と召喚した。今度は茶髪でショートヘア―の、ちょっと気の強そうな子だ。

「ここ、どこ?」

 きょろきょろと辺りを見回していた女の子と、ぱちっと目が合う。

「――?」

 そしてその子は、さっきの女の子と同じ様に、びくっと震えて。

「う、うさぎ? おばけうさぎ……?」

 そんな声が聞こえてきて。女の子の瞳は、恐怖で揺らいでいて。驚かれても仕方ないって分かってるのに、でも、こんなに怖がられるなんて。悲しくなるのを堪えようと、俯いていると。

「大丈夫。うさぎさんはとっても良い子なんだよ!」

 と、フィーが明るく女の子に話し掛けた。

「う、うさぎ、さん?」

「その通り、それからね、この子はサーカス団のロコちゃん! フィーはね、マジシャンのフィーって名前なの! そしてよろしくね!」

 フィーが自分とロコちゃんを紹介する。

 屈託のないフィーの笑顔に安心した……してしまったのか、女の子は少し落ち着いた様に、こくりと頷いて。

「う、うん。あたしは、ゆうねっていうの。それでね」

 けれどすぐに、女の子はまた、辺りを不思議そうに見て、こう言った。

「ののはちゃん、どこに行っちゃったのかな? いっしょにあそんでたのに、おうちにかえっちゃったのかな?」

「あっ……」

 『ののはちゃん』。女の子――ゆうねちゃんのその言葉に、うっかり声が漏れる。ののはちゃんって、もしかして。

「ののはちゃんって、ゆうねちゃんと同い年ぐらいの、長い黒髪の女の子のことかな?」

 同じことにすぐに気が付いたフィーが、女の子に尋ねる。

「うん。おねえちゃんたち、しらない?」

「それなら、ののはちゃんはここにいるよ!」

 フィーが、ロコちゃんの持っていたチョコレートの箱を指差した。

 ……!

「チョコレート? なにいってるの、おねえちゃん?」

「えへへ、ののはちゃんは、不思議な魔法でさっき、みんな大好きなチョコレートに変身しちゃったんだ! 甘いお砂糖でみんなを喜ばせる、ふわふわチョコレートに!」

「え、え、ののはちゃんが、チョコレートに……?」

 信じられない、という風に目を見張るゆうねちゃん。

「そ、そんな、ののはちゃんが、ののはちゃんがチョコレートになるなんて、うそだ……」

「? うそじゃないよ?」

「う、うそだ、うそ……う、うううっ」

 言葉の上では否定しているけれど、フィーが嘘を言っていないって伝わってしまったみたいで、ゆうねちゃんは声を上げて、ぽろぽろと泣き始めてしまった。

「あ、あれ? どうして、どうして泣いてるの?」

「だ、だって、だって……」

「あ! もしかして、チョコレートは好きじゃないのかな?」

「ちがう! ののはちゃんは、チョコレートじゃないよお!」

「それなら、別のおかしならどう? キャンディーでもアイスクリームでもケーキでも、何でも変えることができるよ! ゆうねちゃんの好きなおかしに変えてあげるよ!」

「やだ! ののはちゃんは、おかしじゃない!」

「ご、ごめんね。フィーはね、なぐさめようとしたんだけど……」

 珍しくフィーが困って、慌ててる。今の、なだめているつもりだったの……? 

「あ、あの……ロコ、さん」

 静かに見ていればいいのに。気が付けばわたしは、ロコちゃんに話しかけてしまっていた。

 友達がお菓子にされちゃっただけじゃない。

 フィーの魔法で呼び出された、ゆうねちゃんもきっと、きっと。

「どうしましたか、うさぎさん?」

「ゆうねちゃんを、どうするつもりですか……?」

 きっと泣いているゆうねちゃんに、魔法を掛けるんだ。で、でも、もしかしたらロコちゃんはそんなことしないのかも……。

「実は、今日の演目に参加する予定だった動物さんが一人、風邪を引いてお休みになってしまって……」

 だけど、ロコちゃんはそう答えると、ののはちゃんを戻してっ!と訴えるゆうねちゃんのそばに寄って、ひざを曲げて目の高さを合わせた。

「あの……大丈夫、ですか?」

「ひ、ひどいよ、ののはちゃんは、わたしの、ともだちなのにっ!」

「そうですか……ごめんなさい」

「はやくっ、も、もどしてっていってるでしょ、ののはちゃんを!」

「で、でも、わたしたちの魔法だと、もう戻せなくて……」

 ロコちゃんがおどおどしながら、ゆうねちゃんにそう言うと。

「うっ、ううううっ」

 じわりじわりと、ゆうねちゃんはもっともっと涙を浮かべて。 

「や、やだ! 早く、早くもとに戻して!!」

 とうとう、ゆうねちゃんは大きな声で泣き始めてしまった。

 でも、戻らない、本当にもう戻らないんだ、ののはちゃんは。ぎゅっと、胸が締め付けられる。

 ……助けてあげたい。なのに、何にもできない、怖いから、自分がおかしにされるのが怖いから、わたしは何にもできないんだ。いつもこうだ、ずっと見ているだけなんだ……。

「え、えっと、どうしましょう……」

 痛くはないみたいだけど、戸惑うロコちゃん。目線を悩む様にさまよわせて、悲しそうな顔をして……。だけどすぐに、ハッとして、またゆうねちゃんの方を向いて。

「……ののはちゃんは、動物は好きですか?」

「えっ? ど、どうぶつ?」

 いきなりのロコちゃんの質問に、ゆうねちゃんがぴたっと叩く手を止める。

 動物? しかも、ゆうねちゃんじゃなくて、ののはちゃんが動物が好きだったかって……どうして、そんなことを訊くの?

「の、ののはちゃんは、どうぶつ、とっても好きだった、けど……」

 わたしと同じで、質問の意図が掴めないんだろう、ゆうねちゃんはぱちぱちと瞬きをする。

「良かった、わたしも動物、大好きなんです。それで、ののはちゃんは、どんな動物が好きか、分かりますか?」

「ぐすっ、の、ののはちゃんは、ののはちゃんは、ねこやいぬやきつねや……」

 ゆうねちゃんは一瞬、こっちをちらっと見る。

「うさぎみたいな、かわいいどうぶつが、だいすきだったの……」

「ねこ、いぬ、きつね、うさぎですか……。……」

 答えを聞いたロコちゃんは、目を閉じて小首を傾げる。何か考えている様に。

「……そうですね、それなら」

 だけどそれからすぐに目を開けて、ほっとして息をついて。

「そんなのいいから、はやく――」

「えいっ!」

 再びロコちゃんに訴えようとしたゆうねちゃんに向かって、指を振る。

「きゃっ!」

 ぽんっ! すぐにゆうねちゃんは、もこもこした水色の煙に包まれて――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ